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記憶を失くした旧支配者  作者: 南瓜
2日目
9/45

約束?

 いーださんは、すっかり機嫌を直したようだった。


 いつも通りの、明るい声と笑顔。



 そんな彼女がいれば、何も不安なんて感じなかった。


 自分がどんな存在かなんて、忘れてしまうくらい。

 彼女と過ごす時間は、あっという間に過ぎていく。

 彼女といると、楽しい。


 彼女に聞きたいことはまだまだあっただろうが。

 そんなことはもうどうでもよくなっていた。



__________________



「これが『風』。で、これが『土』、こっちが『火』って言うの。」

「………はい。」

「『水』と『土』は、結構仲良し。『風』と『火』は、『水』が大嫌い。」

「……。」

「『土』は『火』のお願いは聞いてあげるけど、『風』のお願いは聞かない。」

「……zz。」

「それで『水』は……クー?」

「あぁ!………」

「眠いの~?」

「…い、いいえ。」



 いーださんと、寝室で本を読んでいる。


 さっきの一件もあって。やっぱり僕は色々足りてないとわかった。

 だから、色んな物を見て、何が足りないのか探そうと思った。

 その一環として、彼女の協力の元、本を読むことになった。


 でも。





 飽きてきた。



 本のなかには、たくさんの文字が埋め込まれている。

 それらを見て、たくさん考えなきゃいけなかった。

 たくさんの文字を見ていると、なんだかとても疲れる。


 何も考えたくなくなってくる。


 思ってたのと違った。


「本はやめにしよっか♪」

「…はい。」


 また、何かに敗北した気がする。




「…『パソコン』が、こういう時にあるといいかもねぇ~」

「…『パソコン』?」


 聞きなれない言葉に、興味が湧く。


「『ヒト』が作った、便利な本みたいなものなんだってさ。調べようと思えば、どんなことでも調べられるの。」

「……へぇ。すごいですね。」



 それは興味がある。

 どんなことでも調べられる。なら、自分自身のことを調べようとすれば解ることがあるかも。


「…欲しいです。その…『パソコン』」

「うんっ♪今度買っておくっ!」



 そう答えてくれた。

 近いうちに、その『パソコン』に出会えるかもしれない。

 ちょっと、わくわくする。



「う~んっ、じゃあ!次はゲームしよう!」

「…ゲーム?」

「うんっ!持ってくるねっ!」



 そう言って、彼女は何処かに駆けていく。



 …ゲーム。


 頭にぱっと出てこない感じからして、知らない物だ。

 どんなものだろう。


 少し、楽しみだ。


________________



 テーブルゲーム。


 そう彼女が呼んだ物が、今目の前にある。


 このテーブルゲームは「チェス」という種類の物らしい。

 お互い、いくつかの駒を操ることができて、相手の駒にある「王冠」の形をしたものを取れば勝ちらしい。

 駒の取り方や、駒の形ごとの動かし方などをいーださんに教えてもらっている。


 これはなかなか楽しそうだ。



 手取り足取り教えてもらいながら、それぞれの駒の動かし方と取り方がわかってきた。


 次第に、彼女とのゲームのやり取りがうまく取れてきて―――




「はいっ♪チェック~」

「…えぇ。えっと、じゃあ…」

「あぁんそこ行っちゃだめ~!」

「……あれぇ。えっと、こうかな。」

「…ふふ~ん♪チェックメイト~っ!」





 0勝8敗。


 凄く、難しかった。


 ルールはもうある程度解ってるし、少しはそれっぽくなると思っていた。

 ただ、このゲームも考えなきゃいけないことが多かった。


 それについていけず……。





 ついていけず……。






 敗北を味わい続け……。





 ……すんっ




「…え?わぁぁ~!く、クー!な、何も泣かなくたっていいじゃん!」

「…う。うぅぅ…。」

「よ、よしよしっ。ほらっただのゲームなんだからさっ!」


 目から涙が出てくる。



 自分は一生懸命だったのに。



 その結果が見い出せず。



 そんな自分が情けなくて。


「…もう、負けたくないですぅぅ…。」

「うわぁあ!えっと!よしよし~大丈夫だよ~クーは凄いんだから~!」


 自分でもびっくりするくらい弱弱しい声が出て。

 そんな自分を励ます彼女の明るい声を聞いて。


 なおさら涙の量が多くなっていく。




 もう、負けるなんて二度とごめんだ…。



__________________



 その後、夕食を取ることにした。


 朝食の時と同じように、香ばしい匂いを出しながら目の前に存在する料理。

 ただ一つ違うのは、天井のシャンデリアが灯りをともしている。

 おかげで部屋は明るい。料理達も、その明るさに答えるかのように艶やかに湯気を立てている。


 ただ、そのしつこい灯りに、あまりいい心地はしなかった。


 料理達に目をやる。

 改めて見ると、やはりどう見ても二人分とは思えない凄い量。

 パスタにローストビーフ、名前が解らない他のそれらも、器に山盛りに置かれている。



 そして、その料理の一つ一つを、ゆっくりと、順番に口に運んでいく。







 泣きながら。



「クーぅ?そろそろ泣き止んでほしいなぁ~。なんか食べずらいよぉ…」

「う…うぅ、す、すい―」

「謝らなくていいってばぁ~もう~」

「…すんっ、うぅ。」

「…困ったなぁ~。」




 彼女にとんでもない迷惑をかけていることは解ってる。

 でも、泣き止もうと思っても。


 僕の顔は全然言うことを聞いてくれない。



 ごめんなさい。いーださん。

 すみません。いーださん。

 申し訳ありません。いーださん。


 口に出さない代わりに、心の中でそう何度も言いつつ。




 目の前にある大量の料理をとりあえず完食することに成功する。


__________________




 夕食の片づけも終え、二人で寝室にいる。


 それぞれのベッドに横たわり、特に会話もなく時間が過ぎていった。

 部屋は少し明るい。

 ランプが、とても弱い光を灯しているおかげだ。

 周りの家具が、どこにあるかが解るくらいの明るさ。


 これくらいがちょうどいい。



「ねぇ~クー?」


 いーださんが唐突に話しかけてくれた。




「デートの件って、まだ有効~?」




 デートと言うトラウマ混じりの言葉を耳にし、彼女を見る。

 足をゆっくりパタパタさせながら、こっちを見ている。



「もしクーがいいなら~、明日、デートしないっ?」



 彼女は、ほんの少しだけ顔を赤らめているのがわかった。



「……はい。したいです。デート」

「ホントっ!?してくれるっ?」

「……はい。」

「…っっっっっ~~~!!!」


 足を激しくバタバタさせ、枕に向かって何か叫んでいる。


「じゃあ!明日はデートっ!約束だからねっ♪」

「…はい。」

「ふふふっ!おやすみっ!」


 そういうと、枕を抱きしめながら、くるっと向こう側をむいてしまった。




 そんな態度は。

 

 怒ってるのか、嬉しがってるのか。

 どちらとも取れた。どっちかは解らなかったけれど。




 少なくとも僕は。





 嬉しがっている。





__________________







「クトが目覚めているってぇ~?」



「マチガイ、ナイ、オデ、ミタ」



―暗い場所。


―灯りは少ない。


―風通しのいい洞窟。



「っふ~ん。どの辺にいるかわかるの?」



「ソレ、ワカラン、デモ、ミタ」



「…使えない奴だ。まぁいいよ。」



―大きな、羽のある化け物。


―小さな、男の子。



「どうせ出てこれば、すぐにわかるんだからさあああああ!」



―男の子の振るった刀が


―洞窟の一部を抉る。


―高ぶる気持ちが小さな体を振るわせる。



「せっかくお目覚めになったんだ。」



―ずっとニヤニヤしている。



「『アイサツ』くらい、シとかないとねえええええ!?」



―洞窟にこだまする。


―男の子の。


―歓喜と狂気の混じった叫び声が。














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