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記憶を失くした旧支配者  作者: 南瓜
11日目
41/45

撤退?


 

「うふふフふフフふふっ。」

「くそ…あの野郎…!」

「うぐっ…。」

「大丈夫かクト?!」

「は…はい…。」

「ふふフ?もうおしまイですカぁ??」


 辺りが砂で覆われる砂漠地帯の集落の中。


 僕とだーさんは今、「ナイアーラトテップ」と言う人と対峙している所だ。

 僕は彼女の攻撃で背中を負傷してしまい、だーさんに肩を貸してもらいながら立っている。

 今にもまた、彼女は襲いかかって来そうだ。

 僕はナイアーラさんに、今回どうしてこんな事をしたのか問いかけた。



「…な、ナイアーラさん…どうしてこんな…酷いことしたんですか。」 

「酷いこトぉ?何ノことでスぅ?」

「しらばっくれるな!無力な信者共をこんなに殺りやがって…!絶対許さねぇ!」

「アハハハははっ!無力な雑魚共を殺シて何が悪いんでスカね?それニ、もうこンな事何度も経験してルじゃないでスか?ねェダゴンさン??」

「……何…度も?」

「てめぇ…!クト、あいつの言うことに耳を貸すな!」

「アハ!そうですネぇ!もうお喋りハ止めにしテ殺りアいまショう!……『暗影』!」


 彼女がまた何かを口にすると、再び彼女の姿相貌がモワモワと変化していく。

 黒く悍ましいそのモワモワが形を留めると、まったく異形の姿がそこに現れた。

 

 全身に黒い兜と甲冑のような者を身に纏い、首からはひらりと風に棚引く赤い襟巻。

 その体を覆った黒鎧から顔は覗かず、頭部全体に影が射している。

 右手には艶やかな緋色の大太刀が握られており、不気味な光を放っている。


「…サァ、シヌ準備ハイイ、デスネ?」

「気をつけろクト!あの姿はかな―――」


 突然、だーさんが真後ろに吹き飛んだ。

 僕には見えなかったが、黒い甲冑を纏ったナイアーラさんが目にも止まらぬ速さでだーさんに斬りかかったのだ。

 そしてその大太刀を、青刀で受け止めるだーさんが後ろにいた。

 火花が散るほど、二人はギリギリと鍔競り合っている。

 

「…!だーさんっ!」

「うっ…ぐぅぅぅ!」

「ダゴン、所詮、ソノ程度ノチカラ、デスネ?」

「うるせぇ…お前にクトは絶対喰わせねぇ!」

「ナラ、早ク私ヲタオシ―――」 

 

「くらえぇ!」

 

 僕はナイアーラさんに向かって自分の「爪」で斬りかかる。

 でも、その事すらも見切っていたのか。


 僕の「爪」での攻撃を、体をくるっと翻しながら左手で防がれた。

 そのまま僕はナイアーラさんに腕を掴まれた。 

 あまりの怪力に、その掴まれた腕を振りほどくことは出来ない。


 しまった。

 やられる。


 そしてナイアーラさんが、僕の方へ大太刀を向けて―――


「させるかああぁぁぁぁ!」

 

 だーさんが空かさず青刀を、ナイアーラさんの背後へ振り下ろそうとして。  


 そこで僕はようやく気付いた。


 彼女の大太刀の標的は僕ではなく。

 だーさんで。

 腕を掴んでいた彼女が、一瞬でスンッとだーさんの背後に回り込んで。

 

「しまっ!―――――」


 ズザァァァァァァァァァァァァァ!



 だーさんが。

 僕の目の前で。




 「真っ二つ」になって。




 その鮮血が僕に飛んできて。 

 


 だーさんの体の一部だった物が。

 僕の所まで飛んできて―――



__________________



 「スウィートホーム」の中。

 部屋に取り残されたハイドラは、そわそわしながら座っていた。



「あれぇ?クーとだーくんは?」

「……イーダー。落ち着いて聞いてほしいの。」

「え…?」

「『ナイアーラ』が外の世界で暴れていて、そこに二人が向かったの。」

「……え!?」

「でもあなたは行っちゃ駄目よ。あなたが行くと奴の思うままに――」

「何で早く言ってくれなっかったのよっ!信じらんないっ!」

「あっ、待ちなさいイーダー!」


 ハイドラが自分の紺色の髪の毛を触手の様にしゅるりと伸ばし、走って何処かに行こうとしているイーダーを絡み取った。


「ちょっと痛い!放して!放してよぉ!クーがっ!クーが危ない目に!……」

「イーダーは行っちゃ駄目よ。きっと大丈夫だから。」

「大丈夫だからとかじゃなくてっ!……放してよ。…はなして……。」

「…駄目なのよイーダー。もうこれ以上…あなたは死ねないはずよ…。」

「……でも……でも…クーがぁ………。」

「気持ちはわかるわ。でも、きっと大丈夫だから。」

「……クー……やだ……まだ私…クーと『11日』しか過ごせてないのに……。」

「イーダー。落ち着いて。」

「やだぁ……クーぅ………もっと…私と一緒にいて……やだ…いかないで……。」

「イーダー…落ち着きなさい。」


 部屋の中には。

 イーダーの悲痛な嗚咽がしばらく響いていた。


__________________



 僕は、今。


 真っ赤に染まっている。



 だーさんの、血を浴びたからだ。


 そして。

 僕の目の前に。



 動かなくなっただーさんの残骸がある。



 …また。



 僕の奥深くに棲む「何か」が。


 

 僕から這い出てきそうだ。

 


「サテ、コレデドウデス、クト?」

「………。」

「サァ、『正気』ハ無クナリマシタカ?」

「……。」

「サァ、早クソノ姿ヲ見セテ下サイ!ソシテ、喰ワセテ下サイ!」

「…。」

「サァ!サァサァサァサァサァ!」

 

 もういい。



 喰うとか。

 喰われるとか。

 関係ない。



 ナイアーラさん。

 いや。ナイアーラ。


 お前を。

 殺す。



 目の前のだーさんと。

 同じ形にしてやる。


 お前の血を。

 肉を。目を。

 内臓を。


 擂り潰してやル。


 


 ころす。

 ころ、ス。



「出テクルノデス!クト!イイエ、クタニ―――――」


「クトっ!出て来るんじゃねぇ!」



 僕の意識が遠ざかる中。

 うっすらと聞こえた声。

 どこかで、聞いた声。


 この声は。


「………ナゼココニ居ルノデス、ツァトゥグァ!」

「へへっ!そいつに言っちまったんだよ。『なんかあったらすぐ俺が駆けつける』てなぁぁ!『そいつを貫け!』」

「クッ…ドイツモコイツモ邪魔バカリ、デスネェ!」


 ガンガンガンガンガンガンガンガンッ!



 何かが、突き上がる音がした。

 岩のような、重たい何かが。

 

「『クトを守れ!』」


 いきなり、視界が真っ暗になった。

 何が起きているんだ。

 体が動かない。

 

 でも、微かな意識に僕はすがって。

 僕から「浮上」してくる何かを、表に出すまいと踏ん張っている。

 今回はそうした方が、いい気がした。



「フン、所詮ツァトゥグァゴトキガ来タ所デ、私ニ敵ウトデモ?」

「俺一人じゃ、無理かもな?」

「何?ドウ言ウ意味―――」


「ナイああああああああああああああラああああああああああああっ!!!」


 今度は、ガラガラとしたうるさい声が聞こえてきた。

 この声も、聞き覚えがある。

 声から感じる、熱々しさ。


「…!?ク、『クトゥグア』マデ!?」

「賑やかになって良かったなぁ?ナイアーラさんよぉ。まるでパーティじゃねぇか?」

「……オノレェェェェェ!ツァトゥグァァァァ!」

「どこを見ているうううううう!我輩は此処だあああああああああああっ!!」

「…ゥゥゥゥゥウゥゥ!」


 視界が暗くて何も見えない。


 でも。


 なんだか安心してしまった。

 外は、何だか賑やかで。

 

 もう大丈夫かもしれない。


 そんな風に思っていたら。


 意識が遠くなってきて――――


__________________



 

「…………ト、クト!」

「……。」

「大丈夫か?」

「…つ……………つっちー、さん。」

「やっと起きたか…安心しな?もうナイアーラは撤退していったぜ。」

「………う…うぅ…つっちー……さん……。」

「ど、どうした?急に泣き出して…どこか痛いのか?」

「……だー……さん…………だーさんが…………僕……守れなく…て…」

「だー?ダゴンのことか?」

「……はい……僕…………目の前で………」

「あぁ、安心しな。ダゴンも無事だぜ?」

「………へ……。」

「おいおい、俺を誰だか忘れたのか?俺は「土」の王様だぞ?「土」を操る力がある奴は、ヒトの体してる奴なら誰でもすぐ元に戻せるんだぜ?」

「…………へ……。」

「だからダゴンは無事だ。俺が元に戻したからな。今は気を失ってるが…そのうち起きるさ。だから安心しな?」

「…………。」

「よく頑張ったな、クト。」

「時にツァトゥグァよ。して今回の件は―」

「んだよクトゥグア今いいとこなんだよっ!」

「す、すまぬ…。」



 意識が朦朧とする中。


 僕は誰かに、抱きかかえられていて。


 目の前につっちーさんがいて。


 すぐ側にクトゥグアさんもいて。


 その二人を見て。



 安心できて。



 また僕は、眠ってしまった。

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