バカ?
二人して寝室に入り。
彼女の背中を摩りながら。
寄り添うように、互いを支え合うように。
しょぼんとしていた。
「クー、ごめんね…。」
「……そんな、こちらこそす……ん。」
謝罪を意味する言葉はあえて使わないようにした。
使うと怒られる気がしたから。
僕がさっき一度消してしまった深い霧は、どうやらこの建物を周りから見えないように隠すため、意図的に発生させていた霧らしい。
霧を発生させていたのは、今にもまた泣き出しそうな彼女、いーださんだった。
この霧は、いーださんがこの建物を隠すために、様々な試行錯誤を兼ねて生み出した力らしく、かなりの時間をかけてようやく出力できるようになったのだとか。
それを、僕が一瞬で消してしまい、消してしまった理由は「妬ましい」から。
…あんなことするんじゃなかった。
そしてその霧を一瞬にして元に戻した今、彼女が悲しむ要素は少ないはずなのだが。
彼女は「この力は、クーに妬ましさを感じさせる力だったんだね…」と自分を責め、さっきから途方に暮れたような雰囲気を出し続けている。
どう考えても僕の勝手な行動が原因なのに、僕が謝ろうとすると彼女は
「クーは悪くないの!私が、私が…悪いんだよぉぉ…」
と言って聞かない。
これが何度か繰り返されて、今に至る。
堂々巡り、というのだろうか。
とりあえず今は、彼女がついさっき朝食の場で見せていたような明るい表情に戻るまで、そばにいることにした。
…。
静寂を打ち破るように。
なんとなく、口にした。
「………いーださん。」
「……………ぅ?」
返事が明らかに暗い。
それでも続けて話しかける。
「…僕に、何かしてほしいこと、ありますか。」
「…………ぇ?」
「……いーださんに、何か、してあげたいんです。」
「………。」
今の今まで、僕は様々な面で彼女に頼りきりだった気がする。
そのうえ、思わぬ迷惑をかけてしまった。
そんな彼女に、何かしてやりたかった。
彼女が喜ぶ何かを。
そう考えてると、途端に彼女がとても惨めで、愛おしく思えて。
そっと、こちら側に抱き寄せてみる。
突然のことに、「ぬぇ!?ぇ?」と声を上げ、顔を赤らめ、驚いている。
寄り添っているから解る、彼女の小さな肩幅。
ちょっと力を入れれば折れてしまいそうな、細い腕。
こんな健気な存在が、僕をここまで案内し、導いてくれた。
何でもいいから、何かしてあげたい。
そんな気持ちが、彼女のそばにいて、なお一層溢れてきた。
僕は彼女の茶色い眼をじっと見つめ、答えを待つ。
彼女は、湯気でもたちそうなくらい赤面している。
「へぅ!うぅぅ…」
と、何か言いたげなおもむきを見せて。
そして、ようやく答えてくれて。
「じゃ、じゃぁ~、そこまで言うなら~…」
「……はい。」
「で、でで、デート…とか、してもらっちゃおうかなぁ…?」
そう、答えてくれた。
デートって何だろう。
ちょっと考えたが、解らない。どういう意味なのだろうか。
いーださんから雪崩れ込んできたであろう情報に、その言葉が見つからなかった。
少し焦ってきた。
目の前で彼女が、祈るように返事を待っているからだ。
どうしよう。
なんと返事するのがいいのか。
そもそも、デートは今すぐにできるものなのだろうか。
今何か答えなければ、また彼女を悲しませてしまうかもしれない。
「もしかして、デートが、何か分かんない?」
そんな、的確に図星を突かれた質問が向けられた。
「………………は、い…。」
敗北感を覚えながら、怖々と、潔く返事した。
「……ぷ。」
そうしたら彼女は。
「ぷっふふふふっ」
その笑顔を隠すように、静かに笑ってくれた。
「うりゃ!」
そして突然頭突きをしてきた。
僕の顎に目がけて。
「…!!?」
咄嗟のことで、何が起こったのか解らなかった。
顎に痛みを覚えながら、仰向けに倒れる。
彼女は続けざまに僕の上にのしかかってきて。
「うわああぁんクーのバカバカバカバカバカバカバカバカぁ~!!!」
そういいながら小さい握りこぶしを何度も振りおろしてきた。
物足りないのか、今度は僕の肩を掴んでゆさゆさと揺らしてくる。
「うぁ~~~デートしてって言うの恥ずかしかったのにぃぃぃ~~~!!!」
顔を赤らめながら、笑ってそう言ってきた。
そんな、ちょっと不器用な、無邪気な彼女の姿が見れた気がして。
…ちょっと嬉しかった。
「ふふっ、んもう!解らないならすぐにいってよぉ~!もぉ~!」
「…す、すみま―」
「すみませんは無~しぃ!」
「す、すみ…はい。」
「もぉ~クーったらぁ!ふふっ♪」
いつも通りのいーださんに戻ってくれた。のかな。
その様子を見て、安心して。
今はしばらく、彼女になされるがままになることにした。




