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第59話:完璧な毛並みの、モフモフたち

 柔らかな光が差し込む『翠緑の箱庭』の森を、俺たちは和やかな足取りで進んでいた。

 未知の迷宮だというのに、ピクニックのような空気が漂っているのは、間違いなく隣を歩く規格外の従魔たちのおかげだろう。


「そういえばスオウ。これから一緒に迷宮を潜るわけだし、改めてうちのパーティーと従魔……いや、俺の家族たちを紹介しておくよ」

 歩きながら俺が提案すると、後ろをついてきていたスオウが目を輝かせて詰め寄ってきた。


「おおっ、是非頼む!

 これほど完璧に仕上がった高位魔物たちだ、その生態や日々のケアの方法など、余すところなく聞かせてもらおう!」


「ケアって言っても、美味い飯を食わせて風呂に入れてるくらいだがな」

 俺は苦笑しながら、まずは自分の隣を歩く漆黒の馬を紹介した。


「こいつはナイトメアのシリウス。

 俺の従魔で、強靭な脚力と青い炎を操る頼もしい相棒だ。うちの荷物運びも手伝ってくれてる」


「ブルルッ!」

『よろしくね、スオウ! ボク、走るのも荷物を運ぶのも大好きなんだ!』

 シリウスが無邪気に前足を上げ、嬉しそうに嘶く。


 スオウはその見事な筋肉と、艶やかな毛並みを食い入るように見つめ、深く唸った。


「入り口で見た時も驚愕したが、何度見ても信じられん……。

 本来、狂暴で他者を背に乗せることを極端に嫌うナイトメアが、まるで無邪気な少年のように人懐っこいとは。

 それにこの圧倒的な毛艶と筋肉の躍動感、やはり完璧な仕上がりだ!」


「次は私ですね! えへへ、私のノワールちゃんです!」

 ニーナが元気に手を挙げ、隣を歩く巨大な漆黒の獣に抱きついた。


「クァールっていう魔物で、とぉーっても強くて、素早いんです!

  いつもは一緒にベッドで寝てます!」


「ニャァン」

『よろしくニャ。でも、ニーナとエルヴァンのご飯の横取りは許さないニャ』


「……あの漆黒の暗殺者と呼ばれる魔獣クァールが、少女に背を許しているだと……!?

 しかも完全に飼い猫のように喉を鳴らしている……ッ! 巨大なモフモフのベッド代わりにするなど、テイマーとして羨ましすぎるぞ!」


「……ちなみに今ノワールは、『よろしく。でもご飯の横取りは許さない』って言ってるぞ」


「通訳はありがたいが、少しは猛獣としての矜持はないのか君たちは!」

 俺の同時通訳に、スオウがツッコミを入れる。


 そして俺は自分の腰に提げた龍玉をコンコンと指で叩いた。


「で、さっきも顔を出したこいつが白竜のファルだ」

『エルー? ごはんの時間ー?』

 ハッチがパカッと開き、短い腕をパタパタさせながら幼児サイズのファルが顔を出す。


「いや、まだだ。挨拶だけしとけ」

『むー。……ファルだよー! エルのおいしーごはん、いっぱいたべる係なの!』

 ファルの言葉も俺にしか理解できないため、ちゃんと翻訳する。地味にめんどい。


「伝説の古竜が、ただの幼児になっている……。世界の真理が乱れる音がするぞ……」


「まぁ、こいつが一番手が掛かるしな」


 スオウが完全に遠い目をしていると、俺の足元にピタリと張り付いていた真っ白な毛玉――ハクビが、九つの尾を揺らして前に出た。


「コォン!」

『ウチはハクビ! スオウの連れだけど、今はエルのご飯待ち!

 マヂでお腹空いたし、早くヤバいお肉食べたいんですけどー!』

 そして、前足のネイル気にするような仕草で、器用に右目をパチリとウインクさせてみせる。


「……ちなみに今のハクビは、『ウチはハクビ。スオウの連れだけど、今はエルのご飯待ち。マジでお腹空いたし、早くヤバいお肉食べたい』だそうだ」


「ハクビィィィ!! お前というやつは……!! 伝説の霊獣としての威厳はどうしたんだ!」

 俺の淡々とした通訳に、スオウが涙目で叫ぶ。


 ギャル語全開で飯の催促をする霊獣と、それに振り回される美青年テイマー。傍から見れば完全にコメディだ。


「まあまあ、そんなに落ち込むな。ほら、ちょうどいいものを見つけたぞ」

 俺は周囲の気配を探り、ふと視線を森の奥へ向けた。


 古代竜が遺したこの『ビオトープ』は、ただの森ではない。魔力の濃度が異常に高いこの場所には、外の世界ではお目にかかれない極上の食材が自生しているはずだ。


「あれを見ろ。巨大な木の根元……傘に霜降り肉みたいな白い模様が入った、分厚いキノコがあるだろ?」

 俺が指差した先には、傘の直径が30センチはある、肉厚で巨大なキノコが群生していた。


「あれは……ラビリンスマッシュか?

 確かに珍しい素材だが、微弱な毒があるから食用には向かないはず……」


「外の普通の森で採れるやつならな。

 だが、ここは高濃度の魔力と澄んだ水で育った特異個体だ。毒素が完全に旨味の脂質に変化してる。マーブル・マッシュって呼ばれる、幻の高級食材だよ」

 俺がそう言うと、ノワールとシリウス、そしてハクビの目が一斉にギラリと光った。


『エルのヤバいご飯の匂いがするニャ!』


『わあ、すっごくいい匂いがする! ボクも食べたい!』


『マヂ!? あれ絶対おいしいヤツじゃん! ウチ、お肉もすきだけど、キノコも大好きだし!』


 三匹の魔物たちが、涎を垂らさんばかりの勢いで霜降り肉厚茸へと駆け出していく。


「あっ、こら! まだ周囲の安全確認が……ッ!」

 慌てるスオウをよそに、俺は調理用のナイフを取り出しながら笑った。


 さあ、迷宮食材を使った本格的なキャンプ飯の第一弾だ。この特大キノコを、分厚く切って豪快にステーキにしてやろう。

◆◆◆◇◇◇◆◆◆


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