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妹のトモダチが全員なんかおかしい  作者: 虹ケ原光輝


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コンビニ店長おかしい

「え? ほんとに連絡先交換したんですか?」

 放課後の通学路、初雪、春風、季瀬姫の三人は今日あったばかりの出来事を話題にしながら歩いていた。

 プロサッカー選手の男性に気に入られた初雪が、連絡先を交換していたのだ。


「うん。メタロウくんがどーしてもって聞かないから、仕方なくね」

 こんな調子で、いつも歳上の男性を支配下に置いてしまう(?)初雪に、季瀬姫はひそかに憧れていた。自分にはできないことだとわかっていればいるほど、憧れは強くなる。天才的な頭脳を有する季瀬姫とて、それは変わらなかった。


「メタロウくんとフトロウくんの名前が似てるので、多分そのうち間違えるなこれは」

 と、これは独り言。

「そんなことより━━晩ごはん買わなくちゃだから、ヘンダーソンに寄っていこう!」

 すでに兄が留守であることは話していた。その上で春風と季瀬姫を家に呼んで、泊まっていってもらうことが決まっていた。

 これで寂しくない━━でも、ご飯を作る係がいないので、買っていかなきゃならない。材料を買って自分で調理するという発想は、今のところなかった。


「コンビニ弁当か━━初雪は、初雪兄がいないと食事にも困るわけだな」

「大丈夫、お金ならあるから!」

「……なんだろう、初雪の将来が心配に……」


 そんなことを言い合っているうちに、ヘンダーソンに到着した。


 赤とオレンジと緑と青とかがごちゃ混ぜになったカラーが目立つ、チェーン店。人気アニメなどとのコラボ企画がやたらと多く、その手の商品も常時なにかしら置いてあるような、アニメファンに比重を置くコンビニである。初雪などのアニメオタクにしてみれば、普通のコンビニよりはベターな店舗であるのだが、興味のない人からするといちいちアニメキャラクターのイラストが入った商品は、邪魔でしかないかもしれない。水着美少女がプリントされたミネラルウォーターなどは、買いにくいことこの上ないだろう。


 ジャンジャガジャガガガジャジャジャジャジャギョギョーンッ!


 っと、これは来客をしらせるデスメタルベースのメロディである。

 音量は抑えられてはいるものの、それでもなおうるさい。近所迷惑ギリギリのところだ。


 入ってすぐのイベント棚には、偶然にも今日が発売日となっていた十八番くじ「ナイトクロウラーさんのご注文は(わら)ですか?」が置いてあったので、目に留まる。

「やった、『ごちわら』のおはこくじだ。A賞がナイトクロウラー抱き枕……欲しすぎる」

「ちょっと初雪、また無駄遣いは━━」

 彼女の兄が留守でいない━━という情報も手伝ったのか、春風はなんとなく保護者のような気持ちでたしなめる。

 が━━

「だいじょぶ春ちゃん、一回だけにしとくから!」と、初雪は止まらなかった。

 まあ、一回だけなら……と、春風もそれ以上強くは言えない。そもそも自分のお金で支払うのだから、友人といえど文句を言うようなことではないのだが。


『引きたい者はこの券をレジまでお持ちくだされよ』という券を一枚手に取ると、レジへと向かう。

 今日はアルバイトの店員ではなく、店長が担当していた。


「おお、マサやん店長、おひさしブリリアント!」

「あ、初雪様! おひさしブリリアント!」

 え、と春風と季瀬姫は困惑した。

 はじめて見るその人物は、どこかおかしい。声がやたら高くて、初雪を初雪様と呼んだ時点でそれは十分に理解できた。

「ごちわらのくじ、一回やるよん」

「やりました、予想通り! 初雪様なら食いつくと思って、仕入れておきましたでござる!」

「さすがマサやん店長、わかってるぅ!」


「なんだこいつら……」じと目の春風が呟く。

 他に客がいないのはよかったが……そう思いながら、後方で見守る春風と季瀬姫。


「もちろん狙いは?」

「A賞の抱き枕! いざ、わたしの神の手がだいたい底のほうに溜まっている当たりのくじを引き当て━━これだぁぁぁぁっ!」

 本当に、他に客がいたら迷惑そのものの声で叫んだ初雪が、くじを一枚取り出した。

「大げさすぎるだろ、一枚引くのに……」

 春風の笑顔もひきつっている。


「では開けます……ペリッと……B賞! くあっ、おっしー! いっこズレたか!」

「ほおお、でもすごいでござるよ。上位賞ゲット、おめでとサンキュー・ベリベリかわいい初雪様最高説!」


 いい大人がそんなことをほざいて、初雪の当てた賞品『B賞・ナイトクロウラーさんおしゃべりBIGぬいぐるみ』を持ってくる。

 それを大きな袋に詰めながら、はぁ、とため息を漏らす店長。

「ありゃ、マサやん店長どんまいだよ。ごめんねさっそくB賞減らしちゃって……」

 気を使った初雪だったが、どうやらそれは勘違いだったようで━━

「いや、いやいやいや、これはそういうため息ではないのでござる! 初雪様に非はないですからね? むしろ上位賞ぜんぶ初雪様に引いてもらいたいから!」

 嫌われるとでも思ったか、やけに焦って弁解した店長。

「なら、他になにかお悩み事?」

「ええ、まあ、たいしたアレじゃないんですけどぉ……」

 そう言って、つづける。

「あたくし、スマホでちょこちょこっと小説を書いてましてね━━」

「あ、もしかして『小説家になれる』?」

「そ、そうです! 初雪様もやっておられた?」

「うんにゃ、やっておられないけど、トモダチがやっておられる」

「そうですか━━それでですね、それをネット小説コンテストってのに応募してたのでござるが……これが見事に、一次選考で落選! まさかの一次選考で! もう、一ミリも可能性がないってことじゃないですか、あたくしの作品!」

 頭を抱えて、身をくねらせる店長。すでに仕事中だということを、どうやら忘れている。


「それは……残念賞だったね」

「ええ、ええ、わかっていますよ。流行りの異世界転生ものをやらないあたくしが悪いのですよ! でもね、みんなそんなんばっかり真似して量産してどーすんの? って思いません? なんでそんなんばっかり流行っているのかそもそもわかりませんし、早く流行りが終わればいいとすら思ってますし、いざ流行らなくなった時に『小説家になれる』はどーなるの? って思いません?」

 なぜか歯止めが利かなくなり、熱くなって話す店長は正直こわかった。あと気持ち悪い。

「いや……特にはなんとも」

 初雪ですら、少し引きぎみで答えた。


「おもしろくないわけがないと思うんですよ、あたくしの作品だって! だって、あたくしがおもしろいと思って書いているのでござるであるのだから! 読みにくいとかなんとか、なんとかかんとか言いよってからに━━だいたい小説というものは元来読みにくいもので、それを一生懸命読み進めていくのも一つの楽しみであるのでござるのですのに……そもそもネット小説特有の文法があるとされる時点で、それはもう小説ではござらん、別のなにかであるとあたくしは宣言しますですよ。で、ござるよ! 読みやすく読みやすくなんて言って、それはもうライトノベルですらないメールかツブヤキッターに毛の生えたような作文でござるよもうっ! うわぁぁぁーん、ママーっ!」

 最後にはとうとう、感極まったのか泣き出してしまったマサやん店長。

 さすがの初雪も、どうすることもできなくて、立ち尽くすしかなかった。


「おいおい……勘弁してくれよ、マジで」

 春風が離れたところで、そう言った。


 *****


「マサやん店長、よっぽど悔しかったみたいだねぇ、落選したことが」

「いや、それにしたってアレはないだろ。正直、どうかしているぞ」

 その後、なんとか落ち着きを取り戻した店長。

 初雪たちは当初の目的だった夕飯となるコンビニ弁当などを買うと、そそくさと退散した。

「お元気だしてね、そのうちいいことあるよ」と言った初雪に頭を下げて拝んでいたのは気になったが、なんとか元の店長に戻ったようだった。


「一応見てみるか━━マサやん店長の小説」

 誰でも無料で読めるので、気楽に見ることができる。

 マサやん店長のペンネームは「伊達(だて)むね肉」らしいので、それで検索する。

(ペンネームからは、嫌な予感しかしないにょ)

 思いながら、検索結果を見てみる。該当する著者の作品はひとつしかなかったので、おそらくそれがコンテストで落選したという作品で間違いなさそうだ。


『タイトル「首斬(くびき)り天使ハヅキちゃん」━━あらすじ……戦国の世に堕天した元天使のハヅキちゃん。彼女はその力を使い、乱世を生きる。のちの歴史に名を残す武将たちと協力し、対立しながら、誰も見たことのない歴史をつくる』


「あれ? 思ったほど……悪くなさそうだけど?」

「確かに……むしろ一次選考くらいなら通っていてもいいような━━ポイントも高いし、内容も悪くなさそうだぞ」


 本文も少しだけだが、読んでみる。

 うん、やはり悪くない。

 読みにくいとかどうとか言って気にしていたようだが、そんなことはなく、やはり歴史物なのでそれなりに難しい表現も出てくるのだが、小説としては当たり前の範疇にある。

 すると、やはり選ぶほうに問題があるという話なのだろうか?

 だとすれば、これは大きな問題ということも━━ん?

 ふと思いつき、それを口にする。

「これって、どうやって応募するの?」

「さあ?」

 気になったので、一度小説を閉じてから「ネット小説コンテスト」のページを開く。

 応募要項が書かれていた。

 それによると、特定のキーワードを設定することで、参加したことになるらしい。

 キーワードはそのもの、「ネット小説コンテスト」だった。

 再びマサやん店長の書いた小説を見る。小説情報のところで、設定されたキーワードも確認することができた。

 が━━その検索ワードの中に「ネット小説コンテスト」の文字はなかった。

 代わりに「はつゆきさま最高」などという無駄な検索ワードが、本人に無許可で入っている。


「あー、これって……」

「参加してないじゃないか。応募したと思い込んでいたんじゃないのか?」

 だが、落選が決定したあとに消去したという可能性もある。なので、初雪はわざわざコンビニに電話して、それを確認した。


 マサやん店長の答えは「え……うわあああああーっ!」だった。

 それが、すべての答えである。

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