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第81話:王の謝罪

 泡を吹いて倒れた軍務卿バルドランが、慌てて駆けつけた医療班によって運び出されていく。

 そんな騒然とした中庭で、俺は目の前に立つこの国の最高権力者――国王陛下と対峙していた。


「……まずは、我が国の重鎮が非礼を働いたこと、深く詫びよう。すまなかったな、エルヴァン殿」


 国王は、近衛騎士たちが息を呑むほど深く、俺に向かって頭を下げた。一国の主が、辺境から来た一介のテイマーに謝罪する。その潔さに、俺は毒気を抜かれて慌てて手を振った。


「い、いえ! 頭を上げてください。こちらのファル……白竜たちも、少しばかりやり過ぎて脅かしてしまいましたから。こちらこそ、申し訳ありません」


 俺がそう言って背後の二頭を見上げると、巨大なファルは黄金の瞳を細めて『フォッフォッ』と喉を鳴らした。


「……本来であれば、応接室に招いてゆっくりと話したいところだが。君の連れている古竜たちの意見も聞きながら進めたい。このまま、ここで話すことを許してくれるか?」

 王は空を覆うファルとゼノスの巨体を見上げ、穏やかに提案した。


 確かに、このサイズの二頭が入れる部屋なんて王城にもないだろう。俺は頷き、近衛騎士たちが周囲を厳重に警戒する中、中庭での『極秘会談』が始まった。


◇◇◇


「……エルヴァン殿。今から話すことは、国家の存亡に関わる極秘事項だ」

 国王の表情から笑みが消え、鋭い光が宿る。


「既知かもしれないが、はるか西方の城塞国家ガレリアが、一夜にして消滅した。

 ……生き残った者たちの証言によれば、突如として空に巨大な亀裂が走り、そこから星の空を覆いつくすほどの巨大な『あぎと』が現れたという」

 国王の言葉に、俺の隣で聞いていたユリウスが微かに震えた。


「我が国の占星術師や予言者たちの見解は一致している。

 ……その正体は、古竜たちを創り出したとされる神話の存在。星の魔力と生命そのものを喰らい尽くす『原初の暴食』であると」

 国王は沈痛な面持ちで続けた。


「『それ』が息を吸い込んだ瞬間、ガレリアの豊かな大地は瞬く間に干からび、極上の農作物は灰となり、堅牢な城壁も人々も……あらゆる魔素を吸い尽くされて砂のように崩れ去ったそうだ」


「そんな……。国一つを、文字通り『食べて』しまったっていうんですか?」


「左様。数日前、近隣諸国との緊急会談が行われた。そこで下された予言によれば、近い未来、再びその『原初の暴食』による被害が起こる。……世界は今、かつてない厄災の直前に立っているのだ。各国は今、手を取り合い、持てる全力を尽くしてこれに立ち向かおうとしている」

 国王はそこで一度言葉を切り、再び俺を真っ直ぐに見据えた。


「そのための力を求めて、私は軍に『協力者を探せ』と命じた。

 だが、焦ったバルドランが功を焦り、あのような暴挙に出てしまった……。

 改めて、軍務卿の非礼を詫びる。


 ……その上で、エルヴァン殿。王としてではなく、この地を生きる一人の人間として、君にお願いしたい。……どうか、その規格外の力、我々に貸してはくれないだろうか」


 静まり返る中庭。

 俺は少しの間、沈黙した。


 この国に来て、嫌な思いもした。無能だと追放され、権力者に利用されそうにもなった。だが……。


「……俺は、この国が好きです。

 美味しい食材があって、俺の大切な人たちがいるこの場所を、失いたくない」

 俺は一歩前に出て、国王の目を見つめ返した。


「国同士の戦争や、誰かを傷つけるための戦いなら、俺は絶対に協力しません。

 ……でも、世界を食い荒らすような未知の厄災からみんなを守るためなら、俺は協力を惜しみません。

 テイマーとして、俺にできることをやらせてください」

 俺の言葉に、国王の顔に安堵の色が広がった。その時、頭上から地響きのような声が降ってきた。


『……フォッフォッフォ。

 我が愛し子がこう言うのでな。ならば我ら古竜も、その言葉に従うとしよう』

 ファルが巨大な首を下げ、国王を見下ろした。


『王よ、お主らの言う「伝説」は、少々誇張されておるが概ね間違いではない。

 ……奴の正体は、我ら古竜の祖先にして、始祖。かつて星を創り、そして今は星を喰らう者――【始祖のドラゴン】よ』

 ファルの告げた衝撃の事実に、その場にいた全員が息を呑んだ。


『我々の祖先が、お主らの恐れる厄災そのもの……。皮肉な話じゃが、奴を止められる可能性があるのもまた、同じ血を引く我らと、その主であるエルヴァンしかおらんのかもしれんのう』


 かつて星を創り、そして星を喰らうという『原初の暴食』。

 その絶望的な厄災を前に、俺と二頭の古竜たちは、世界の命運を懸けた壮大な戦いの渦中へと巻き込まれていくのだった。

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