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無能と追放されたはぐれテイマー、実は【古のテイム】の継承者でした ~ブラックギルドを捨てて美味しい手料理を振る舞ったら、伝説の神獣たちが懐きすぎて世界最強のギルドができました~  作者: たくみ
第四章 レア食材探求〜腹が減っては厄災は防げない〜

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第76話:パレード

「——僕がこの群れのボスになったら、人間との共生を強制することになるけど。それでもいいの?」

 静寂に包まれた宵闇の森。


 シリウスの凛とした念話が、まだ微かに震えているボス・ナイトメアの脳内に直接響いた。


『……っ』


 ボスは、屈辱と恐怖、そして種族の本能の間で激しく葛藤するように、赤黒い炎を明滅させた。


 他者の恐怖や悪夢を糧とする彼ら純粋なナイトメアにとって、人間と共生し、穏やかに過ごすなどということは、文字通り「生き方の否定」に他ならない。


『……それは、できん。我らは暗闇に生き、恐怖を啜る者。人に媚び諂うなど、誇りが許さぬ……』

 絞り出すように放たれたボスの答えは、群れの長としてのギリギリの意地だった。


「だよね。知ってた」

 シリウスはあっけらかんと頷くと、周囲の闇に潜み、平伏したままの無数のナイトメアたちに向けて、高く嘶いた。


『みんな、聞いて! 僕は、この森には住まない。エルヴァン…ここに居る人間と一緒に、外の明るい世界をもっと見たいんだ!』

 その宣言に、闇の中から「ざわっ」と動揺の波が広がった。


『だから、ここのボスにはならない。

 でも……もし、これまでの生き方を変えたい、僕みたいに温かいご飯を食べて、人と一緒に生きてみたいって思う奴がいるなら……僕についてきてもいいよ!』

 シリウスの言葉に、森は再び大きくどよめいた。

 絶対的な恐怖による支配から、選択の自由を与えられたのだ。


 やがて、群れの中から一頭、また一頭と、まだ体格の小さな若いナイトメアや、争いを好まない様子の個体が歩み出て、シリウスの背後に集まり始めた。

 その数は、ざっと見て二十頭。


「……おいおい、シリウス」

 俺は思わず頭を抱えた。


「二十頭のナイトメアの群れなんて、どこに住まわせるんだ……?

  ギルドの厩舎にも入りきらないぞ……」

 俺が困惑して呟くと、こちらを振り返ったシリウスが、コテッと首を傾げた。

 そして、前足をちょこんと上げて、口の端からペロッと舌を出したのだ。


『……てへぺろ☆』


「——それ、誰に教わった!!」

 俺の脳内に直接響いた、やけにギャルっぽい念話。

 教えた犯人は一人しかいない。


「……またハクビか!! あいつ、変なことばっかり教えやがって……!」

 遠く離れた別の場所にいるはずの九尾の狐に、俺は盛大なツッコミを入れた。


 俺の腕の中で、セリアが「ふふっ」と楽しそうに笑っている。


『……我々は、どうすれば……?』

 ポツンと取り残されたようなボスが、戸惑ったように問うてきた。


『またあんたがボスとして、群れをまとめなよ。でも、もう人間を無闇に襲っちゃダメだからね? わかった?』

 シリウスが少しだけ凄むと、ボスは「ヒィンッ!」と悲鳴のような嘶きを上げ、何度も首を縦に振った。

 こうして、宵闇の森の頂上決戦は、予想外の結末を迎えた。


 その後、俺たちは森の最奥にある美しい泉へと案内され、目的の泉の底に沈む結晶『星の雫』を無事に回収することができた。


 そして……

 行きは数人のパーティーだったのに、帰る頃には「二十頭のナイトメアを引き連れた大軍団」へと変貌を遂げていたのである。


 ◇◇◇


「ひ、ひぃぃぃぃっ!? な、なんだあれは! 魔物のスタンピードか!?」


「門を閉めろォォォ!!」

 迷宮都市の正門前は、ちょっとしたパニックに陥っていた。


 それもそのはずだ。夕日に照らされた街道の向こうから、凶悪な魔物であるはずのナイトメアが、二十頭も綺麗に整列して行進してくるのだから。


 だが、その先頭を堂々と歩く、一回り大きく美しい青い炎を纏った、漆黒の馬の姿——そして、その背に相乗りしている人物の姿を視認した瞬間、門兵たちの悲鳴は、驚きの声へと変わった。


「ま、待て! 先頭に乗ってるの……エルヴァンさんじゃないか!?」


「後ろではセリアさんが手を振っているぞ!!」

 俺は、シリウスの背にセリアと共に跨がり、堂々と帰還したのだ。


 しかも、昨晩の飲み過ぎでまだ若干足腰がフワフワしている俺を支えるため、セリアは俺の背中にぴったりと身を寄せ、両腕を俺の腰にしっかりと回している。彼女の顔は、艶々と輝いてご機嫌だった。


「お、おい見ろよ! セリアさんがエルヴァンさんにべったりだぞ!」


「ああっ、ついに! ついにあの奥手なエルヴァンさんが、男を見せたのか!」

 街の住人たちが、わらわらと通りに出てきた。

 ナイトメアの群れへの恐怖はどこへやら、彼らの視線は完全に、俺とセリアの「密着ぶり」に釘付けになっていた。


「エルヴァンさん、おめでとーッ!!」

「セリアさんを幸せにしてやれよー!」

「今夜は俺の店で奢りだァァァッ!」


 ……待ってほしい。

 何か、とてつもない誤解をされていないか?

「ち、違う! いや!!違わないけど……!」

 俺があたふた言い訳をするが、歓声と拍手にかき消されて全く届かない。


「ふふっ、エルヴァン。皆さんがお祝いしてくれてますよ?」

 背中から聞こえるセリアの声は、どこまでも弾んでいた。否定するどころか、さらに俺の腰を抱く手に力がこもる。


 パァァァンッ! と、どこからかクラッカーまで鳴らされた。


 先頭を歩くシリウスが誇らしげに嘶き、後ろを歩く二十頭のナイトメアたちも、よく分かっていない様子で「ヒヒィン!」とそれに続く。


 プルちゃんは俺の頭の上で「ぷるぷるっ!」とリズミカルに跳ねている。

 迷宮都市は、完全にパレードの様相を呈していた。


「あー……もう、どうにでもなれ……」

 俺は大きなため息をついた。

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