抱擁?
………………………。
…また、「水」の中にいるようだ。
…相変わらず、体がふよふよと浮いている。
…?視界は暗いが、何かがはっきりと視える。
「―――やぁ。目が合ったね。」
…話しかけて来ているのだろうか。
…別にコイツとは話したくない。
…でも、聞きたいことがある。
…「あなたの、お名前は。」
「―――僕の名前は、クタニドだよ。」
…「あなたは、何者なんですか。」
「―――僕は、君とは違う別の物。でも、今は君の物でもある。」
…「僕の物、ですか。なんで僕の物になってるんですか。」
「―――君は僕を喰べた。でも、僕も君を喰べた。だから、お互い相手の物で、自分の物。君は僕。僕は君。」
…「じゃあ、僕は君と言うなら、僕は『クタニド』なんですか。」
「―――君は『クタニド』。そして、僕も『クタニド』。」
…「僕は皆から『クト』と呼ばれています。それは違うという事ですか。」
「―――『クト』は、君。僕は『クト』じゃない。」
…「じゃあ僕は、『クト』でもあるし『クタニド』でもあるんですか。』
「―――それは君次第。鏡を見てごらん。鏡に映っているのは、誰?」
…「あれは、僕です。」
「―――そう、僕だ。そして、鏡に映るのは君だ。」
…「僕は、『クト』なんですよね。」
「―――君がそう思うなら、君は『クト』だ。でも、もし『クタニド』だと思って鏡の前に立ったら、僕が現れるかもね。」
…「あなたは、僕の何なんですか。」
「―――僕は、君の味方。でも、君が『真理』を見つけたら、僕は敵になる。」
…「僕は、みんなと仲良くしたいです。」
「―――僕もそう思う。でも、君はそう思ってない。君の今の意見は、僕の意見だから。」
…「じゃあ僕は、皆に嫌われたいんですか。」
「―――その質問が、僕の質問か、君の質問か。それに気づけば、解るよ。」
…そこまで話すと、いきなり上から光が射して。
…視界が定まって、そして、目の前にいたのは。
…目の色だけが違う、僕だった。
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「…………うぅ…う……。」
激しい頭痛と共に、僕は目が覚めた。
頭がくらくらする。
視界もぼやけて、起きているのか寝ているのかすら定かではない。
「…クー?クーっ!」
すぐ側から、聞きなれた声が聴こえた。
いーださんの声だ。
声が震えていて、今にも泣き出しそうな声だ。
「クーっ!解るっ?私だよっ?」
「…………はい。」
「はぁ~……クーぅ…よかった…。」
「…………ここ、は…。」
「私たちの寝室だよ?だーくんがここまで運んできてくれたの。」
「……だー…さん……無事ですか…。」
「うんっ!ぴんぴんしてるよ!」
「………よかった……です……。」
そうだ。
砂漠の集落で出会った「ナイアーラトテップ」と戦っている途中で、だーさんが彼女の斬撃で「真っ二つ」に斬られてしまったのだ。
思い返しただけでも、寒気がするほど残酷な光景だった。
でもその後に、ツァトゥグァこと「つっちー」さんが来てくれて。
確か、「ダゴンは俺が直したから」と言っていたはず。
詳しくは解らないが、つっちーさんのおかげでだーさんが元に戻ったらしい。
また今度、お礼を言いに行かなきゃいけない。
「だーくん呼んでこようか?」
「………お願いします。」
「うんっ!解ったっ!」
そう言って、ドタドタと走りながら彼女が部屋を出ていった。
いつの間にか、僕の頭痛や目まいが治っている。
もしかして、彼女がさっきの一瞬で治してくれたのだろうか。
彼女にはやはり、僕を癒してくれる力があるのかもしれない。
あとでお礼を言わないと。
体も特に外傷なく、自由に動かせることを確認しながら。
ベッドから起き、鏡の前に立つ。
いつもの僕が写っていた。
髪も白いし、目も紺色と水色と左右で違う色をしている。
さっきまでの「夢」の中で僕は、誰かと会話していた。
会ったことはないけれど、見たことはある見た目だった。
さっきまでは「夢」の内容を覚えていた気がするのに、もう忘れてしまった。
なんだか、僕は「夢」に関することだけすぐ忘れてしまうようだ。
なんでだろう。内容を覚えておきたいのに。
「クト~!起きたかぁ~~!」
隣の部屋から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
間違いなく、だーさんだ。
僕は急いで、隣の部屋へ向かった。
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「クト~~!ごめんなぁ俺が不甲斐ないばっかりにお前に迷惑かけちまってなぁ挙句の果てにツァトゥグァに命を救われる破目になるなんてなぁもうホント俺ってどうしようもなく情けねぇ男だよなぁごめんなぁクトぉ俺が―――」
「……だーさん、よかったです。無事で。」
だーさんが僕に熱い抱擁をしてくれている。
そして泣きながら何かぶつぶつと言っているが、殆ど聞き取れなかった。
何にせよ、いつも通りの元気なだーさんが、今僕の目の前にいる。
本当によかった。
だーさんは僕に謝っているのかもしれないが、謝るべきなのは僕のほうだ。
だーさんと共に「ナイアーラ」さんと戦ったが、僕はほとんど何もできなかった。
それだけじゃなく僕は、誰かを守るために力をつけるって決めたのに。
何も守れなかった。
むしろ、守られてばっかりだった。
そんな自分の方こそ情けない。
戦う相手が誰であろうと、僕の目の前で力なく誰かが倒れるのはもう見たくない。
もっと僕がしっかりしないといけないんだ。
「もうだーくん、クーが困ってるんじゃん…。」
「ごうぇんよぉクトォぉ~…」
「ダゴン、見っとも無いわよ。…でも、二人とも無事に帰ってきて良かったわ。」
「ホントだよっ!なんで私には何も言わず出て行っちゃったの!信じらんないっ!」
「……すみません…いーださん…。」
「ううんっ!クーが謝ることは何もないよ!」
「ごめんなさいね、イーダー。」
「もういいよっ。でも、次に私に何か内緒したら許さないからねっ。」
「…ええ、解ったわ。」
「ごうぇんよぉクトォおぉぉ~…」
「だーくんはうるさいっ!」
よかった。
いつもの4人がこうして揃った。
この光景が一番落ち着く。
楽しくて、賑やかな「家族」だ。
そう言えば、今こうして再び4人で何事も無かったかのように話せているのは。
あの時に駆け付けてくれた「つっちー」さんと「クトゥグア」さんのおかげだ。
あの二人は無事、怪我なく事なきを得たのだろうか。
「……あの、そういえばつっちーさんとクトゥグアさんは無事だったんですか。」
「らしいよっ!何でもクトゥグアのおかげですぐに解決できたんだってさ!」
「……そうですか。」
あの「クトゥグア」さんが一躍買ってくれたらしい。
僕が触ると一瞬で砕けてしまったあの人が。
もしかしたら、実はとんでもなく強い人なのかもしれない。
あの人にもお礼を言わなきゃ。
周りの人たちに迷惑かけっぱなしだ。
「それにしてもつっちーって準備いいよね~っ。クーの危険を察知して、クトゥグア呼びに行ってすぐ駆けつけたんでしょ?相変わらずやる時はやるね~っ」
「……はい、つっちーさんに、今度お礼言いたいです。」
「うんっ♪また今度一緒にいこっ?」
「…はい。」
外に出るとその分ナイアーラさんに襲われる可能性が高いが、つっちーさんがいてくれるなら怖くない気がする。
頼りになる人がいて、凄くうれしい。
近いうちにまた会えるといいな。
「よしっ!食事の準備してくるねっ!クーきっとお腹空いてるだろうし!」
「…はい、お願いします。」
「クトぉぉぉ~俺もぉ~~…」
「だーくんはいい加減泣き止んでよっ!!」
だーさんがいつになく弱気だ。
こんなだーさんを見るのもなんだか新鮮だ。
ちょっと嬉しい。
確かにお腹が空いている。
ベッドで寝ていたという事は、あれからもう1日経つのかな。
見たところ朝のようだし。
丸1日何も食べてないことになるのか。
さぁ、また4人で楽しい食事が楽しめる。
毎日の、「幸せ」の一時だ。
「…………ツァトゥグァが、クトゥグアを呼んだ?……そんなはずは……。」
しばらく黙りこんでいた「どんちゃん」さんが。
そんな風に何かぶつぶつ言っていた。
どうしたんだろう。
僕はその様子のどんちゃんさんに声をかけようか迷ったが。
あまりにも真剣に考えているようなので、そっとしておいた。
いったい何を考えているんだろう。
少し、気になった。




