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9 紅い大地の理由

 クレイオはゆったりと椅子に深く座ると、お茶を静に飲み始めた。その所作は、とても優雅だ。

 彼が、何処の国で生まれ、どんな教育を受けてきたのか、いつからこの国にいるのか、どんな種族に属しているのか、ダイロは知らない。

 外見は、人間と変わらない。しかし、ダイロには太刀打ち出来ない程の何かを持っている事は間違いない。

 その何かが、ダイロを謙虚にさせているのかもしれない。

「ダイロ、まず何からお答えしましょうか?」

 クレイオは、カップを置くと話を切り出した。

「では、この国の紅く光る土について教えて下さい」

 クレイオは、静に頷くと話し始めた。

「あの紅く光る土は、あの山から取られた鉱物です」

 クレイオは、窓の外に聳え立つ死の山を指差した。

「あの山から鉱物が取れるのですか?」

 ダイロにとっては、初耳だった。誰も、近づけない山から鉱物が取れるなんて……。

「この星が出来て数世紀が経った頃、あの山も緑が茂るとても綺麗な山だったのです。動物達もたくさん生息していました。今では考えられない事でしょうね。その山の豊かな緑は、その鉱物の力だったようです」

 ダイロは、驚きの表情を浮かべた。

「その当時、あの山の麓に人間の小さな村が一つありました。村人達は大地の神の教えを守り、平和に暮らしていたのです。この世界には当時、あちこちにこのような小さな村が出来ていたと考えられています。そして、それぞれの村に神が導き手として一人存在していました」

「導き手ですか……」

 ダイロの呟きに、クレイオが軽く頷き窓の外を見ながら話を続けた。

「人間の成長を見守りながら、ほんの少しずつ知恵を与えていたのです。この地の人間達は、神が上手く導けたのでしょう、愛情豊かな心を持つ事が出来ました。しかし、神の導きがほんの少し違うだけで、同じ人間でも様々なタイプが出来てしまいました。そしてある時、心がほんの少し歪んでしまった人間に悪魔たちが囁いたのです。『もっと豊かな土地を奪え。さすれば、もっと楽に暮らせるだろう』などと。中には、自分の力の一部を人間に与え、争いを起こさせた者もいました。その時、人間以外の種族が生れたのです。そして、この地もその者達に襲われ戦場となりました。この地の神は、村人達を山の洞窟に隠しました。争いは凄まじいもので、命を失った者は骨一つ残ってはいませんでした。悪魔の力を得た者達が、全ての物を食べ尽くしたからです。命の奪い合いは、数年に及びました。その間、この地の村人達は洞窟でジッと耐えていたのです。一人も欠ける事無く……。神は、この争いを治めようとはしませんでした。この争いは、人間達にとって必要な事だったのかもしれません」

 クレイオは、またカップを手に取るとお茶を飲んだ。そして、再び目線を窓の外へと向けた。

「外部から攻め込んできた者二人を除いて、全ての命が絶たれたことで、この争いは終わりました。二人は命を取り留めたとはいえ、重症でした。血塗れでグッタリしている様子からは、どんな力を持っているのか分からなかったため、神は山の地下深く東西に、彼らを別々に投獄しました。緑豊かだった大地は、荒野と化していました。そして、その荒野には、恨み・嫉み・憎しみ・怒りなどの不の感情が渦巻いていました。神は、人間達が安心して暮らせるよう、この呪詛を浄化する事にしました。あの山の鉱物を使って……。鉱物は、とても硬く透明度の高いものでした。それを全て山から採掘して砕き、大地に敷き詰めるように撒いたのです。鉱物は、あっという間に呪詛を吸い取り真っ黒になりました。それでも、まだ人間が住む事が出来る環境にはなりませんでした。そこで、岩盤を山から切り出し、この地のあちらこちらにオベリスクを立てました。オベリスクは、太陽や月の力を集め大地へ流し込み鉱物の働きを助けました。今、東部地区で大地が赤く光っているのは、その時撒かれた鉱物がまた仕事を始めたからです」

「なぜ、今なのですか?」

「人間達が、地上で暮らすための条件が整ったのでしょう」

「条件? でもなぜ、人間達には害がないのですか?」

「元々、あの鉱物は人間のために撒かれたものです。それは、何世紀たっても変わりません。人間が素手で持っても、何の害もないのです」

「では、人間以外には害があるということですか? しかし、今までそのような話は聞いた事もないし、実際命を落とすようなこともありませんでした」

「そうですね。今までこの地にいる人間以外の種族を、紅い土から守る役目を負った人物がいたからです」

 ダイロは息を呑んだ。

 クレイオは、瞳は冷たいまま微笑むと話を続けた。

「貴方にも、お分かりでしょう」

 そこまで話すと、クレイオは温かいお茶をカップに注いだ。

冷たい瞳は、メランブラッド家の過ちを全て知っていると訴えているようだった。

 ダイロは、背中に冷たい汗がツーっと流れるのを感じた。


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