王様?
僕は、クーという。
いーださん曰く、僕は何かとんでもない危険な存在らしい。
考えていたいくつかのことを、言い聞かせるように思い出していく。
次第に、自分はどういうことができる存在であるかをなんとなく把握できてきた。
そして、どういう名目でここに来たのかも。
じわじわと、何かに染み込むように理解できてきた。
彼女のおかげもあって、今は結構脳が冴え渡っている気がする。
周りにある物の名称や使い方など、深く考えなくても解るようになっている。
僕は重たくも感じる足を動かしつつ、ベッドから体を起こす。
改めて寝室を見回す。
棚、小机、ランプ、椅子、鏡。
この部屋に入った時には気が付かなかった、あまり存在感のない家具がいくつか見つかった。
何気なく、鏡に近づく。
まだ見ぬ、自分の姿をみるために。
鏡の前に立って、鏡は写った物を反射し映し出す物であることを改めて確認できた。
男の人が写っている。
これが僕なのか。
髪色は白。ボブヘアーのような特に特徴のない髪型。
肌もやや白い。
背丈はそこまで高くはない。
右目は紺色だろうか。なぜか左目は水色になって見える。
いつから着ていたであろう服は、灰色のフード付きのパーカーに、灰色のスウェット。
そんな姿が、鏡に映しだされて、ボーッと立っている。
服の名称も、さらっと出てきた。そんな自分がちょっと賢く思えた。
「クーぅ?ごはん持ってきたー!」
明るい、少し幼い彼女の声で、我に帰る。
ごはん。食事のことだと思う。
鏡に映っている僕ともう一度目を合わせてから、声のする隣の大部屋へ歩いていく。
以外と、空腹の状態にあったんだなぁと、ぐぅと鳴るお腹を見て思った。
香ばしい、よだれが口に滲む匂いがする――
__________________
「さ、座って座って♪」
「……わぁ。」
大きな二つの窓がある部屋。相変わらず薄暗い。
天井には灯りをともさず無意味にぶら下がっているシャンデリア。
大きな、長方形の黒い長机。相変わらず真ん中に異形の植物が鎮座している。
二人で使うにはあまりに広すぎるこの机の上には、いくつかのキャンドルが灯してある。
そして、思わず息が漏れるような、食欲を掻き立てるイロトリドリな料理がずらりと並んでいる。
しかも。
とんでもない量の料理だ。
数ではなく、量が多いと言える。
パンは無数の数。サラダやベーコンなどの肉類は、その大きな器を悠々とはみ出し、積み重なるように盛られている。
それ以外の料理も、二人で食べるにはあまりに多過ぎるように思う。
これを、僕たち二人で…?
これは朝食ではなかったか…?
「さぁ、召し上がれ♪」
「………はい。いただき…ます。」
「いただきますっ!ふふっ、ついにクーとモーニングだ~~!」
食事に付く前に。
重い満腹感が胃の中で芽生えた気がした。
__________________
「おいしい?どぉ?」
「……はい。とても…おいしいです。」
「ほっか!よかった♪」
量はともかく、目の前にあるそれらの料理はどれも美味だ。
食べ物を口に運ぶ喜びが楽しく、ここまますべて食べ切れてしまうのではとさえ思えてきた。
そうしてもりもりと食事を取っていると、寝る前に考えていた色んな疑問が再び溢れ出てきたので、彼女に思いつくだけ聞いてみることにした。
食事中に話すのはあまりよくないらしいが、衝動に身を任せた。
「……いくつか聞いて、いいですか?」
「ん?うん!いーよ。」
「…僕は、危険なんですよね。どう危険なんですか。」
「…ん~とね。」
いつか聞かれることを予想していたのか、流れるように答えてくれた。
「クーは、「水」を含んでいる「生き物」全部の王様みたいな感じなんだ。クーの『命令』さえあれば、色んな生き物を従えちゃえるの。」
「…それが、危険なことなん…ですか。」
「う~ん、まぁ危険かどうかはクー次第なんだけどね~。命令の仕方によるかな~。」
「…命令。…例えとか、ありますか。」
「例えか~。そうだな~。例えばだよ?」
彼女は手に持ってた食器を置いて、席を立つ。
「みなさぁ~~~~ん。バンザイしてくださ~~い!」
「……………。」
「ってな感じで、クーが『特に範囲を指定せず』に『命令』すると、クーの周り『30km』以内にいる生き物はみんな、バンザイしなきゃいけなくなるの。」
「………なるほど。」
「ね?クーはとってもすっごーいんだよ?」
伝えられた内容はある程度理解できた。ただ、それがどれほど危険な意味を持つかはイマイチ理解できなかった。
そして、なんとなくこう聞いた。
「…その『命令』は、いーださんにも、関係するんですか。」
彼女は少しだけ驚いた顔をしたのち。
「……クーの命令なら、聞かなきゃかもね…。」
そう、どこか悔しそうに言った。
「……すみません。」
「え?うぇ?なんで謝ったの?」
「……困らせた、のかなって。」
「べっ、困ってなんかないよ~!?」
「……すみません。」
「やああぁ~~~!!クーは謝っちゃダメっ!王様なんだからっ!」
「……すみま…せん」
「だ~~~~~~めってばぁ~~~~!」
謝罪することに極端に反応する彼女の言動が不思議で。
どこか愛おしかった。




