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14 命を守る地下空間

 ルナディクトは、目が覚めると会議を開くことにした。

 自分が表に出ることにまだ迷いはある。だからこそ、人々の暮らしぶりを知る必要があると思ったのだ。それを知ってからでも、遅くないのではないかと。

 会の参加者は、ヴァンパイアはルナディクトとカマルの二人、人間は長老と支部長が三名の計六名で行われる事になった。

 話の場をどこにするかで、ルナディクトが頭を悩ませていると長老がある場所を提案してくれた。 

「その空間は、ある条件を満たさないと、入口も見つけ出すことが出来ないのです。それと、他の地下道とも繋がっていませんので安全です」

 長老は、隣に立つルナディクトを仰ぎみるように話し掛けて来た。

「ある条件とは何ですか?」

「それは、この国を他者から守り平和をもたらしたルナックとティナの血を引く者が人間と一緒に入口を探すということです」

「僕と、ですか?」

「そうです。あなた様が居なければ、その空間は現れないのです」

「では、僕の片腕だけでもあれば見つけることが出来るのですか?」

「ハハハハ……。面白いことをおっしゃるのですね。その空間へ入る為には、あなた様に流れる血の他に心も必要なのですよ」

 ルナディクトは、不思議に思った。

 この地の事や、ポイニーブラッド家の事を、なぜこの長老はこうも詳しく知っているのだろう。自分の方がずっと、長生きをしているのに……。

 

 その空間の入口にある大きな岩は、ルナディクトを呼んでいるかのように、仄かに紅い光を放っていた。

 その光にルナディクトが手をかざすと、心の中を何かが掠め通ったような気がした。そして、仄かに紅く光っていた大きな岩が消え、ぽっかりと大きな口を開けた。

『何?』

 記憶の部屋にいるティアナの驚きの声が頭の中で響いた。

『ティアナ、驚かせてごめんね』

 ルナディクトは、心の中でそっと呟いた。

『ルナディクト、どうかしたの? 私が此処へ来た時の様に、部屋中が真っ赤に染まったの』

『大丈夫、心配しないで。紅い光が、僕を確認しただけだから』

『そう。気を付けてね』

『ありがとう』

 ルナディクトは、そっと胸に手を当てると微笑んだ。

 その入口からは、長い地下へと続く階段が見えた。

 階段は、大柄なヴァンパイアにとっては狭く、少し腰を屈めないと通れなかった。

 ルナディクトが入口の傍にいる間は、入口は開いていたが、遠ざかると大きな岩が現れ、元のように塞がってしまった。

 階段を形作っている岩も、やはり仄かに紅く光っているため、灯を持ち込む必要もなく、人間の目でも足元がよく見えるようだった。

 しばらく降りて行くと、また大きな岩が仄かに紅く光っていた。

 その光にも、ルナディクトが手をかざすと岩はスッと消えた。今回は、心の中を覗かれる事はなかった。

 そこには、天井が高く奥行きのある広い空間が現れた。

 その地下空間の左右の壁に沿って、地下水が流れる小川がそれぞれ一本ずつあり、幾つもの小さな橋が架けられて、その先には扉があった。

 空間の中央には、大きなテーブルと幾つもの椅子が置かれていた。

 空気は正常に保たれていて、空間内は月明りに照らされているように明るかった。

「この空間は、この地にまだ神が導き手としていらっしゃった頃、神の手によって作られた物です。その後、ルナックとティナが手を加え、条件が整わない限り見つけることが出来ないようになりました。そして丁度この真上が、ヴァンパイアの皆さんが隠れ家として使用している洞窟になります」

「なぜ、あなたはそんなに詳しいのですか?」

 ルナディクトは、ずっと不思議に思っていたことを聞いてみた。

「それは、私たちの種族にだけ代々受け継がれているものがあるからですよ」

「でも、それだけでは正確には伝わらない物もあるのではないですか?」

「そうですね。でも、私たちが困った時に手を差し伸べて下さる方も、いらっしゃいますので、ご心配には及びません」

「それは、どなたですか?」

「あなた様もよくご存じの方ですよ。お小さいころに勉強を教えて頂いたのではないですか?」

「僕に、勉強を? ……クレイオ……先生?」

「そうです。あの方は、荒れ果ててしまったこの国で、ずっと私たちを励まして下さり、色々な助言をして下さいました」

「そうなんですか。あの先生なら、納得です」

 長老は、ルナディクトの返答に満足したのか、皺くちゃの顔をさらに皺くちゃにして微笑んだ。

 テーブルとイスの埃を拭き、其々が席に着いた。

「では、始めますか。まずは、みなさんの暮らしぶりについて教えて下さい。私が気づいていないこともあるかもしれませんので……」

 ルナディクトの一言で会議が始まった。

 東・西・中央の支部長が、それぞれの地区についての報告をした。

 東支部は、争いが起こる前の状態に近い生活をおくれているようだ。中央支部は、まだ電気が通っていない所があるようだが、他の面では問題ないようだ。  

 一番深刻なのは、西支部だ。

 西部地区に一番近い事から、ライフラインの遅れもあるが、人々の精神的不安が他の支部よりも問題になっていた。

 西部地区のヴァンパイアも昼間は全くと言っていいほど、外を歩く事はなくなった。そして、夜は、力が強いヴァンパイアだけが、地上で活動しているようだが、部下をけし掛けてくるようなこともない。紅く光る道を彼らが恐れている事と、彼らを束ねていた、メランブラッド家が、表に全く出てこなくなった事が、あちら側の志気を落としている原因でもあるようだった。

 そんな情勢でも、人々の不安は拭いきれないのだ。

 彼らの不安を取り除き、平穏な生活を保障するためには、やはりルナディクトが表に出て、西部地区のヴァンパイアも従えなければならないだろう。

 しかし、魂が欠けているルナディクトにはそれを成し遂げるための力がなかった。

 魂の欠片を取り戻す事が先決だ。

 自分でも、探してみたが見つけることが出来なかった。そこでティアナの力を借りた。

 ティアナの話では、メインブラッド家の地下で、何かがルナディクトの魂を見張っているようだということだった。

 ルナディクトが、魂の欠片を取り戻そうと動けば、あちらのヴァンパイアも声をあげるだろう。そうなると、犠牲になるのはやはり人間たちだ。

 不安を抱えている人々に、更なる不安を強いることは出来ない。

 どうしたら……。

 ルナディクトが、堂々巡りのような思考に陥っている時、長老が静かに話し掛けて来た。

「ルナディクト様、何を考え込んでいるのですか?」

「それは……。今の私には、皆さんを守る力が無いので、どうしたものかと……」

「ならば、あなたの力を取り戻せば良いのではないですか?」

「しかし、私が動き出すと、せっかく今まで築いていた皆さんの生活を、一時取り上げる事になってしまいます。それでは、西支部の方々は、もっと精神的な不安を抱える事になります」

「そうでしょうか? 私は、違うと思いますよ」

「どうしてですか?」

「私たちの先祖たちは、とても幸せな暮らしをしていたと記録にあります。そんな生活を、私たちは望んでいるのです。その為の、最後の苦労や不安を乗り越えるだけのものは持っていますよ」

「しかし、どれだけの時間を要するか判らないのですよ?」

「ほんの一時ですよ」

「どうして、そう言い切れるのですか?」

「クレイオ先生が、おっしゃっていました」

「クレイオ先生が……」

 ルナディクトの言葉に、人間たちが深く頷いた。

「先生は、半年前にこうおっしゃっていました。『ルナディクト・ポイニーブラッドは、後数か月で目を覚ますでしょう。この地を守る為、平和な国を作る為に……。しかし、ルナディクトの体は完全な状態ではないかもしれません。目覚めたとしたら、誰かがルナディクトに力を貸しているはずです。ヴァンパイアでも人間でもないその人物は、ルナディクトが完全体になるまでずっと力を貸し続けるでしょう。そして、その人物が、皆の前に現れた時が真の平和への入口が開かれる時です。それは、ルナディクトが目覚めてから二・三か月後になるでしょう』と」

 二・三か月? ルナディクトが目覚めてから既に一か月が経っている。あと二か月弱で、この地が平和になるというのか……。

「ルナディクト様、今回この空間をと申し出たのは、あなた様にここを知ってもらう為でもありました。あなた自身を取り戻すための時間、この空間があなた様の代わりに私たちを守ってくれます」

「でも、この空間だけでは、皆は入りきれないのでは?」

「大丈夫です。小川の向こうのドアの先には、いくつもの部屋があるはずです。記録をみると、ルナックとティアナが手を加えた時に、この空間に移住していた人数より、現在の人数の方が少ないですから。私たちの事は、心配いりません」

 長老のきっぱりした声音に、ルナディクトの心の中は温かくなっていった。


 その後、人間たちの移住が速やかに開始された。


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