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第64話:不吉な前兆

 巨大な黒曜石で作られた神殿に足を踏み入れると、空気が一変した。


 肌を刺すような濃密な魔力が渦巻き、静寂が耳鳴りのように響く。スオウは緊張で息を呑み、ノワールとシリウス、そしてハクビも警戒を露わにして毛を逆立てていた。


 神殿の中央。

 そこに鎮座する巨大な祭壇の上に、漆黒に輝く黒龍玉が浮遊していた。


「あれが、最深部の……」

 俺が呟いた直後、黒龍玉から爆発的な魔力の波動が放たれた。


 黒い霧が激しく渦を巻き、巨大な影を形成していく。現れたのは、漆黒の鱗と鋭い双角を持つ、威風堂々たる巨大な竜――黒龍ゼノスだった。


『よくぞここまで辿り着いた、小さき者たちよ。我は黒龍ゼノス。この神殿の主にして――』

 ゼノスが地を這うような重低音の念話で、威圧感たっぷりに名乗りを上げた、その時。

 俺の腰の龍玉がパカッと開き、ファルが身を乗り出した。


『あー! ナマイキなくろいトカゲだ! こいつ、むかしファルとケンカしたやつー! エルー、こいつやっつけていい!?』


『……なっ!? その白銀の魔力……まさか我の宿敵ライバル、白竜ファルか!? なぜ人間の腰などにぶら下がって、そのような幼児のごとき阿呆な口調になっているのだ!?』


 先ほどの威厳はどこへやら、ゼノスが目を剥いて驚愕の声を上げた。


「お、おいエルヴァン……白竜に続いて、今度は黒龍だと!? どうなっているんだお前の周りは……!」


「いや、俺も今初めて会ったところだけど……

 ファルの昔の知り合いらしい」


 スオウが頭を抱え、ファルが『がぉー!』と短い腕を振り回して威嚇する中、ゼノスは大きなため息をつくように鼻から黒煙を吐き出し、ドスンドスンと足音を立てて俺たちの前に顔を近づけてきた。


『まさか宿敵である貴様もすでに目覚めていたとはな……。いや、それよりも我には時間がない。単刀直入に言おう。人間のテイマーよ、その白竜と同じく、我を外の世界へ連れ出してはくれまいか』


「連れ出すって、俺がこの黒龍玉を持っていくってことか? 別に構わないが……」


 俺があっさり頷くと、ゼノスは少し安堵したように目を細めた。そして、その巨大な姿がボヤけ、次第に輪郭がブレ始めた。


「おい、身体が透けてるぞ?」


『……本来、我ら古竜が肉体を失い、龍玉から完全な復活を遂げるには、大気中の魔力を少しずつ集め、数百年という途方もない年月を必要とする』


 ゼノスは自身の透過していく手を見つめながら、重々しい口調で語り始めた。


『だが、我は肉体を失ってから、まだ数十年しか経っていない。復活するにはあまりにも早すぎるのだ』


「数十年? じゃあ、なんで今外に出られてるんだ?」


『異常事態なのだ。大気中の魔力が、まるで何かに急かされるように激しくうねり、我を無理やり叩き起こした。その結果、我は不完全な状態で目覚めてしまったのだ』



 ゼノスによれば、今の彼は『基本は龍玉の中でしか生活できない』という重い制約を抱えているらしい。

 こうして龍玉から出て外で活動できるのは、わずか数分間だけ。しかも、一度外に出て力を消費すると、回復のために数日間は龍玉の中で眠り続けなければならないという、ひどく燃費の悪い体質になってしまっていた。



「なるほど、だから時間がないって言ったのか。でも、魔力が急かされるようにって……」


『うむ。我ら古竜の復活周期を数百年も狂わせるほどの魔力の異常……。それは間違いなく、世界規模の異変の前兆だ』

 ゼノスの黄金色の瞳が、神殿の奥の暗闇を鋭く睨みつける。


『恐らく、遠くない未来……世界を揺るがすほどの何かが起こる。我はそれに備えるため、この迷宮を出て外の世界の状況を知りたいのだ』


 その言葉に、神殿内にピリッとした緊張感が走った。

 のんびりとした迷宮探索から一転、なんだかきな臭い話になってきたぞ。


『……頼む。時間はもう――』


 ズウゥン……。


 ゼノスの言葉が途切れると同時に、その巨大な漆黒の肉体は霧散し、祭壇の上にあった黒龍玉へと吸い込まれていった。時間切れらしい。

 俺は祭壇に近づき、沈黙した黒龍玉を手に取った。

 ズシリとした重みと、かすかな温もりを感じる。


「なんか、とんでもないものを背負い込んじまった気がするな……」


「全くだ! 白竜に黒龍……テイマーギルドの上層部が知ったら、泡を吹いて倒れるぞ!」


「コォン!」

『マヂそれな! でもウチらがついてるから余裕っしょ!』

 スオウが扇子で額の汗を拭い、ハクビが気楽な調子で尻尾を振る。


 俺の腰では、ファルが『むー、くろいトカゲ、逃げたー。次でてきたら、ぜったいガブってしてやるー』と不満そうに呟いていた。


「まあ、世界に何が起きるにせよ、腹が減っては戦えないからな。とりあえず、この黒龍玉も連れて帰るとするか」

 俺は黒龍玉を大事に抱き抱えた。


 未知の異変の気配を感じながらも、俺たちのパーティーは新たなドラゴンを仲間に加え、迷宮『翠緑の箱庭』の最深部を後にしたのだった。

◆◆◆◇◇◇◆◆◆


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