面倒くさい要望。
風通しのいい洞窟の中。
黒いフードを被った少年と、おっとりした雰囲気のある少女が話している。
少年が、何か愚痴を垂れているようだ。
その愚痴を、静かに聞いている少女。
彼「ハスター」は、明らかに不機嫌そうに嫌味を口にしている。
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「まったく…なんでボクがこんなことしなきゃいけなかったんだ…。」
「……でも、はすたーのおかげで、何事も無く、事態は収束できた。」
「それとこれとは別だよ。ツァトゥグァのせいで、結局クトは『あの姿』になることがなかったんだ。それならこんなにボクが急いで動くことなかったのに…。あ~あ。」
「……お疲れ様。はすたー。」
「はいはい。」
何なんだよもう。
骨折り損のくたびれ儲けとはこのことじゃないか。
今回の「ナイアーラ」と「クト」が戦時した件。
不自然なくらい何事も無く解決したらしい。
決め手は、「クトゥグア」の一喝だ。
ボクはその「クトゥグア」に頼んで、「ナイアーラ」を「クト」と長い時間干渉させないようにした。
あまり長い間二人を接触させていると、いづれ何方かが「正気」を失い、手が付けられなくなるからだ。
それを避けるために、ボクがわざわざ「クトゥグア」の所に出向いてそれを防いだ。
なぜ「クトゥグア」に頼んだかは、彼が「土」に強いからだ。
「クトゥグア」には炎を自在に扱える力がある、いわば「炎の主」だ。
そして彼の「炎」には、「土」を司る力をねじ伏せる力がある。
逆に「土」は、その彼の「炎」に刃向うことができないのだ。
いわゆる「ジャンケン」のような物。
グーがパーに勝てないのと同じで、「土」は「炎」に勝てない。
ナイアーラはその「土」を操る力こそ失っているが、彼女の体には未だにその「土」の力が宿っている。その力が「炎」にとっては一種の「餌食」になるのだ。
つまり「クトゥグア」自身は、ツァトゥグァやナイアーラを一方的に「喰う」ことができる。
その為ナイアーラは「力の法則を捻じ曲げる何か」を使わない限り「クトゥグア」には勝てないのだ。きっと彼を見ただけでも、恐れ戦いて逃げてしまうだろう。
だから彼を、ボクが現地へ赴き事態を無理矢理収束させた。
とまぁ、そんな所だ。
ただ彼は、自分の体を動かすための「燃料」がないとその身を動かせない。
その「燃料」こそが、「土に関係する芸術品」。
通称「貢物」と言われている物だ。
それさえ持って行けば、誰でも自由に彼を招来させることができる。
ホント、面倒くさい体質だ。
「シュー、肩揉んで。」
「……うん、わかった。」
なんか疲れた。
ちょっと休むか。
シューに肩を揉むようお願いして、ボクはだらりと体の力を抜いた。
「……はすたー、凄く、疲れてる。」
「まぁね。『ヒト』の兵器を取ってきてそのままクトゥグアの所まで飛んで行ったから、ちょっとは疲れたね。」
「……それは全部、『クト』の、ため?」
「あいつのためじゃないよ。むしろボク自身のためかな。」
「……そっか。」
まぁ、遠まわしに言うと「クト」のためなんだけれどね。
せっかく長い年月をかけて目覚めたんだ。
簡単に死なれちゃ困る。
「クト」。
君を葬る、否「解放」するのは、ボクだ。
だから誰にも邪魔はさせない。
時間と方法は限られている。
でも、やらないといけない。
誰かに、喰われる前に。
あの「旧神」と「旧支配者」の融合体を。
ボクが、「解放」するんだ。
この手で。
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しばらくボクは静かに体を休められていたんだけど…。
面倒くさいのが、またやって来た。
「「ただいま~」」
うわぁ。
あの「双子」がまたやって来た。
「ナグ」と「イエイブ」だ。
青い髪のガキと、赤い髪のガキ。二人とも瞳は黄色い。
なんでまた証拠にもなく現れるんだ。
「お姉ちゃんただいま~。」
「ただいまただいま~。」
「……うん、おかえり。」
相変わらず気が抜けるほど、この双子はふわふわしている。
その表情からは、何を考えているのか読み取れない。
「なんでまた来たんだよ…。」
「遊びに来た~。」
「きたきた~。」
帰れ。
こっちは君たちと遊びたいなんて微塵も思ってないんだ。
こいつらと一緒にいたら、ろくなことがない。
「はすた~。いうこと、きいてくれるよね~。」
「…は?」
「ん~…。」
あ~。
そうだった。
確かにイエイブにそんなこと言ってしまった気がする。
ボクが「兵器」を取りに行く時に、イエイブの機嫌を損ねてしまった。
それを宥めるために「言う事を聞いてあげる」と口走ってしまった。
最悪だ。
まさかそれのためだけにここに来たのか?
まずいな、このままじゃボクも「正気」を失ってしまう。
「いうこと、きいてくれないの~?」
イエイブが、若干殺気立ってきた。
まずい。
「あぁ~も、もちろんだよイエイブ。約束だからね。」
「やったやった~!」
「イエイブいいな~、僕もハスターにお願いきいて欲しいな~。」
ナグ、お前は関係ないだろ。
「はすた~。おんぶしてとんで~。」
「…は?」
「おんぶおんぶ~。」
「…。」
はぁ。
面倒だが、もうやるしかない。
ていうか、やらないと殺される。
ボクは仕方なく、近づいてきたイエイブを背中に背負った。
途端イエイブが、思い切りボクにしがみ付いてくる。
「ん~…はすた~あったか~い」
「うるさい。」
イエイブの体はびっくりするほど軽い。
体も細いし、簡単にポキっと折れてしまいそうだ。
こうして背負っているだけなら、ただのひ弱なガキなんだけど。
こいつとナグは、場合によっては「宇宙で一番恐ろしい双子」なのだ。
なにせこいつらの父親が、「ヨグ=ソトース」だからだ。
その「ヨグ=ソトース」という奴は、ボクのような「何かを操る力」を持つ存在の、頂点にいる存在だ。
そいつは、この世界とは全く別の場所にある「空間」に閉じこもっているが、その「空間」は「この宇宙のすべて」と繋がっているらしい。
行こうと思えば、どこにでも行けるという便利な場所のようだ。
だが、その「ヨグ=ソトース」自身はその「空間」から出ることができないらしく、ずっとその場所に引き籠ったままらしい。
その代わり、この「ナグ」と「イエイブ」だけはその「空間」と「この世界」とを自由に行き来できるのだ。
たまにこの場所にいなくなるのは、その父親のいる「空間」に帰っているかららしい。
そして今また、ここに戻って来た。
きっとその父親の「空間」から直接、ここに来たのだろう。
そしてこいつらの怖い所は、その「空間」と自由に行き来できるだけじゃない。
こいつらの一番怖い所は。
父親の「命令」次第で、こいつらはどんな事でもできてしまうという事。
仮にもし、こいつらの父親が「新しい『惑星』を作り出せ」と「命令」すれば。
こいつらは、いかなる手段を用いてでも「新しい惑星」を作り出すだろう。
それほどのスケールの事が、こいつら双子にはできてしまうのだ。
ただ自らの意志でそれをすることは出来ず、「命令」があるまでは何もしない。
だから、父親から何か「命令」があるまではこうしてぶらぶらと遊んでいるだけらしい。
だからと言って、それほど恐ろしい双子がボク達とトランプ等で遊んでいるというのも何だか変な気分だ。
こいつらが本気を出せば、ボクなんて一瞬で消し炭に変えられてしまうかもしれないのに。
「ん~…はすた~はやくとんで~。」
「はぁ…わかったわかった。」
ボクはイエイブの要望通り、こいつを背負ったままふわりと浮きあがって。
適当に飛び回った。
「きゃ~きゃ~、はすた~しゅっごい~。」
「うるさい喋るな。」
「いいな~イエイブ。僕も乗せてもらいた~い。」
「……はすたー、優しい。」
「はぁ…。」
何をしているんだボクは。
情けない。
でも、こいつら双子に抵抗する方がもっと愚かだ。
今は素直に構ってやるしかない。
まぁこうして普通に接してればこちらに危害は加えてこないだろうし。
ほぼ不可能に近いが、こいつらをうまく活用できる時があるかもしれないし。
「はすた~このままおそといきた~い。」
「断る。」
「ん~…じゃあおこる~。」
「わかったよ外行けばいいんだろ!」
「やったやった~。」
「イエイブいいな~。」
「……いってらっしゃい。」
あぁもう嫌。
ガキの面倒みるのってホント嫌だ。
早く飽きて帰らないかな。
ボクは仕方なく、イエイブを背中に乗せたまま。
外に向かった。




