依存者たちはおかしい
肌寒い季節になり、財布の中身が寒い人々も目立ちはじめる。
駅前に新しくできたパチンコ屋「GEROMARU」はたいへん賑わっている。ちなみにゲームショップのGEROとは無関係だ。
休日ショッピングの最中、初雪と春風の前方から床屋の主人が歩いてきた。例の通せんぼおじさんである。
しかし、本日彼は通せんぼをしなかった。
「あれ? 通せんぼしないのかいな?」
そこでようやく初雪たちに気がついた床屋の主人がどこか虚ろな目を向けた。
「あぁ、お嬢ちゃんたちかぁ……今日通せんぼできねーんだっぺよ……オレぁよぉ、朝一から並んで新台のジェミニオン打ってたんだけっどよ、なんだがぜんっぜん当たんなくてよ、二千回転ハマってお金ぜんぶなくなっつまったのよ。つーわけで、おっちゃん今から自殺すっかもしんねーがら、よろしくねぇ。えへ、えへへへ」
笑っているけど、笑っていない。目がマジでヤバい!
「うわぁ、おっちゃん、それはダメだよ━━ほら、一万円あげるから、明日も生きろ。な?」
女子中学生から手渡された一万円を握りしめ、くるりと反転した床屋の主人の足は、再びパチンコGEROMARUを目指してすすんだ。
「やっぱり死んでしまえーっ!」
5歩くらいで追いついた初雪がうしろから喧嘩キックを叩き込んだ。
「ほげえっ!」
地面に転がった床屋が、ゆっくりと立ち上がる。その目には涙が溢れていた。
「ああ……オレぁ、オレぁなんっつーことを! なんだってんだオレはよぉ……ううっ、ううう~ん、えぐっ、ひぐっ。なんでこんな、こんなダメな人間になっつまったんだオレはよぉ~ん。お嬢ちゃんからもらった一万円で、またパツンコやろうとするなんて……終わってる。人間として終わってるぅぅぅ……うへんうへん」
初雪に渡された一万円札を握りしめた手が、プルプルと震えている。
「これは……重度の依存症だろうな。パチンコなんて、それほど楽しい遊びとは思えんが、ギャンブル性というものは、人を虜にしてしまうからな。狂ってしまう人間など、いくらでもいるだろう」
冷静な意見を言う春風。
初雪はとりあえず、床屋を立たせてあげる。そういえばこのオヤジの名前をしらない。昔から床屋と呼ばれていたし、初雪もそう呼んでいたから。
「おっちゃん、今ならまだやり直せるよ。とりあえずその一万円はあげるから、パチンコ屋に背を向けて歩くのだ!」
言って、手を引いてやる。
またいつ、パチンコ屋に引き寄せられるかわからない。
「けしてうしろを振り向くな! うしろには現金を吸い尽くす悪魔の城が聳えている!」
「え~、それってわたしのお家ですか~?」
突然横からかけられた声に、初雪は驚いた。
思わず床屋の手を離したら、その瞬間にUターンしようとしたので、すかさず、今度は春風がその腕を掴まえなくてはならなかった。
「なんだこのおっさん、手がかかる!」
「なにやってるんですか、二人とも?」
そこにいたのは、私服姿の梨理夢だった。彼女にしては珍しく、露出のない服装で、下はズボンだった。スカート以外の姿は、もしかしたらはじめて見るかもしれない。
「りりちんこそ、お買い物?」
「わたしはエキス玉の受け渡しで、薄暗い路地裏に行ってきたところだよ~」
「エキス玉? それ、なに?」
初耳だったので、尋ねる。
「エキス玉はね、最近開発されたわたしたち向けの商品で、男性のエキスが凝縮された魔界のサプリメントなんです。こちらでそれを売っている悪魔さんがいまして、そのかたと取引してきたの」と、梨理夢は説明した。
「ほえ~、そんな新商品が……」とはいえ、興味はない。食べたらお腹を壊しそうだなという印象だけはあった。
「あ、だから最近お兄ちゃんのパンツ欲しがらなくなってきたのか!」
そのことに思い当たる。
「用意してください」と言われることが、初雪自身少なくなってきたと感じていたのだ。最近は、すっかりなくなっていたし。
「お兄ちゃん、寂しがってたよ」これは嘘だが。
「あら~、それは申し訳ないです。では今度、またユキちゃんのお兄さんに、おパンツもらいに行きますね?」
「いや、無理して行かなくても……」
春風の言葉は、流された。
「ま、それはそうと、今はこのおっちゃんを送り届けてから、お家の人に依存症のことを説明してあげなくちゃだから、りりちんまたね!」
「はい~、お兄さんによろしくね~」
「さあ、歩け囚人!」
春風が、力任せに引っ張って行った。




