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第61話:不器用なコンビ

 極上の塩豚を手に入れ、ホクホク顔で迷宮の森を進む俺たち。

 だが、最後尾を歩く美青年テイマーの背中からは、この世の終わりかというほどのドス黒いオーラが放たれていた。


「……所詮、俺とハクビの絆など、豚の塩焼き以下の価値しかなかったのだ。

 毎日三時間のブラッシングも、最高級のカリカリも、あのジャンクな脂には勝てない……俺は、テイマー失格だ……」

 スオウがブツブツと恨み言をこぼしながら、ゾンビのような足取りで歩いている。


「スオウさん、元気出してください! ハクビちゃんも、別にスオウさんが嫌いになったわけじゃないと思いますよ!」

 巨大なノワールのふかふかの背中に跨ったニーナが、心配そうに声をかける。


「ニャァン」

『そうだニャ。エルのご飯が反則なだけニャ。元気出すニャ』


「ブルルッ!」

『ボクもそう思うよ! スオウはちゃんとハクビのこと大切にしてるじゃないか!』

 ノワールとシリウスも慰めの念話を送っているが、今のスオウの耳には届いていないようだ。俺も翻訳してないし。


 俺の足元を歩いていたハクビも、ちらりと後ろのスオウを振り返ったが「ふんっ」とそっぽを向いてしまった。


 その時だった。

 上空の樹上からスオウへ向かって急速に落下してくる「見えない殺意」を捉えた。


「スオウ、上だ!!」

 俺が叫んだが、落ち込んでいたスオウの反応は一瞬遅れた。

 空間がゆらりと歪み、景色に同化していた巨大な怪鳥――『迷彩怪鳥カメレオン・ターキー』が姿を現す。鋭い鉤爪が、無防備なスオウの頭上へと迫る。

 俺がフライパンを構えようとした、次の瞬間。


「コォォォォォォンッ!!」

 鼓膜を震わせるような、凄まじい咆哮。

 俺の足元にいたハクビが、音を置き去りにするほどの速度で地を蹴った。


 白い閃光がスオウの頭上を駆け抜け、九つの尾から放たれた『蒼炎の狐火』が、迷彩怪鳥の巨体をピンポイントで吹き飛ばす。

 怪鳥は悲鳴を上げる間もなく黒焦げになり、少し離れた地面にドサリと墜落した。


「ハ、ハクビ……?」

 尻餅をついたスオウの前で、ハクビは四つ足で力強く大地を踏みしめ、スオウを庇うように立ち塞がっていた。


 その白銀の毛並みが怒りで逆立ち、威嚇の低い唸り声を上げている。


「シャァァッ!」

『は? マヂありえないんですけど。ウチのスオウに何勝手に触ろうとしてんの? キモいし!』

 ハクビの念話が、俺の脳内にビリビリと響いた。


『スオウのこといじめていいのはウチだけだから! マヂで許さないし!』


 怒髪天を衝く勢いのハクビは、完全に怪鳥が沈黙したのを確認すると、ふんっと鼻を鳴らして狐火を収めた。そして、へたり込んでいるスオウの方を振り返り、ズイッと顔を近づけた。


「くぅん」

『ちょっとアンタ、ボーッとしすぎっしょ! ウチがいなきゃマヂでヤバかったんだからね! もっとウチのこと頼りなよ!』


 ……なるほど。


 食い意地が張っていても、文句ばかり言っていても。いざという時は、ご主人様を絶対に守り抜く。それが霊獣たるハクビの『矜持』というわけか。


「あの、エルヴァン。ハクビは今、なんと言っているんだ……?」

 スオウが、恐る恐る俺に尋ねてきた。俺は小さく息を吐き、できるだけ感情を込めずに同時通訳を始める。


「えーとだな。『は? マジありえないんですけど。ウチのスオウに何勝手に触ろうとしてんの? キモいし。スオウのこといじめていいのはウチだけだから』……だそうだ」


「ウチのスオウ……ッ!」

 スオウの目が、カッ! と見開かれた。


「それに、『ちょっとアンタ、ボーッとしすぎっしょ。ウチがいなきゃマジでヤバかったんだからね。もっとウチのこと頼りなよ』……だってさ」

 俺の通訳を聞き終えた瞬間、スオウの目から滝のような涙が溢れ出した。


「ハクビィィィ!! お前、俺のことを……俺たちの絆は、偽りではなかったんだなァァァ!!」


「コォン!?」

『ちょっ、マヂウザい! 鼻水つけんなし! 離して!』

 スオウが感極まってハクビに抱きつくと、ハクビは嫌そうに前足でスオウの顔を押し返している。

 だが、本気で抵抗すれば狐火で吹き飛ばせるはずなのに、爪も立てずにただペシペシと叩いているだけだった。


『……しゃーないな。今日は特別に、長めのブラッシング許してあげるし。だから泣き止んでよね』


「……『今日は特別に長めのブラッシングを許してあげる。だから泣き止め』だそうだぞ、スオウ」

 俺がそう告げると、スオウは「おおおぉぉッ!」と天を仰いで号泣し、さらに強くハクビを抱きしめた。


 どうやらこの一人と一匹には、確かな繋がりがあるらしい。なんだかんだで、いいコンビじゃないか。


『エルー! あのでっかいトリさん、お肉いっぱいとれるー?』

 良い雰囲気の中、腰の龍玉からファルがひょっこりと顔を出して台無しなことを言った。


「そうだな。ちょうど怪鳥の肉も手に入ったことだし、今日は早めにキャンプにして、岩塩猪と一緒に豪快にバーベキューといくか」

 俺の提案に、泣いていたスオウと、それを嫌がっていたハクビがピタリと動きを止めた。


「「……バーベキュー?」」


『マヂ!? ヤバいお肉のパーティーじゃん! スオウ、早く毛並み整えて! ご飯食べるし!』

 ハクビが九つの尾をぶんぶん振ってスオウを急かす。


 スオウも先ほどまでの絶望はどこへやら、「ふははは! 見たかエルヴァン、これが霊獣との真の絆だ!」とドヤ顔で立ち上がった。


 不器用なギャル霊獣と、完全復活した残念なイケメンテイマー。

 賑やかな仲間が増え、迷宮での夜の宴は、最高に騒がしいものになりそうだ。

◆◆◆◇◇◇◆◆◆


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― 新着の感想 ―
僕の中でのハクビのイメージをもとに人化けしたハクビをAIで描いてみました ワードは 狐耳、九尾、女子高生、ギャル、食いしん坊 https://x.com/i/status/20418588555552…
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