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第53話:遺跡での魔力反応

「ニーナ、右から三頭来るぞ!」


「はいっ! ノワールちゃん、足止めをお願いします! シリウスちゃんは左の群れを威嚇して!」


『ニャァッ!』


『ブルルルッ!!』

 王都へと続く街道沿いの森。


 俺たち『白竜の翼』は現在、街道を脅かしている突進猪ホーンボアの群れの討伐依頼の真っ最中だった。

 ニーナの的確な指示を受け、漆黒の山猫ノワールが音もなく木々を蹴って宙を舞う。鋭い爪は使わず、肉球に魔力を込めた強烈な一撃を猪たちの眉間に叩き込み、次々と気絶させていく。


 同時に、悪魔馬シリウスが青い炎を纏った前足を高く振り上げ、大地を踏み鳴らした。その圧倒的な覇気と熱量に当てられ、左から迫っていた猪の群れは完全に戦意を喪失し、泡を吹いて倒れ伏した。


「……よし、完璧だな。二人とも、怪我はないか?」


「はい! エルヴァンさん、討伐完了です!」

 スライムのプルちゃんを頭に乗せたニーナが、満面の笑みで振り返る。


 かつては狼一匹に怯えていた彼女だが、今ではすっかりテイマーとしての指示出しが板についてきた。ノワールとシリウスも、傷一つつけずに獲物を無力化するという高度な連携を難なくこなしている。


「素晴らしい手際だ。しかも、肉に一切の傷がついていない。これなら最高の状態でギルドに納品できるし、俺たちの夕飯分もたっぷり確保できるな」


『ニャァン!』


『ヒヒィン!』

 夕飯、という言葉を聞いて、二匹が嬉しそうに俺にすり寄ってくる。


 俺は手早く突進猪の血抜きと解体を済ませ、上質なロース肉を切り出した。今夜はこいつを厚切りにして、果実のソースでさっぱりと焼き上げるポークステーキにしよう。


 討伐の証拠と素材をファルの龍玉に放り込み、俺たちは冒険者ギルドへと帰還した。


「お疲れ様です、エルヴァンさん、ニーナちゃん! わぁ……今回もすごく綺麗に討伐してくださったんですね!」

 ギルドのカウンターで素材を提出すると、馴染みの受付嬢が目を輝かせて査定をしてくれた。


「ええ、ノワールとシリウスが上手くやってくれましたから。これで今月のギルドのノルマも達成ですね」 


「はいっ! むしろ達成率で言えば、この街のどのパーティーよりもダントツのトップですよ。『白竜の翼』の皆さんが引き受けてくださるおかげで、街道の安全が保たれて本当に助かっています!」

 受付嬢が笑顔で報酬の入ったずっしりと重い革袋を渡してくれる。


 ギルドハウスの設立費用や、従魔たちの食費(特に庭でふんぞり返っている某古竜のエンゲル係数が異常に高い)で最初はカツカツだった資金も、今ではすっかり潤沢になっていた。


 ギルド内にいる他の冒険者たちも、俺たちを見て「 今日も大漁だな!」「また今度、しっぽ亭で美味い飯の作り方を教えてくれよ!」と気さくに声をかけてくる。

 かつて「無能」と蔑まれ、追放された時の陰湿な空気は、この街にはもうどこにもなかった。


(……順調、すぎるくらいだな)


 ギルドマスターとしての充実感と、温かい居場所があることの喜びを噛み締めながら、俺は報酬の確認を終えた。


「さて、それじゃあ帰って夕飯の支度を……」


「あっ、そうだ。エルヴァンさん、ちょっとだけ耳に入れておいてほしい情報があるんです」

 帰ろうとした俺を、受付嬢が少しだけ声を潜めて引き留めた。


「情報? なにか厄介な魔物でも出たんですか?」


「魔物というか……実は最近、この街から北西に進んだ山奥で、おかしな現象が観測されているんです」


 彼女は、カウンターの奥から一枚の羊皮紙を取り出した。そこには、街の周辺地図と、北西の山脈地帯に赤いバツ印が記されていた。


「北西の山奥……古い遺跡がある場所ですね」


「はい。今まで誰も寄り付かないようなただの朽ちた遺跡だったんですが……ここ数日、そこから急激に『強大な魔力反応』が噴出し始めているんです。王都の魔術師ギルドも警戒レベルを引き上げていて、近いうちに上位の調査隊が派遣されるかもしれないって噂で……」

 受付嬢の表情は真剣だった。

 普通の冒険者なら、そんな危険な場所には絶対に近づくなという警告だ。


「……強大な魔力反応、か」


「はい。ですから、エルヴァンさんたちも北西の森へ依頼に行く時は、十分に気をつけてくださいね」


「わかりました。忠告、ありがとうございます」

 ギルドを後にした俺たちは、セリアさんが待つギルドハウスへと家路を急いだ。


 夕暮れ時の街を歩きながら、俺はふと北西の空を見上げた。


(古い遺跡からの、強大な魔力反応……。ただの魔物の異常発生にしては、規模が大きすぎるな)


 俺の懐の中で、不意に龍玉が微かに熱を帯びたような気がした。


(北西の遺跡、か。……帰ったら、夕飯のポークステーキを食べながら、ちょっとファルに心当たりがないか聞いてみるか)

 そんな予感を抱きながら、俺は待っている家族の顔を思い浮かべて歩みを早めるのだった。

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