19 メランブラッド家へ
メランブラッド家に程近い、茂みの中に十数人の東部出身の若いヴァンパイアたちが集まっていた。
「本当に、やるのか?」
「当たり前だろう」
「本当に、ここにあるのか?」
「間違いない。ある人間にルナディクト様の思考を探ってもらったから」
「お前、そんな事までしていたのか」
「だって、しょうがないだろう。このままでは、ルナディクト様は動かないぞ」
「だからと言って、俺たちが勝手な行動をしていいのか?」
「なんだよ、今更裏切るのか?」
「せめて、カマルさんにだけでも話して来た方が良かったんじゃないか?」
「あの人の耳に入ったら、止められるに決まっている」
「そうだ。西部地区の主力メンバーは病に罹っている者が多い、今しかないんだ」
「でも、こんなことをしてもルナディクト様は、お喜びにならないと思うが……」
「しかし、今のルナディクト様は魂が欠けておられる。それを取り返すだけだ」「きっと、お喜びになるはずだ」
敵陣ともいえる場所で、口論は続いた。
「ルナディクト様が、今、動かないのは、何かお考えがあるからだ」
「そうだ、そのお考えを妨げる事は出来ない」
結局、ここまで来て半分以上の者が手を引き、スッと姿を消した。残ったのは、たったの四人。
「俺たちだけでも、やるぞ」
四人の士気は、ますます上がっていった。
四人は、一番怪しまれないだろう使用人出入り口から、屋敷の中に入った。屋敷の中は、人の気配が全くしなかった。使用人も、病に罹り伏せっているのかもしれない。
四人は、地下へと続く階段を探した。階段は、いくつもあった。
そのうちの一つは、貯蔵庫へ通じているもの。あと、地下室へ通じる物が、三か所。そして、階段を降りた先が行き止まりになっているものが、二か所。どれも、四人が探しているような地下への階段ではないようだった。
「変な屋敷だな」
「何で、行き止まりにわざわざ階段付けるんだ?」
「どれも、違うみたいだな?」
「地下へ通じる階段がまだあるのか?」
四人は、やっとの思いで地下通路へと続く階段を見つけた。それは、玄関ホールの床下にあった。縄梯子で降りると、細い通路がずっと先まで続いていた。 四人は、その一本道の通路を歩きだした。
通路は、なだらかな下り坂や上り坂が続いたかと思うと、上り階段や下り階段が数段あり、右へ左へとくねくねと曲がっていた。しかし、分かれ道は何処にもなかった。ただ、一本の道がずっと続いていた。
四人は、どれくらいの時間歩いただろうか? ただ前を見て歩くだけの道なのに、なぜか徐々に体力を奪われている。メランブラッド邸からはだいぶ離れてしまっているのだろう。方向感覚も失われた四人は、段々と不安になってきた。
「この道、何処に続いているんだ?」
「いつまで歩けばいいんだ」
「今、地上でいったらどの辺りだろう?」
「この通路で間違いなかったのか?」
四人はとうとう、座り込んでしまいました。気怠い体を壁にあずけ、肩でハアハアと呼吸を始めた。そのうち、意識も遠のいていった。
『愚かな奴』
ぐったりとしている四人の頭上を、フワフワと青白い光が浮かんでいた。
四人が目を覚ますと、そこは地下の独房のようだった。そこには、廊下を挟んで、いくつもの独房が並んでいた。先ほど、見つけた階段を降りた先にこのような場所があった。
四人は、お互いの無事を確かめあうとホッと胸をなでおろした。捕まえられてすぐに殺されてしまっても可笑しくない事をしているのにも掛かわらず、生きて居られたのだ。
そこへ、フワフワと青白い光が現れた。その光は、牢の中を覗くように動き回った。
『お前たちは、何しにここへ来た?』
青白い光は、四人の頭の中に直接話し掛けて来た。その声は、威圧感のある男性のものだった。
「……」
四人は、恐ろしさのあまり何も答えられなかった。青白い光は、怒っているかのように、火の手をあちらこちらへ伸ばして来た。
『何も答えられないのか? ポイニーブラッド家の配下の者は腰抜けばかりだと言う事か。ハハハハ……』
青白い光は、ボワッと大きく膨れたかと思うと、スッと消えてしまった。
四人は、膝がガクガクと震えていた。立っている事さえできずに、尻餅をつく者もいた。
四人の頭の中では、まだ先ほどの声が響いていた。彼らの誰もが聞いた事のない声だった。あの声は、誰なのだろうか?
四人は、そのまま数日間その牢に放置された。食事も水も与えられない彼らの体力は次第に、衰弱していった。
東部地区では、侵入を拒み戻って来たヴァンパイアたちが、侵入した四人の帰りを待っていた。その間様子を見に行った者も居るが、気配を辿ってみても、途中で途絶えてしまっていて分からなかった。彼らの手がかりも全くなく不安は募るばかりだった。四人の親たちも、心配し始めた。
彼らは、四人の親たちに、事情を話した。母親たちは泣き崩れ、父親たちは浅はかな息子たちに呆れ、同席していたカマルに助けを求めた。
カマルは、すぐにルナディクトへと知らせた。ルナディクトは「そうか」と一言呟いただけで、考え込んでしまった。
長い沈黙の末、ルナディクトは静かな声で話出した。
「メランブラッド家に行ってくる。僕に付いて来るのはカマルだけだよ。他の者には、一切手出しさせない」
「承知しました」
ルナディクトからの伝言は、一斉に東部地区に流された。そして、西部地区で労働を行っている者たちへも伝えられた。
ルナディクトは、メランブラッド家へ赴く前に、地下空間にいるアイリスを訪ねた。
「アイリス、もうすぐ君の願いを叶えてあげられるよ。待たせてしまってすまなかった」
「頑張って下さいね」
「僕は、これからアイリスが会った西部地区のヴァンパイアに会いに行く。彼に伝えたいことはある?」
「あのね、これを渡して下さい。それと一人じゃないよって伝えて下さい」
アイリスは、小さなナイフで指先をほんの少し傷つけ、そこから出てくる血を差し出した。
ルナディクトは驚きながらも指先の血に小さなバリアを張り、そっとポケットにしまった。
「分かった。必ず渡して伝えるね」
ルナディクトはアイリスの頭をそっと撫でると、意を決したようにメランブラッド家に向かった。
ルナディクトとカマルが、国の中央を縦断する太い紅い道を超えると、西部地区の生まれ変わったヴァンパイアたちが、一斉に集まって来て跪いた。それと一緒に、クレイオもやって来た。
「ルナディクト様、行かれるのですか?」
クレイオは、穏やかな表情のルナディクトに微笑み掛けた。
「先生、色々とお力を頂いてありがとうございました。はい、行ってきます。でも、少し不安もあります」
「不安?」
「はい。僕が思っていた人物と、違うような気がしているのです」
「そうですか? その不安は、実際に会ってみれば解決できるでしょう」
「そうですね。もしも、争いになった時は、みんなを非難させて頂けますか?」「承知しました。あなたの納得がいく方法で決着をつけて来てください」
「ありがとうございます」
ルナディクトは、クレイオに一礼するとメランブラッド家を見詰め、スッと姿を消した。
「さあ、もうすぐ平和が訪れるのですね。みんなの笑顔が溢れる、平和な暮らしが……」
クレイオは、この地に定住してからの様々な出来事を思い出しながら、ルナディクトが向かったメランブラッド家をしばらく眺めていた。
ルナディクトとカマルは、メランブラッド家の玄関に付いた。屋敷の中からは、何の音も聞こえない。カマルが、ノッカーに手を掛けたその時、玄関の扉が大きな青白い光に包まれた。




