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10 ポイニーブラッド家

 クレイオの話は続いた。


 やっと、人間達が地上で生活をできる環境が整ったころ、神は、山の地下深くに投獄した男の様子を見に行った。

 西の牢に入れた男は、見るからに悪魔から力を分け与えられていることがすぐに分かった。その為そのまま投獄を続ける事にした。

 もう一方、東の牢に入れた男には、目を引かれた。

 神は、男を投獄した時に牢の周りや中にも呪詛を取り除くために鉱物を巻いておいたのだが、その鉱物は牢に近づくにつれ色が薄くなっていた。そして、牢の中の鉱物は元のように透明だった。

 鉱物が取り込んだ呪詛を浄化させる物は、この地下には存在しないはず。神は、とても驚き声も出すことが出来なかった。

 そんな神に男が話しかけてきた。

「はじめまして、あなたがこの地の神ですか?」

 神は、怪我もすっかり治り着ていたボロボロの服も綺麗なっているいる男を訝しげに眺めた。 

 男はその事に気付いたのか、苦笑を浮かべた。

「驚かれますよね。私自身や私が身に付けるているものは、いつの間にか元の形に戻るのです。だから、私の怪我も目が覚めた時には治っていました。ボロボロの服は元通りです。私の回りの物は、私が触れると元の姿に戻ります。この石もこんなに綺麗な透明だったのですね」

 男は牢の外に手を伸ばし、まだ紅い石を指先で触れただけど色が変わった。

神は、牢から一番遠い所の真っ紅な石を男の掌に乗せた。呪詛を含んだ紅は男の体に吸収されるように消えていった。

 神は男の顔を凝視した。いくら小さい欠片だとはいえこれだけの呪詛を体内に取り込んだら、普通の人間なら何らかの変化が現れるはずだからだ。しかし、男は笑顔を崩さず神を見詰めていた。

「お前のこの力は、何処で手にいれた?」

「生まれた時から持っていたようです」

「お前は何処の村から来た?」

「生まれた村が何処なのかは、忘れてしまいました。何処の村へ行っても追い出されました。何処の村の神も、私を受け入れてはくれませんでした」

 男は、悲しそうな瞳をしたかと思うと俯いてしまった。

 神は、男の額に片手をかざした。

 神は、その手から男の過去を探りはじめた。

 男のこれまでの記憶から、男が話したことは間違っていない事が分かった。

 幼い頃は、母がこの男を守っていたが、母が病室すると村からも追い出された。あちこちさ迷いどの村でも受け入れられていなかった。

 すさんだ生活を送りながらも、高い知能を持ち情緒も安定している事も分かった。

 神は次に、男の体に手をかざした。

 いくつもの怪我が治癒された形跡がある。先程、体に吸収された呪詛はまだ存在していたが、少しずつ薄まっていき何処かへ消えてしまった。

「お前は、この村で生活がしたいのか?」

 神の穏やかな声に、男は明るい表情を見せ頷いた。

「お前がこの村で生活する事を許そう。但し、しばらくの間、私の指示に従ってもらうよ。いいかな?」

 男は、涙を流し「ありがとうございます」と何度も何度も頭を下げた。

 男の名前はルナックと言った。

 神は、ルナックに村人と一緒に農作業をさせた。

 農作業といっても、ルナックにしてみれば大地を踏むだけで浄化作業をしているのと同じだった。

 ルナックが踏んだ所から波紋のように鉱物は浄化されていく。しかし、鉱物はすぐに呪詛を吸い込み紅く色を染めた。

 そんなルナックを村人は怖がる事なく、すんなりと仲間として受けいれ、ルナック自身もずっと以前からこの村にいたかのように馴染んでいった。他の村ではなぜ受け入れられなかったのかが不思議なくらいに……。

 農作業が終わると、神はルナックの体を調べた。

 やはり、人間の体でしかないルナックには相当の負担になってしまったようだ。

 神は、一日おきに農作業をさせ、空いた日は鉱物の無い山の洞窟で過ごさせた。

 ルナックが山から出てくるときは、体力も気力も正常に戻っていた。

 そんなふうに数ヶ月を過ごした。

 

 村にはもう一人、不思議な力を持つ者がいた。

 村長の孫娘ティナだ。

 ティナは、言葉を発する事が出来なかったが、人に触れることによりその人の心と直接会話をする事が出来た。

 ティナは、言葉が話せないせいか何に対して受け身で、自分から積極的に人と関わる事はなかった。その為、適齢期だと言うのに相手がいっこうに決まらなかった。

 そのティナがいつの間にか、ルナックの側を付いて歩くようになった。傍目から見ても恋人同士のようで微笑ましい光景だった。そのうちに、洞窟で休養をしているルナックに会いに行くようになり、離れたがらなくなった。

 村長は、ルナックの休養の邪魔になるからと無理矢理連れて帰ろうとした時、ティナの体から物凄い力が出て撥ね飛ばされた。

 これには、村長は勿論、神もルナックも驚いた。

 女には到底持ち得ない力だった。

 神は、村長からティナを預かり様子を見る事にした。

 ティナは、ルナックが見えてさえいれば笑顔でいた。しかし、姿が少しでも見えないと涙を流しルナックを探しまわった。

 ルナックもはじめは仕方なく、ティナを傍においていたが、次第にそれが当たり前のようになり、ルナック自信もティナが傍に居ないと落ち着かなくなっていった。

 二人が一緒に暮らし始めると、ティナは常にルナックの心に触れているようになった。ルナックもそれを許していた為、二人の会話は外には一切出てこなくなった。

 それから数ヶ月のうちに、ルナックはティナと二人で村中の浄化を終わらせる決意をした。

 あまりの強行軍に神も苦言を呈した。しかし、「時間がない」の一点張りで聞こうとはしなかった。この二人は、何かを察しているようだった。

 神も時間がないのは承知していた。この村を巻き込む大きな波が迫って来ようとしていた。しかし、この地を離れる日が近づいていた神には、村人を守る事は出来ない。

 ルナックは、村人からも信頼があつい。そして、この村を守りたいと思う気持ちも強い。しかし、この村に迫る波を今のルナックがどうにか出来るものとは神は考えていなかった。だからこそ、前回の様にやり過ごす方法が一番良いのではないかと思っていた。

 だが、ルナックとティナはそうは思っていなかった。

 ルナックは、浄化を全て終わらせると眠りについた。

 その眠りは、体力を回復させるものではなかった。

 ルナックは、半月の時を経て眠りから覚めた時、人間ではなくなっていた。

 ルナックの体は大量の呪詛にさらされた為、体のあらゆる箇所が壊れてしまっていた。その体を修復し維持し続ける為には、人間でいることができなかったのだ。

 ルナックは、食事として血液を必要とした。

 姿かたちが変わっても、ルナックは村人たちに受け入れられた。それは、ルナックの傍には、いつも幸せそうに微笑むティナの寄り添う姿があったからかもしれない。


 この二人が後に、ポイニーブラッドと名乗るようになる。


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