王家のいない十二席
十二人の債権者は、十二通りの不機嫌を携えて現れました。
机を指で叩く者。帳簿を抱えて青ざめる者。王家への悪罵を隠そうともしない者。そして、わたくしを値踏みするように眺める者。
無理もございません。
彼らが貸した金貨は、王家の祝宴と軍費に消えました。担保とされたのは、まだ成立してもいない婚姻後の収入。しかも、その婚姻を王家自らが破棄したのです。
架かっていない橋を通行料ごと売り払うとは、さすが王家。商人にも思いつかぬ大胆さでございます。
「先に申し上げます」
正午の鐘が鳴り終えるのを待ち、わたくしは席を立ちました。
「わたくしは王家の借金を肩代わりいたしません」
広間の空気が硬くなります。
王都の銀取引を担うホルバイン商会の主人が、太い眉を吊り上げました。
「では、我々を呼びつけたのは何のためですかな。債権を紙屑として諦めろと?」
「いいえ。紙屑を、利益を生む契約へ作り替えるためです」
ハンナが十二人の前へ、一冊ずつ薄い書類を置きました。
記したのは王家の返済計画ではございません。
北倉からヴェルデン河岸までの新しい穀物輸送路。その沿道に設ける車軸交換所。宿場への前払金。塩、毛織物、乾燥薬草を往路と復路で積み替える共同交易組合。そして、各商会に割り当てる出資口数です。
「王家への債権を、額面の七割で組合への出資証書に交換いたします。残る三割は王家への請求権として保持なさって結構。王家が支払えば回収でき、支払わなくとも、出資分から配当を得られます」
「七割も回収できる保証がどこにある」
「保証はございません」
数名が露骨に顔をしかめました。
「代わりに、根拠がございます」
わたくしは輸送記録を開きました。
救荒倉への襲撃と逃亡者の追跡によって判明した道路の状態。荷車一台あたりの所要時間。破損率。宿場ごとの馬の交換費。護送に加わる元兵士の人数。
すべて実測値です。
「乾いた沢の手前へ交換所を置けば、車輪の破損による損失は四割減ります。帰り荷に塩を積み、空荷をなくせば輸送費は二割一分下がる。初年度の配当見込みは出資額の八分、二年目は一割二分です」
「机上の数字では?」
「昨日、わたくし自身がその道を往復いたしました」
広間の隅に控えていた護送隊長が、泥の残る長靴の踵を合わせます。
「記録に相違なし。荷を襲った者も、逃亡者も、死者を出さず確保しております」
ざわめきが広がりました。
エルネスト様は上座にいらっしゃいましたが、一言も口を挟みません。大公の威光で商人を従わせるのではなく、わたくしの数字が彼らを納得させるまで待ってくださっているのです。
その沈黙は、どのような推薦状より雄弁でした。
ホルバイン商会の主人が書類をめくります。
「監査役は三名。大公府、出資商会、それに……街道沿いの宿場組合?」
「はい。荷が実際に通ったかを最もよく知るのは、宮廷の官吏ではなく、馬へ水をやる者ですから」
「帳簿は四半期ごとに公開?」
「ご不満でしたら毎月でも」
「いや」
彼は初めて、わずかに口元を緩めました。
「公開されるなら四半期でよい。見せない者ほど、毎日『信用せよ』と叫ぶものだ」
どなたを指しているのかは、あえて伺いませんでした。
やがて一人が署名し、二人目が続きました。
最後まで迷っていた薬種商が羽根筆を置いた時、十二商会すべての参加が決まりました。
新組合の資金で、車軸交換所を三か所。常設の護送隊を二組。宿場には穀物保管用の石倉を設けます。元護送兵二十三名には、未払いの軍票ではなく銀貨で給与を支払うことになりました。
新しい交易路と、働き手の暮らしと、債権者の回収手段。
一つの契約で三つを動かせるなら、羽根筆の摩耗など安いものでございます。
同じ頃、王都では返済期限の鐘が鳴っておりました。
ハンナの商家仲間から届いた報告によれば、王家の財務官は十二商会を宮殿へ呼びつける予定だったそうです。
けれど正午、謁見室に並んだのは空の椅子だけ。
レナード殿下は激怒し、債権者を不敬罪で拘束せよと命じました。しかし当人たちは全員ヴェルデンにおり、正式な通行証を持ち、大公府の保護下で商談中です。
他国で合法的に契約を結ぶ商人を、王国の兵がどう捕らえるのでしょう。
殿下にはぜひ、国境線へ向かって不敬罪を申し渡していただきたいものです。山も川も、きっと恐れ入ることでしょう。
さらに王家は利払いのため、宮廷御用商人へ短期融資を求めました。ところが御用商人は、十二商会が参加した組合へ資金を移すため、丁重に断ったとのこと。
わたくしは王家の金庫へ手を触れておりません。
ただ、利益の見込める席を十二脚用意しただけです。
座る者のいない金庫が空になるのは、金庫自身の責任ではございませんわ。
契約会が終わると、エルネスト様は皆の前で新組合の認可状へ署名なさいました。
その右手には、先日の傷を覆う包帯がまだ巻かれています。筆を運ぶたび、わずかに指が強張っていました。
「代筆をお使いくださいませ」
「君の契約に、私の手で署名したい」
「傷が開きます」
「では、急いで書く」
「署名を急ぐ統治者は信用なりません」
「厳しいな」
そう仰りながらも、エルネスト様は素直に筆を置かれました。
わたくしが包帯を確かめるため手を差し出すと、彼は迷わず右手を預けてくださいます。
大きな手でした。剣を握るために硬くなった指先と、紙を扱う時には決して頁を傷めない慎重さ。その両方を、わたくしはもう知っております。
包帯の端を結び直していると、頭上から静かな声が降りました。
「昨日、君は私に残れと言った」
「負傷者を雨の中へ出すわけにはまいりませんでしたので」
「今日は私が言う番だ」
結び目へ意識を集中していた指が止まりました。
「この国に残ってほしい。客人としてではなく、私と同じ側で、この先の帳簿を作る者として」
それは甘いだけのお言葉ではございません。
地位を餌にした命令でも、救ってやるという施しでもない。
わたくしが何を成したかをご覧になったうえで、これから何を成すかを問うお言葉でした。
「期限は設けられますか」
「君が答えを選ぶまで」
「随分と利息の高そうなお申し出ですこと」
「一生かけて支払う用意はある」
危うく包帯をきつく締めるところでした。
ハンナが少し離れた場所で咳払いをしました。明らかに笑いを隠しております。後ほど侍女の給与査定について、じっくりお話しする必要がありそうです。
わたくしはエルネスト様の手を離し、代わりに認可状を受け取りました。
「お申し出は、正式な議題として預からせていただきます」
「ああ。良い返事を期待している」
「期待と収益は帳簿へ記すまで確定いたしません」
「なら、記す欄を空けておこう」
胸の奥が妙に温かくなったのは、暖炉のせいということにしておきましょう。
その夜、新組合へ最初の積荷目録が届きました。
穀物二百袋、塩八十樽、薬草十二箱。予定どおりなら三日後に出発できます。
ところが目録の末尾には、商品ではない名が記されていました。
『アッシュフォード領民・三百六十二名。領主館を追われ、国境で保護を求む』
イザベラが冬越しの税を三倍に引き上げ、払えぬ者の家と畑を没収したというのです。
わたくしは母の算盤を取り出し、空いていた荷馬車の数を数えました。
十七台。
全員を一度に運ぶには足りません。
ならば、荷馬車を増やすのではなく、国境の門をこちらから迎えに行けばよろしい。
わたくしは新組合の最初の積荷目録から、穀物二百袋をすべて消しました。
そして同じ欄へ、こう書き直したのです。
『用途変更――三百六十二名分の七日間の食糧』
(第16話へ続く)




