約束?
いーださんは、すっかり機嫌を直したようだった。
いつも通りの、明るい声と笑顔。
そんな彼女がいれば、何も不安なんて感じなかった。
自分がどんな存在かなんて、忘れてしまうくらい。
彼女と過ごす時間は、あっという間に過ぎていく。
彼女といると、楽しい。
彼女に聞きたいことはまだまだあっただろうが。
そんなことはもうどうでもよくなっていた。
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「これが『風』。で、これが『土』、こっちが『火』って言うの。」
「………はい。」
「『水』と『土』は、結構仲良し。『風』と『火』は、『水』が大嫌い。」
「……。」
「『土』は『火』のお願いは聞いてあげるけど、『風』のお願いは聞かない。」
「……zz。」
「それで『水』は……クー?」
「あぁ!………」
「眠いの~?」
「…い、いいえ。」
いーださんと、寝室で本を読んでいる。
さっきの一件もあって。やっぱり僕は色々足りてないとわかった。
だから、色んな物を見て、何が足りないのか探そうと思った。
その一環として、彼女の協力の元、本を読むことになった。
でも。
飽きてきた。
本のなかには、たくさんの文字が埋め込まれている。
それらを見て、たくさん考えなきゃいけなかった。
たくさんの文字を見ていると、なんだかとても疲れる。
何も考えたくなくなってくる。
思ってたのと違った。
「本はやめにしよっか♪」
「…はい。」
また、何かに敗北した気がする。
「…『パソコン』が、こういう時にあるといいかもねぇ~」
「…『パソコン』?」
聞きなれない言葉に、興味が湧く。
「『ヒト』が作った、便利な本みたいなものなんだってさ。調べようと思えば、どんなことでも調べられるの。」
「……へぇ。すごいですね。」
それは興味がある。
どんなことでも調べられる。なら、自分自身のことを調べようとすれば解ることがあるかも。
「…欲しいです。その…『パソコン』」
「うんっ♪今度買っておくっ!」
そう答えてくれた。
近いうちに、その『パソコン』に出会えるかもしれない。
ちょっと、わくわくする。
「う~んっ、じゃあ!次はゲームしよう!」
「…ゲーム?」
「うんっ!持ってくるねっ!」
そう言って、彼女は何処かに駆けていく。
…ゲーム。
頭にぱっと出てこない感じからして、知らない物だ。
どんなものだろう。
少し、楽しみだ。
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テーブルゲーム。
そう彼女が呼んだ物が、今目の前にある。
このテーブルゲームは「チェス」という種類の物らしい。
お互い、いくつかの駒を操ることができて、相手の駒にある「王冠」の形をしたものを取れば勝ちらしい。
駒の取り方や、駒の形ごとの動かし方などをいーださんに教えてもらっている。
これはなかなか楽しそうだ。
手取り足取り教えてもらいながら、それぞれの駒の動かし方と取り方がわかってきた。
次第に、彼女とのゲームのやり取りがうまく取れてきて―――
「はいっ♪チェック~」
「…えぇ。えっと、じゃあ…」
「あぁんそこ行っちゃだめ~!」
「……あれぇ。えっと、こうかな。」
「…ふふ~ん♪チェックメイト~っ!」
0勝8敗。
凄く、難しかった。
ルールはもうある程度解ってるし、少しはそれっぽくなると思っていた。
ただ、このゲームも考えなきゃいけないことが多かった。
それについていけず……。
ついていけず……。
敗北を味わい続け……。
……すんっ
「…え?わぁぁ~!く、クー!な、何も泣かなくたっていいじゃん!」
「…う。うぅぅ…。」
「よ、よしよしっ。ほらっただのゲームなんだからさっ!」
目から涙が出てくる。
自分は一生懸命だったのに。
その結果が見い出せず。
そんな自分が情けなくて。
「…もう、負けたくないですぅぅ…。」
「うわぁあ!えっと!よしよし~大丈夫だよ~クーは凄いんだから~!」
自分でもびっくりするくらい弱弱しい声が出て。
そんな自分を励ます彼女の明るい声を聞いて。
なおさら涙の量が多くなっていく。
もう、負けるなんて二度とごめんだ…。
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その後、夕食を取ることにした。
朝食の時と同じように、香ばしい匂いを出しながら目の前に存在する料理。
ただ一つ違うのは、天井のシャンデリアが灯りをともしている。
おかげで部屋は明るい。料理達も、その明るさに答えるかのように艶やかに湯気を立てている。
ただ、そのしつこい灯りに、あまりいい心地はしなかった。
料理達に目をやる。
改めて見ると、やはりどう見ても二人分とは思えない凄い量。
パスタにローストビーフ、名前が解らない他のそれらも、器に山盛りに置かれている。
そして、その料理の一つ一つを、ゆっくりと、順番に口に運んでいく。
泣きながら。
「クーぅ?そろそろ泣き止んでほしいなぁ~。なんか食べずらいよぉ…」
「う…うぅ、す、すい―」
「謝らなくていいってばぁ~もう~」
「…すんっ、うぅ。」
「…困ったなぁ~。」
彼女にとんでもない迷惑をかけていることは解ってる。
でも、泣き止もうと思っても。
僕の顔は全然言うことを聞いてくれない。
ごめんなさい。いーださん。
すみません。いーださん。
申し訳ありません。いーださん。
口に出さない代わりに、心の中でそう何度も言いつつ。
目の前にある大量の料理をとりあえず完食することに成功する。
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夕食の片づけも終え、二人で寝室にいる。
それぞれのベッドに横たわり、特に会話もなく時間が過ぎていった。
部屋は少し明るい。
ランプが、とても弱い光を灯しているおかげだ。
周りの家具が、どこにあるかが解るくらいの明るさ。
これくらいがちょうどいい。
「ねぇ~クー?」
いーださんが唐突に話しかけてくれた。
「デートの件って、まだ有効~?」
デートと言うトラウマ混じりの言葉を耳にし、彼女を見る。
足をゆっくりパタパタさせながら、こっちを見ている。
「もしクーがいいなら~、明日、デートしないっ?」
彼女は、ほんの少しだけ顔を赤らめているのがわかった。
「……はい。したいです。デート」
「ホントっ!?してくれるっ?」
「……はい。」
「…っっっっっ~~~!!!」
足を激しくバタバタさせ、枕に向かって何か叫んでいる。
「じゃあ!明日はデートっ!約束だからねっ♪」
「…はい。」
「ふふふっ!おやすみっ!」
そういうと、枕を抱きしめながら、くるっと向こう側をむいてしまった。
そんな態度は。
怒ってるのか、嬉しがってるのか。
どちらとも取れた。どっちかは解らなかったけれど。
少なくとも僕は。
嬉しがっている。
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「クトが目覚めているってぇ~?」
「マチガイ、ナイ、オデ、ミタ」
―暗い場所。
―灯りは少ない。
―風通しのいい洞窟。
「っふ~ん。どの辺にいるかわかるの?」
「ソレ、ワカラン、デモ、ミタ」
「…使えない奴だ。まぁいいよ。」
―大きな、羽のある化け物。
―小さな、男の子。
「どうせ出てこれば、すぐにわかるんだからさあああああ!」
―男の子の振るった刀が
―洞窟の一部を抉る。
―高ぶる気持ちが小さな体を振るわせる。
「せっかくお目覚めになったんだ。」
―ずっとニヤニヤしている。
「『アイサツ』くらい、シとかないとねえええええ!?」
―洞窟にこだまする。
―男の子の。
―歓喜と狂気の混じった叫び声が。




