表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/93

第42話:悪魔と呼ばれる馬の憂鬱

 話は少し遡る。


 この広大な中庭付きのギルドハウスが完成し、俺たちが引っ越してきてすぐの頃のことだ。

 俺はギルドの専属テイマーとして雇い入れた少女、ニーナを中庭に呼び出していた。

 目的は一つ。俺たちの最大の秘密を、彼女に共有するためだ。


「マスター、お庭で何か手伝いですか?」


「いや、ニーナにはちゃんと紹介しておかないといけない奴がいてな。……おいファル、もういいぞ」

 俺が声をかけると、シリウスの頭に乗っていた光の球――『龍玉』がふわりと宙に浮き上がり、眩い光を放った。


『ふぁ〜あ。やっと広いところで手足が伸ばせるぞ!』

 光が収まると同時に、中庭の芝生の上には、全長三十メートルを超える純白の毛並みを持った超巨大な竜が現れた。神獣、『幸運の白竜』ファルである。


「えっ……? ええええええっ!?」

「驚くのも無理はないが、こいつはファル。俺のもう一匹の相棒だ。普段はあんなふうに小さい玉に入ってるんだが、ここなら人目につかないからな」


「りゅ、竜!? 竜ですよね!? しかもすっごくモフモフの……!!」

 恐怖よりも好奇心と「モフモフへの愛」が勝ったのか、ニーナは目をキラキラさせてファルの巨大な前足に抱きついた。さすがは生粋の魔物好きである。


『む? なんだこの小さな娘は。エル、食前のデザートか?』


「違う違う! うちのギルドの大事な従業員だ。絶対に食うなよ」


『冗談だ。我は美味い肉しか食わん』

 俺とファルがそんな軽口を叩き合っていると、ニーナがハッとして俺の顔を見上げた。


「マスター……今、ファルちゃんとお話ししてませんでした?」


「ん? ああ、そういえばニーナには言ってなかったな。俺のテイマースキル、どうも魔物と『会話』ができるみたいなんだ。

 シリウスの言ってることも、ファルの言ってることも全部わかるぞ」


「ええっ!? ズルい!!」

 ニーナは頬を膨らませて地団駄を踏んだ。

 動物や魔物が好きな人間なら、誰もが一度は夢見るはずだ。「この子たちと直接言葉を交わしてみたい」と……その気持ちは痛いほどよくわかる。


「マスター、私にもそのやり方教えてください! 私もプルちゃんとお話ししたいです!」


「うーん、それがな……どうして俺だけ会話ができるのか、自分でもさっぱりわからないんだ。スキルの一種らしいから、教えようがなくてな」


「そんなぁ……」

 あからさまに肩を落とすニーナ。

 その足元で、彼女の従魔であるスライムの『プルちゃん』が、慰めるようにぽよんぽよんと跳ねている。


「言葉は直接わからなくても、愛情を注いでいれば、相手の『意思』が通じる瞬間ってあるだろ?

 ニーナは魔物への愛が強いんだから、まずはそれを極めていけばいいんじゃないか?」


「意思……! はいっ、私、プルちゃんのことならなんだってわかります!」

 俺のアドバイスに、ニーナは元気を取り戻してプルちゃんを抱き上げた。


「よし、じゃあ今プルちゃんがなんて言ってるか、マスター通訳してください! 答え合わせです!」


「お、おう。いいぞ」

 ニーナはプルちゃんをじっと見つめ、自信満々に言い放った。


「『ニーナ大好き! ずっと一緒にいたい!』……って言ってますよね!」

『腹減った。甘い水くれ』


「いや……

 腹減った、甘い水くれ……って言ってるぞ」

「ええっ!?」

 ニーナは少しショックを受けたようだが、気を取り直して二問目に挑戦する。


「じゃあ……『早く立派なスライムになれるように、特訓したい!』ですか!?」

『ここの芝生、ちょっとチクチクする。もっと柔らかいクッション敷いてほしい』


「芝生がチクチクするから柔らかいクッション要求……だそうだ」

「プルちゃぁぁんっ!? 全然わかってなかったぁぁーっ!!」

 頭を抱えてしゃがみ込むニーナと、マイペースに震えるスライム。


 そのあまりにも明後日の方向に向かっているやり取りに、俺は思わず吹き出してしまった。

 言葉が通じないからこその、すれ違いの面白さと温かさ。ギルドの中庭には、平和でコミカルな笑い声が響いていた。


 ――しかし。

 そんな楽しげな光景を、少し離れた木陰からじっと見つめている影があった。……シリウスだ。


 いつもなら、真っ先に俺やニーナの傍に寄ってきて鼻面を擦り付けてくるはずのシリウス。だが今の彼は、どこか遠慮がちに、一歩引いた場所から俺たちを眺めていた。



『…………』

 シリウスは自身の足元で揺らめく「青い炎」を見つめ、小さく、悲しげな鼻鳴らしの音を漏らす。

 彼は知っていた。


 人間たちが自分を見て怯える理由を。自分が『ナイトメア』と呼ばれる悪魔種であり、人々から災厄の象徴として忌み嫌われている存在だということを。


 エルヴァンは「最高の相棒だ」と笑ってくれる。ニーナも怖がらずに接してくれる。

 だけど、この平和で温かい輪の中に、自分のような『悪魔』が本当に混ざっていいのだろうか。僕の青い炎は、いつか彼らを傷つけてしまうのではないか――。

 エルヴァンとニーナの笑い声が響く中、シリウスだけは、その楽しげな光景を素直に楽しむことができずに、ただ静かに目を伏せていたのだった。

◆◆◆◇◇◇◆◆◆


 読んでいただきありがとうございます。


 シリウスガンバれーー!!っと思った方は、ブックマークや評価をお願いします。

 皆様の応援が、モチベーションアップの原動力となります。


 毎日、午前7時頃に更新予定です。よろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ