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21 ダイロの魂を救う者

 青い光と、紅い光が大きな衝撃波を生みながらぶつかった。その波は、二人が並んで歩ける程の狭い階段を、押し広げ、月明りがその場を照らしていた。

 カマルは、地下牢の一番奥に咄嗟に逃げ込んだが衝撃波を避ける事が出来ず、瓦礫に埋もれてしまった。しかし、ぶつかった大きな二つの力の一つが、ルナディクトの物だったので、カマルにはそれ程のダメージはなかった。ルナディクトの力には、耐性があるのだ。

 カマルは、自分たちに圧し掛かる瓦礫の隙間から、二人の戦いを見詰めた。今出て行ったら、たちまち巻き込まれてしまう。自分一人ならなんとかなっても、抱えている最後の一人には耐えられないだろう。彼は、先程の衝撃でやっと肩で息をしているような状態だった。体に出来た無数の切り傷の完治も時間が掛かっている。

 ルナディクトは、きっとこの場から離れてくれるはずだ。それを信じて、息を潜めた。

 しばらくすると、大きな力がぶつかり合う衝撃波は空気を伝いカマルの元まで届いていたが、物が崩れる音や、対峙している二人の気配が遠のいた事を感じだ。カマルは、瓦礫を押し除けた。その場は、もうもうと土埃が舞い上がっていた。

 そこへ、一陣の風が吹き土埃を浚っていった。そして、カマルは目に飛び込んできた光景に絶句した。

 カマルは大きなすり鉢の底に立っていたのだ。

『カマル、カマル。大丈夫ですか?』

 カマルの頭の中に、声が響いた。

『……クレイオ先生?』

『ああ、大丈夫そうですね。安心しました』

『先生、これは……』

『ダイロの体を乗っ取ったクラトとルナディクトの力がぶつかった為に、西部地区はあちらこちらで、大きな穴が開いてしまいました』

『東部地区はどうですか?』

『東部地区は、今のところ無事なようです』

『分かりました。先生、怪我人を一人抱えているので、東部地区へ運びます。何かお手伝いが必要なら、人を集めますが……』

『そうですね……。東部地区の地上を少女が一人歩き回っています。その子と接触してください』

『人間の少女ですか?』

『そのようです』

『なぜ、地上に……』

『母親の目を盗んで、出てきてしまったようですね。きっと、あなたに声を掛けるでしょう。あなたは、少女の要求に従って下さい』

『しかし、危ないのでは……』

『少女はそれを、十分承知しているようです』

『分かりました』

 カマルは、瓦礫の下から最後の一人を掘り出し、肩に担ぐとすり鉢の淵へ飛んだ。クレイオの話通り、地上は、酷い有様になっていた。

 カマルは、一気に東部地区へと飛んだ。東部地区では、西部地区で今何が起こっているのかを誰も知らないようで、穏やかな時間が流れていた。最後の一人を家族に引き渡すと、少女がカマルに近づいてきた。

「お願い! 私を、あっちに連れていって」

 少女は、真っ赤に泣きはらした目をカマルに向け、西部地区を指さした。

「あっちは、危ないよ」

「いいの。あっちに行きたいの」

「分かった。しっかり掴まってね」

 カマルは、少女を抱き上げると少女が呼吸できる程度の速さで飛んだ。途中、東部地区と西部地区を分けるメインストリートに近づいた時、道路に敷き詰められていた紅い石が突然強い光を放ち、天へと昇っていった。その光は、まるで東部地区を守る防護壁のように、カマルには思えた。それと同時に、カマルが抱えていた少女の体温が急に上がったように感じだ。カマルは驚いて、少女の顔を覗くと、泣きはらした赤い目を細めて笑顔を見せた。

 この子が、やったのか?

 さっき自分が通った時は、メインストリートには何も起こらなかった。

 この子は、人間なのか?

「アイリスは、人間よ」

 カマルの頭の中を覗いたかのように、少女から返事が返ってきた。

「紅い石が、味方してくれたの。みんなを、守ってくれるって」

「……そうなのだ」

 カマルが、驚きながらも引き攣った表情で相槌をうつと、アイリスは、にっこりと微笑んだ。

 カマルは、クレイオの気配を探り、死の山の裾へ向かって飛んだ。

 生き物を誰も寄せ付けないと言われていた、死の山はルナディクトの復活によりほんの少し生き物を受け入れたようだ。その場所には、西部地区で暮らす大勢のヴァンパイアが避難してきていた。集まっているヴァンパイアたちには、怪我人や病人はいないようだったが、皆不安な表情を浮かべていた。

「カマル、こちらへ」

 ヴァンパイアたちが道を開けた先に、クレイオが立っていた。その足元には誰かが横たわっている。

 アイリスは、その横たわっている人物を見ると、カマルの腕から飛び降り駆け出した。カマルも驚いて、アイリスの後を追った。

 アイリスは、横たわっている人物に覆いかぶさり泣き出した。

 カマルは、横たわっている人物を見て驚愕した。それは、クラトの体だった。クラトの体は、骨に薄っすらと皮がのっているだけで、一見、生きているのか死んでいるのかも分からなかった。

「カマル、これが本来のクラトの体です。ダイロの体を乗っ取ったクラトは、ダイロの魂をこの体の中に閉じ込めました。クラトは、ダイロの魂を無防備な姿でこの体に押し込んだ為、ダイロの魂はこの体の中でもがき苦しんでいるはずです。彼の魂を安全に取り出す為には、彼に繋がる二人の人物が必要です」

「二人の人物、ですか?」

「そうです。一人は、このアイリス。もう一人は、彼の従者です」

「しかし、ラゴスは私が……」

「知っています。ラゴスの魂は、あの後永遠に地獄に捕らわれる事無く、救われています。そして、あれから長い時間が経過しました。この国の何処かにラゴスの魂を持つ者が生まれているはずです。それを、カマルに連れて来て欲しいのです」

「私に、ですか? 何か手掛かりのようなものはありますか?」

「手掛かりですか……」

 クレイオは、一瞬考えたようだったが、すぐに胸のポケットから小さな鏡を取り出し、鏡に向かって話しかけた。

「プシュ、聞こえますか?」

『はい、聞こえますよ。お久しぶりですね、クレイオ。ティアナは元気にしていますか?』

「たぶん元気ですよ。ルナディクトが、何の支障もなく動けていますから……」

『そうですか。安心しました。ところで、何の御用ですか?』

「ラゴスの魂を何処に送ったか、教えてもらえませんか?」

『それは、あなたにもお話出来ない事ですよ』

「それを承知で聞いています。ダイロの魂を救う為です。教えて下さい」

『……仕方がありませんね。では、少しだけお教えしましょう』

「ありがとうございます」

『ラゴスの魂は、現在五歳です。クラトから身を守る為に、東部地区のヴァンパイアの夫婦に預けました』

「東部地区のヴァンパイア夫婦の五歳児だね」

『そうです。ごめんなさい。これ以上はお話できません』

「ありがとうございます。すぐにでも、探し出せそうです。それから、その人物が見つかった時には、ダイロの魂を移します。力を少し貸して下さいね」

『承知しました』

 鏡の中の人物は、にっこりと微笑むとスッと姿を消した。

 カマルは、クレイオと鏡の中の人物とのやり取りを、口をポカンと開けて眺めていた。

「カマル、話は聞きましたね」

 鏡をポケットにしまい込んだクレイオに声を掛けられ、慌てて口を閉じ何度も頷いた。

「では、探してきて下さい。大急ぎで!」

 カマルは、頷くと東部地区へと飛んだ。


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