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妹のトモダチが全員なんかおかしい  作者: 虹ケ原光輝


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名前も正体もおかしい

 昼休み━━今日も今日とて初雪の周りには、仲間たちが集まってきていた。

「キーちゃんが来てないのは、おかしいなって思ってたんだよ。ねえ、春ちゃん」

 朝、会うなりエイチシステムの話題を振ったときに、季瀬姫がゲームの世界に来なかった理由は聞いていた。

 発売当日、彼女はプレイヤーとしてではなく、メーカー側の人間として活動していたらしい。これは、開発者であるエイチシステム社の社長から直接頼まれたという話で、各プレイヤーのログイン状況やプレイ内容をモニターしていたようだ。

 なにも問題はありませんでしたので、ただ観賞していたようなものですね、と季瀬姫は話した。


「でもほんと、すごいよねエイチシステム。夏休み中じゃなくて、マジでよかったと思うよ」

「なんだ初雪、むしろ夏休み中に発売してほしかったみたいなこと、言っていたじゃないか」

 確かに言ってたけどさ、と初雪はつづける。

「実際やってみたら、ほんとヤバ楽しすぎたから、これが夏休み中だったらって思うと、寒気がしたね。多分、朝から晩まで瞬間ワープ的にのめり込んで、他のことできなかったと思うから━━みんなとお出かけしたり、スプレの腕も上がったからね、このタイミングでベストだったよ」

 そう話す初雪は、近日開催予定の小規模なスプレトゥーン店舗大会に参加する予定だった。

 このゲーム大会は、おそらく狙ってそのような日程を組んだのであろうけど、同ゲームの全国大会初日と同じ日に開催されるので、当然、全国大会出場者は出場することができない。

 そのチャンスを生かして、せめて周辺地域のナンバーワンになろうという企みだった。


「それにしても、はっちゃんが村を手に入れたのは、すごいことですよ」

「やっぱ、そうなの? アメリカとフランス、それにスペインでもちょっと販売されたみたいだし、購入した人は、それこそ世界中にいるんだから、もっとすごいのゲットした人、いるんじゃないの?」

 すべて季瀬姫からの知識だったが、日本のみならず世界に向けてリリースされたエイチシステムは、当然、外国のプレイヤーも多く参加していた。

 そして、そこには言語の壁がありそうなものだが、ここもエイチシステムの恐ろしいところで「その人物の声(変えている、いないに関わらず)そのままで、音声を拾う側の言語に変換されて聞こえる」という、とてつもないテクノロジーが使われており、どんな国のプレイヤーとも言語の壁を越えて会話をすることが可能だった。

 ゲームの中とはいえ、ほとんど禁断とも思われる、言語統一が完璧に実現されていた。

 この技術を現実の世界で使用すれば、言葉の壁がなくなるだろう。その質問を、季瀬姫が開発者にぶつけてみたところ、現実には流用しません、という返答だった。

 言語統一を実現することで発生する様々な問題というのが、当然理由にはあったが、いわく、一番の問題は「面白味がなくなる」ことだと、開発者は語った。

 確かに、世界中の人々がみな一様に日本語を喋っているのを想像すると、せっかくの多様性が失われて味気ないし、正直、単純に不気味で仕方ない。

 開発者の意見も、もっともだった。


「そうですね、もちろん世界レベルのゲーマーさんたちとなると、初日からいろいろ成し遂げるもので、家を購入した人も少なからずいました。けっこうレベルの高いボスエネミーを倒したグループもいましたけど、町や城を手に入れたプレイヤーはいません。村レベルのロケーションですと、手に入れたプレイヤーは他にもいますが、それでも、はっちゃんを含めてほんの数名ですよ」

 仲間を誇るように、季瀬姫が声を弾ませて言った。


「やはり持ってるな、初雪は。わたしが先にゲームをはじめていたら、そんなラッキーはなかっただろうな」

「いやぁ、照れるにょ。でもほんと、ラッキーだったと思うよ」

「ですが、だいたいどんな町や村にもNPCがいるはずなんですけど、そう考えると、まるではっちゃんのために用意されたみたいな村ですよね」

「社長が用意してくれたのかな?」

「わかりません、けど、否定もできないですね。あの方の知能は人間以上ですから、なにを考えて、なにを仕組んだかなんて、とても考えが及びませんよ」

「人間越えたら、化け物じゃないか」

 少しだけ目を輝かせて、人間嫌いの春風が感想をもらした。化け物というよりは、神様じゃないのか、と初雪は思ったけど、黙っていた。


 *****


 放課後、一刻も早く帰宅してエイチシステムで遊びたい気持ちはあったものの、それより大事な用件のため、初雪は探偵事務所へと向かった。

 が、あいにく所長は留守で、所長の「妹」と言い張る銀髪美女の浄玻璃ニーナさんがいるだけだった。

「あれぇ、所長は?」

「すみません、お姉さま━━所長は新作ゲームの打ち合わせのため、東京に出向中なんです」

 申し訳なさそうに、ニーナさんは言った。約束があって来たわけではないので、これは仕方ない。

 大事な用事ではあるけど、急ぐわけでもなく、正式な打ち合わせは別日にちゃんと用意されている。

 ただ、お話しがしたいという理由で、突然やって来たので、いないならいないで問題なかった。

「新作ゲームって、フリキュアのですか?」

「ええ、もちろ━━あっ、これはまだ内緒でした! どうしましょう……初雪さん、どうか内密にお願いします。お姉さまだけでなく、企業のかたにも迷惑がかかりますので」

 うっかり口を滑らせたニーナさんは、眉尻を下げて懇願した。

 初雪はもちろん、口の固い聖女を自認していたので、誰にも漏らすつもりはない。

「大丈夫です、聞かなかったことにしますから」

 とは言っても、しっかりその未発表情報を得た初雪は、内心のワクワクを隠しきれていなかった。

 最新のVRゲーム機を持っていたって、フリキュアの新作ゲームは別物であるし、魅力が違う。おもしろさの種類がまったく違うもので、滅多に出ないフリキュアのゲームソフトが出るというだけでも、ファン心理としては期待せずにはいられなかった。


 そろそろ帰ろうかと思ったその時、探偵事務所に来客があった。

 わりと珍しいその状況に、初雪の足が止まる。

 やって来たのは、小太りのマダムだった。

 全身━━頭髪まで含めた紫色のコーディネイトが、衝撃的である。

「いらっしゃいませ、本日は━━」

「大変なのぉ、大変大変! エリザベスパトリシアマドンナちゃんがいなくなっちゃったのぉーっ!」

 全身で「大変」を表現したマダムが、ニーナさんの肩を掴んで揺らしている。

「エリザ━━だれそれ?」

 横から初雪が問うも、マダムには聞こえていないらしく、ニーナさんを揺すりつづける。

「あのっ、すいませんっ、落ち着いてっ、くださいっ━━揺れますっ、脳が……」

 そこでようやく手を離すマダム。彼女もニーナさんも髪が乱れて、なんだかよくわからない空気になっていた。

「はぁ、はぁ、ごめんなさい。でも大変なんですの━━あたくしのかわいい、かわいいエリザベスパトリシアマドンナちゃんが、いつの間にかいなくなってしまって!」

 だから何者なんだよ、そいつは。そう思った初雪だったが、外野なので黙っておく。

 代わりにニーナさんが訊いてくれたし。

「その、エリザベス……さんというのは、どのような方なのですか」

「エリザベスパトリシアマドンナちゃんはエリザベスパトリシアマドンナちゃんです! 大切な家族なんですのよっ!」

 わざわざ「大切な家族」と表現したことで、なんとなくそれがペットの話なのではないかと、初雪もニーナも推測した。

 あまりに溺愛するあまり、おそらくペット扱いや、あるいはその言葉自体がNGワードである可能性を考慮して、その先の会話には神経を使うことになった。


「ええと、つまり、人……探しというご依頼でよろしいでしょうか?」

「ええ、よろしいですから、とにかく早くお探し願えませんでしょうか。お金ならあります、いくらでもありますから━━あたくしの旦那が会社を経営しておりまして━━」

 その辺りはわりとどうでもよかったので二人は聞き流し、タイミングを見て話を元に戻した。

「ええ、ご依頼はわかりました━━ですが、現在所長がおりませんし、タケシくんもお休みなので、すぐには難しいかもしれません」

「そんなっ! あなたは、エリザベスパトリシアマドンナちゃんが心配じゃありませんの!」

 いや、とりあえず心配じゃないですけど━━言いそうになり、口を押さえる初雪。

「タケシさんも休みなの? あっ、そういやお兄ちゃんもバイト休みって言ってたかも」

「警察のほうに頼まれてはいかがですか?」

 人というてい(・・)で話はしているものの、人ならともかくペットを探してくれるはずもないが、おそらくその場しのぎでニーナさんは提案した。

 しかし、マダムは首を横に振り━━

「ダメです、嫌です、警察はちょっと……あまり好きではありませんから。どうしても、こちらで探していただきたいんです、すぐに! 今すぐに!」

「ですが、人手が……」

 困りきったニーナさんを見ていたら、勝手に口が動いていた。

「じゃあ、わたしが探してみるよ」

 それまで黙っていた初雪の言葉に、マダムもようやく気がついてくれた。

「あなたは?」

「わたしは……まあ、関係者の探偵です。私立探偵寿々木初雪……名探偵……初雪」

 などと、いい加減な自己紹介をする。

「湖南省くんみたいな?」

「そう、まさにそんな感じ。見た目は少女、中身は聖女!」

「でも、初雪さんに頼るわけにも……」

「いいっていいって、気にしないでよニーナさん。いっつもお菓子もらってるし、所長への恩返しにもなるし、たまには役に立たないとね」

 渋ってはいたけれど、依頼内容がペットの捜索であるということもあってか「では、申し訳ないですけど、お願いしていいですか?」と、最後には任せることに決めたニーナさん。

「もっちろん、まかせといて!」

 元気よくポーズを決めて、初雪はマダムに向き直った。


「そんでぇ、エリザベスなんたらちゃんの……えっと、見た目とか特徴ってどんなの?」

「エリザベスパトリシアマドンナちゃんです。エリザベスパトリシアマドンナちゃんはエリザベスパトリシアマドンナちゃんなので、それ以外のなにものでもありませんわ」

「いや、それじゃ探しようが……じゃあもうはっきり訊くけど、犬種はなに?」

「犬じゃあございません!」

「ね━━」

「猫でもありませんっ!」

「なに探せばいいんだよ、もぅ」

 諦めた初雪がじとっと睨むが、マダムはそれでも明言を避けて、動物であることさえ認めようとはしなかった。


「紫色の大きなリボンをつけていますから、それを目印に探してください。見ればおわかりになると思います、すぐに!」

「はぁ、しょーがねぇなぁ」

 ため息混じりに呟いた初雪は、結局自分がなにを探しに行くのかわからないまま、探偵事務所をあとにした。


 *****


 マダム情報によれば、闇谷町子著骸(こちょがい)のタバコ屋付近で、気づいたらいなくなっていたということだった。

 もちろん、町内の土地勘に優れた初雪は、すぐさま現場へ向かい、周辺の地理を頭の中で思い描く。

 道はどこへでも繋がっている。なので、仮に探している対象が犬であった場合、もはやどこへ行ったかなどは、わかりようもない。意外と家に戻っているのではないかという気もするが、なぜかマダムが「エリザベスパトリシアマドンナちゃんは、一人では帰れませんから」とはっきり断言していたので、そこからすると、まだ周辺に滞在している可能性もなくはない。


 タバコ屋のおじいさんがいたので、訊いてみることにする。

「おじいちゃん、犬かなんか見なかった?」

「いやぁ、なんも見てねーなぁ。それより初雪ちゃん、タバコ買わない?」

「捕まるよじいちゃん……」

 タバコも値上がりがつづいて、売れ行きがよくないのだろう。だからと言って子供に売りつけようとするのは、冗談でもよろしくないのだが、そこは顔見知りなので、大目にみておく。


「うーん、まいったなぁ……水路でも探すか」

 航空写真なみの俯瞰風景を思い描き、近くに水路があったことを思い出す。

 道路のすぐ脇にあって、しかも低い位置にあるため、過去には子供が転落して死にかけたという事件もある、やや危険なスポットだ。


 自分も二の舞にならぬよう、慎重に水路を覗き見ると、ちらっと、紫色のリボンが見えた。

「わっ、うそマジ、見つけたかも……」

 自分の運に鳥肌さえ立てながら、もう一度、今度はもっと身を乗り出して、水路の中を確認する。

 水路の中に、見慣れない、爬虫類のようななにかがいた。

 その首あたりに、紫色の、大きなリボンが付いているので、多分、間違いなく、マダムの言う「エリザベスパトリシアマドンナちゃん」だろうと思われる━━が、場所も場所だし、それ以上に思ってもみなかった姿だったので、ちょっと捕まえようとは思えなかった。

 それでも、よくよく観察して見ればそれは、どうもワニに見えなくもない。子供のワニのようである。

 なので、電話をかけた。

 兄に。

「お兄ちゃん? あのさぁ、すぐ来てー。いいから、すぐ来てよ。あ、それと、お庭の物置小屋にパパの魚捕る網あったよね? うん、そう。あれ持ってきてよ。いや、そういうんじゃなくて、いいから、ごちゃごちゃ言わんと、はよ来てよ。すぐに、今すぐに! 急ぎの用件だから、走れポンコツ! 足を動かせ! あっ、うん、めんごめんご━━場所は子著骸のタバコ屋さんのところね。うん、じゃあ待ってるから、よろしくぅ。それと、十分以内に来ないとベッドの下のスケベな本を机の上に綺麗に並べてあげるからがんばれよー」

 こうして、あとのことは兄になんとかさせようと思い、とりあえずタバコ屋まで戻る初雪だった。

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