第47話:新人テイマー、新しい相棒との初任務
ノワールがギルドの新しい家族に加わってから、数日が経った。
美味しいご飯と安全な寝床、そして毎日ニーナにブラッシングしてもらう愛情たっぷりの生活により、ノワールはすっかり見違えるようにふっくら……いや、本来のしなやかな筋肉を取り戻したと言うべきか。
そんなある日の午前中。
ギルドハウスの広大な中庭では、ニーナが新しい相棒たちと連携の打ち合わせを行っていた。
「よしっ、プルちゃん、ノワール! もう一回いってみよう!」
『プルルッ!』
『ニャン!』
ニーナの掛け声とともに、スライムのプルちゃんが地面を蹴って宙へ高く跳び上がる。
その直後、ノワールが黒い稲妻のような凄まじい瞬発力で地面を蹴った。
シリウスをも凌駕するその圧倒的なスピードで空中のプルちゃんを追い越し、プルちゃんのプニプニした体を空中のクッションにして、さらに一段高く、鋭く跳躍してみせたのだ。
空中で見事な宙返りを決め、音もなく芝生に着地するノワール。
「うん! バッチリだよ二人とも! この『プルちゃんトランポリン作戦』なら、どんな高い場所にいる敵にも奇襲をかけられるね!」
『ニャァァ〜ン』
『プルル!』
ニーナの足元に巨体をすり寄せて甘える真っ黒な黒豹と、その背中でぽよんぽよん跳ねるスライム。
縁側でその様子を見守っていた俺は、温かいお茶を啜りながら感心して頷いた。
「すごいな。
ノワールの身体能力の高さもさることながら、プルちゃんの弾力とクッション性をあんな風に連携に使うとは」
「えへへ、ありがとうございますマスター! これなら、冒険者ギルドの依頼もこなせる気がします!」
ニーナは胸を張り、自信満々な笑みを浮かべた。
ペガサスから覚悟を問われたニーナにとって、ここからが本当のテイマーとしての第一歩なのだ。
「よし。ノワールとプルちゃんの息も合ってきたことだし、今日はニーナの初任務といくか。……そういえば、ニーナの冒険者ランクっていくつなんだ?」
「あっ、えっと……」
途端に、ニーナの表情が気まずそうに曇った。
彼女はもじもじと指を絡ませながら、小さな声で白状する。
「……実は、私……一番下の『Fランク』なんです。プルちゃんしかいなかったので、街の中で迷子の猫探しとか、薬草の採取くらいしか依頼を受けられなくて……」
「なるほど、完全な新人ランクか。それなら、ちょうどいい腕試しの依頼があるぞ」
俺は手元の羊皮紙の束から、一枚の依頼書を抜き出してニーナに渡した。
「近隣の森の入り口に、小規模なゴブリンの群れが住み着いたらしい。数は五、六匹程度だ。初心者向けの討伐依頼としては定番だが、どうだ?」
俺が提案すると、ニーナはゴクリと生唾を飲み込んだ。
ゴブリンは個々の力は弱いが、粗末な武器を持ち、集団で襲ってくる邪悪な魔物だ。
ウサギが可愛くて狩れなかったノワールにとって、初めての実戦相手となる。
「……ノワール。ゴブリンだけど、戦える……?」
ニーナが不安げに見下ろすと、ノワールは首を傾げてから、キリッとした金色の瞳で力強く頷いた。
『ニャン!』(ウサギさんみたいに可愛くないから、全然平気ニャ! ニーナはぼくが守るニャ!)
「ノワール……! !」
どうやら、相手が可愛くないという明確な基準があれば、彼の本来の戦闘能力は遺憾なく発揮されるらしい。
俺とシリウスはサポート役として後ろから見守ることにして、俺たち一行はゴブリン討伐へと向かった。
◇ ◇ ◇
森の入り口付近。
木々の間に開けた小さな広場に、薄汚れた腰布を巻き、錆びた剣や棍棒を持った六匹のゴブリンたちがたむろしていた。
「ギィィッ!?(人間だ! 殺して身ぐるみ剥げ!!)」
こちらに気づいたゴブリンたちが、醜い笑い声を上げて一斉に襲いかかってくる。
初めての醜悪な魔物の殺意に、ニーナの肩がビクッと震えた。だが、彼女は逃げずに両足でしっかりと地面を踏みしめ、相棒たちに指示を出した。
「プルちゃん、ノワール、お願い! 打ち合わせ通りに!」
『プルルッ!』
『ニャアアァァッ!!』
甘えん坊の鳴き声とは裏腹に、ノワールの動きは文字通り『漆黒の暗殺者』そのものだった。
木々を蹴り、残像を残すほどの超スピードでゴブリンたちの死角へ回り込む。ゴブリンたちが「消えた!?」と慌てて周囲を見回した瞬間――。
『プルルンッ!!』
ノワールが蹴り飛ばした石ころをクッションにして高く跳躍したプルちゃんが、先頭のゴブリンの顔面にベチャリと張り付いた。
「ギャビッ!?(前が見えねェ!!)」
視界を奪われ、パニックに陥って武器を振り回すゴブリン。
その混乱の隙を、誇り高き黒豹が逃すはずがない。
『シャァァァッ!!』
ノワールが音もなく風のように駆け抜け、鋭利な爪が静かに閃いた。
他者の苦痛を好まない彼の優しさゆえだろう。その一撃は、ゴブリンたちに痛みを感じる隙すら与えず、首の動脈などの急所を正確かつ一瞬で断ち切っていた。
悲鳴を上げる間もなかった。
武器を振り回していたゴブリンたちは、自分が斬られたことにすら気づかないまま、糸が切れた人形のように次々とその場に崩れ落ち、事切れた。
プルちゃんのスライム特有の粘液による目眩ましと、ノワールの圧倒的なスピードによる、文字通り『一撃必殺』の暗殺術。二匹の連携は、六匹のゴブリンをわずか数瞬で完全に討ち取ってしまったのだ。
「すごい……! やった、やったよ二人とも!!」
ニーナが歓声を上げて駆け寄る。
最後のゴブリンが倒れたのを見届けたノワールは、さっきまでの鬼神のような動きが嘘のように、すぐに耳をペタンと伏せて『ニャ〜ン』と甘えた声を出しながら、血のついていない頭をニーナの胸に擦り付けた。
「よくやったぞ、ニーナ。ノワールもプルちゃんも完璧な連携だった」
後ろで見守っていた俺は、ゆっくりと歩み寄ってそれぞれの頭を順番に撫でてやった。
シリウスも『ブルルッ!(お見事だったよ、ノワール! プルちゃん!)』と誇らしげに鼻を鳴らしている。
「ありがとうございます、マスター! 私、なんだか少しだけ、テイマーとしての自信がついてきました!」
満面の笑みを浮かべるニーナ。
彼女がペガサスに認められ、本当の意味で一人前のテイマーになる日は、そう遠くないかもしれない。
そんな予感を胸に、俺たちは初任務の成功を祝って、意気揚々とギルドへの帰路につくのだった。
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