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第80話:軍務卿の誤算と、古竜の逆鱗

 大国の中枢、王都グランディール。


 その巨大な城門をくぐった瞬間、大通りを歩いていた王都の市民たちは、我が目を疑い、次々と悲鳴を上げて道を譲った。


 無理もない。俺とシリウスを先頭に、赤い炎を纏う二十頭のナイトメアが白昼堂々、大通りを練り歩いているのだ。最初はパニックに陥りかけた群衆だったが……やがて、その悲鳴はどよめきと感嘆の声へと変わっていった。


「お、おい……見ろよ。あんなに恐ろしい魔物なのに、一糸乱れぬ行軍だぞ……」

「なんて統制のとれた足並みだ。先頭の青い炎のナイトメアが、群れを完全に統率しているのか……!?」


 シリウスの堂々たる歩みと、それに従うナイトメアたちの規律正しい姿は、暴走する魔物の群れというより、選び抜かれた精鋭騎士団のパレードのようだった。


 威風堂々たる俺たちの姿に、怯えていた市民たちからは、いつしか熱を帯びた歓声すら上がり始めていた。


◇◇◇


 俺たちが案内されたのは、王城のすぐ手前にある『軍務局本部』の広大な中庭だった。

 そこには、豪奢すぎる軍服に身を包み、ふんぞり返るようにして待ち構えている初老の男がいた。


「ほう……! これは素晴らしい。実物を見るまでは半信半疑であったが、まさかこれほど見事なナイトメアの群れを引き連れてくるとはな」


 男は、中庭に整列した二十頭のナイトメアを舐め回すように見つめ、非常に満足げに何度もうなずいた。


「よく来たな、辺境のテイマーよ。

 私は王都軍務局最高責任者、軍務卿バルドラン・ド・モルガナクである。

 光栄に思え、これより貴様とその従魔たちを、我が国王軍の『特別魔獣部隊』に組み込んでやろう。国のために奉仕できるのだ、身に余る名誉に感謝するがよい」


 バルドランと名乗った男は、俺の相棒たちを都合のいい使い捨ての駒としてしか見ていない。その傲慢な態度に、俺は低く、はっきりとした声で告げた。


「……お断りします。こいつらは俺の家族だ。あんたたちの道具じゃない」

 隣に立つユリウスも、上司であるバルドランのあまりの横暴さに、不快感を隠そうともせずに眉をひそめている。


「何だと……? 貴様、自分が誰の前で口を利いているか分かっているのか! たかが辺境のしがない冒険者風情が!」

 バルドランが指を鳴らすと、周囲を取り囲んでいた数十人の精鋭兵士たちが、一斉に槍を構えて俺たちを包囲した。


「国命に逆らうというのなら、貴様を反逆罪で処刑し、その魔物たちは魔法の枷をはめて強制的に徴用するまでだ!」


 一触即発の空気。

 だがその時、俺の腰にあるポーチから、地響きのような声が響き渡った。


『……小童こわっぱが。随分と威勢がいいのう』


 シュゴォォォォォォッ!!!


 ポーチから飛び出した二つの光球が空中で爆発的に膨れ上がり、軍務局の建物を優に見下ろすほどの、巨大な二頭の竜が現出した。


 白竜ファルと、黒龍ゼノス。


 その圧倒的な威圧感だけで、周囲の兵士たちは武器を取り落とし、バルドランに至っては顔面を蒼白にして尻餅をついた。


『貴様は誰を脅しているのか理解しておるのか? 我が愛しき主と分かっての所業か?』

 その黄金の瞳がバルドランを射抜く。


『我はこの国を愛した古のテイマーの頼みで、長くこの国を見守ってきた。

 今は、この若き主の元で行く末を見守っておる。


 ……もし、主がこの国と敵対するつもりならば、我は迷わず主に従い、この都を灰にしようぞ』


『我も異論はない。

 貴様の命など、一息で消える灯火に過ぎん』

 ゼノスが重々しく同意し、シリウスたちナイトメアも一斉に炎を大きく燃え上がらせた。


『……さて。貴様と我が主、どちらが【主導権】を握っているのか、これで理解できたか?』


「ひっ……あ、あ、あああ……っ」

 バルドランは何も言い返すことができず、死の恐怖から激しい過呼吸を起こし、そのまま白目を剥いて倒れ伏した。


「……ユリウスさん、医療班を呼んであげてください。……ファルのやつやり過ぎだろ……」


「いえ……長年の横暴を見てきた身としては、非常に胸がスッとしましたよ」

 ユリウスが淡々と通信魔導具を取り出した、その時だった。


「見事な威容だな。

 そして、あの強欲なバルドランを言葉だけで屈服させるとは、恐れ入った」

 パチパチと、静かな拍手の音が響く。


 中庭の入り口に、近衛騎士を従えた、気品と威厳に満ちた初老の男が立っていた。


「こ、国王陛下……!?」

 ユリウスが慌てて膝をつく。

 この国の頂点、国王その人が、面白そうに俺と二頭の竜を見上げていた。

◆◆◆◇◇◇◆◆◆


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