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記憶を失くした旧支配者  作者: 南瓜
11日目
40/45

ナイアーラトテップ?

「いいかクト!お前はあまり前に出ずに、俺が奴に攻撃している隙をついて攻撃を仕掛けるんだ!いいな!」

「…はいっ!」

「いい返事だ!」


 

 今、ダゴンこと「だー」さんと一緒にとある場所に向かっている。


 辺りは、一面砂で埋め尽くされている世界。

 「砂漠」という物だろうか。

 蒸し暑く、でも空気は意外とカラッとしている。

 たまに風に乗って巻き上がる砂の塵が、呼吸を妨げる。



 そんな砂の世界の中にある、無数の細長い建物が並ぶ「大きい集落」へと僕たちは向かっている。


 一面「砂漠」に覆われている場所で、ぶっきらぼうにそびえ立つその建物の集合地帯。

 そこから、離れていても聴こえるような「ヒト」の荒々しい悲鳴が聴こえてくる。

 何者かに無数の「ヒト」が襲われている。しかも、圧倒的な力を持つ何かに。

 そんな印象を受ける、耳を塞ぎたくなるような悲鳴が僕の耳の中に響いてくる。


 そこへ向けて懸命に走って、ようやく辿り着いた瞬間。




 目の前の光景に絶句する。



〈ぎゃぁぁぁぁぁああ!〉

〈助けてくれぇ!誰かぁぁぁぁぁぁ!〉

〈うわぁぁ!ママ…ママぁぁ!〉

〈早く逃げろ、逃げろぉぉぉぉぉぉぉ!〉




 辺り一面に。




 「ヒト」の一部であろう体の残骸が飛び散り、赤い血溜りを地面に作り出している。

 手や、頭、足、目、蜷局を巻く臓器。

 どれも、よく見ないと何か解らないほど形を崩している。



 そんな赤い血肉の散らばった世界で、絶叫しながら逃げ惑う「ヒト」の数々。

 体からドクドクと赤い血を流して、助けを求めながら倒れている者共。

 もう動かないであろう女性のそばで泣き喚く子供。 

 足を失い、その場で這いつくばりながら何かに助けを求める者。



 そんな、狂乱と混沌の入れ混じった世界。

 


 そんな光景を見てしまった僕は。

 そのあまりの衝撃に、意識が狂ってしまいそうになった。



 なんと、惨い光景か。



「クト、見るのはそっちじゃないぜ!」


 だーさんの掛け声にはっと我に帰った僕は。

 少し遠くで、今まさに「ヒト」を襲っている「巨大な黒獅子」を視界に捕えた。


 体よりも大きな翼。

 筋肉質なごつごつの黒い体。

 赤く染まる尾。

 体の所々に金色の装飾が施された、口以外の「顔」の部位がない獅子。



 そんな存在が、今「ヒト」を口に頬張っている。

 口からは、力なく垂れた「ヒト」の腕が覗いている。



 なんだこいつは。

 見ただけで、血の気が引くような。

 異様な雰囲気のある化物。


 そしてその存在が、ゆっくりと僕たちの方へと振り向き。


「ガァ、ギャッドデデギダ、デズデェ?」


 顔のない獅子の頭が、こちらへと向けられた。

 そして、頬張っていた「ヒト」をガアッと喉の奥に入れ込み。



 ドウゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ


 と、重たい音を立てながら。

 牙をギラリと剥き出しにし、こちらに向けて真っ直ぐ飛びかかって来た。


「ガアァァァァァァァァァァァァアァアァア!!!」

「くるぞクト!」

「はっはい!」



 恐怖感から体が固くなって、ぶるぶると震える。

 そんな怯える自分の体を無理やり真横へと追いやり。



 なんとか、飛んできた獅子の突撃を回避できた。



 僕とは反対側に回避しただーさんも無事なようだ。


 そして、僕たちから見て後ろに飛んで行ったその顔のない獅子が。

 僕たちから少し離れた宙で停滞し。

 モワモワと、体を蠢かせた。

 そして徐々に、その巨大な筋肉質の獣の体を凝縮し。


 先ほどまでの屈強な雰囲気を微塵も感じないような。

 女性の「ヒト」の姿に形を変えた。


 尖がった灰色のニット帽に、色々のロングに髪の毛。

 毛先だけ、少し赤く染まっているように見える。

 その女性体を一面覆うほどの大きな黒いコート。

 そして、冷徹な灰色の瞳。


 そんな存在が、僕たちの視線の上の方で浮遊している。


 あれが「ナイアーラトテップ」さんなのだろうか。



「…久しいですね。クト。いえ、初めまして、ですね?」

 

 僕を静かに見据えて、話しかけてきた。


「……あなたが『ナイアーラトテップ』さん、ですか。」

「…ふふ、そうかもしれない、ですね?」

「おいナイアーラてめぇ…よくも信者共をここまで殺らかしてくれたなぁ!」

「…お腹が空いていたので、いい腹ごなしになった、ですね。」


 そう言って、血が付いた口元をズルッと拭った。


「くそ!いくぞクト!奴をひっ捕らえて痛い目に合わせてやろうぜ!」

「は……はいっ!」

「…ふふ、ダゴンも一緒とは…餌がふえて嬉しい、ですね?一緒に喰ってやる、ですね?」

「けっ!喰われるのはそっちの方だぜ!ナイアーラ!」

「…ふふ、威勢だけはいい、ですね?嫌いじゃないです、その姿勢。」

「ごちゃごちゃ言ってる、場合かああ!」


 側にいただーさんの体が、突然ぶくぶくと泡立ち始めた。

 そして体全体が、あっという間に「強固な鱗」に覆われていく。


 これは以前、「護身術」を習っていた時に僕の前で見せたあの姿と同じだろう。


 腕や喉の辺りが鱗で覆われ、明らかに戦機を際立たせる雰囲気だ。

 そしてだーさんが、その鱗だらけの右手でガガガッと乱暴に左腕を撫でると。

  

 その右手に、鋸のようにギザギザと尖った「青刀」が生成された。

 刀身の所々からツンっと刃が飛び出ており、斬るというよりは削ることに重きを置いたような姿をしている。


「さあいくぜええ!クト!合わせろよ!」


 そう言うとだーさんは、ナイアーラ」さんの方へ向かって走っていった。

 踏みしめるたびに地面にひびが入るほど、力強くダンダンダンッと走っていく。


 そして、上に向かって大きく跳躍し。


「おりゃあああ!」

 ブンッ!

「…ふふ。」

 だーさんの青刀の一振りは、ひらりと避けられてしまった。

 続けてだーさんが、自分の体から泡をブシュッと噴射し。

 体の向きを修正して、再び「ナイアーラ」さんに斬りかかる。


「ふんっ!」

「…そんな単純な振りが当たるとでも?」


「……えいっ!」

 

 ドォォォォォォォン

 僕はその回避した「ナイアーラ」さんに向かって。

 先に生成したおいた「爪」を振り、思い切り「衝撃波」を撃ち放った。

 だが。

「…無駄です。」


 これも避けられてしまった。

 だーさんはそのまま彼女から距離をとり、再び跳躍の体勢に入ろうとしている。


「…その程度、ですね?では………『紅姫』」

 

 彼女がそう口に出すと、途端彼女の姿が変貌していく。

 先ほどまでの容姿は変えず、髪の毛と肌の色が「紅く」染まっていく。

 そして、両手から刃物のように伸びた「紅い爪」を携えた女性の姿へと変貌した。


「さぁ、纏めて斬り刻んでヤルですねええぇぇぇ!」


 彼女の言動も、先ほどまでとは違い殺気立った雰囲気になっている。

 その彼女に、再びだーさんが青刀を振るった。


「おらぁ!」

「ふんっそんなもノがぁ!」

「うおっ!」

 彼女が、だーさんの青刀を片手で掴んだ。

 まずい。


「…はぁぁ!」

 ドォォォン

 僕もその彼女に向けて、再び「爪」の衝撃波を放つ。


「甘いですネぇぇぇ!」

 彼女は、もう片方の手で、僕の放った衝撃波をブンッと弾き飛ばした。

 

「おらぁ!」

 その隙に、だーさんが掴まれていた青刀を手前へ思い切り引いた。

 その時に、刀から出ていた刃の数々が彼女の手をズタズタに引き裂く。

 そしてだーさんは、そのまま離れて距離をとった。

 刀に引き裂かれた彼女の手は、ポタポタと鮮血を垂らしならがすぐに再生した。

 

「どうしたんですカぁ?そんなものでスかぁ?」

 体を紅く染めた彼女が、挑発するように笑っている。

 そして、その紅い両手を交差させ。


「では、コレでどうでスぅぅぅぅ!?」

 

 途端、彼女の10本の「紅い爪」が急激に伸び、その爪をまるで鞭がしなるように周囲に大きく振り回した。


「やばい、クト!避けろ!」

「はっはい!」

「アハハハハハハハハハハハ!」


 ガンッガンッガッガガガガッ!


 鞭の如く暴れまわる彼女のその「紅い爪」はうねうねと蠢きながら、周囲の建物ごと引き裂いていく。

 一瞬で、周りに彼女の爪痕がガシガシッと不規則に刻みつけられて言った。

 そしてその爪の一本が、僕の方へ向かってきた。

 この程度で、負傷するわけにはいかない。

 僕は無心で、その飛んできた紅い爪に向かって斬り込んだ。

 

 ガインッ

 と音を立てながらなんとか弾き飛ばすことに成功する。

 だが、すぐにこちらにまた「紅い爪」が撓ってきた。

 しかも、複数だ。


 ガインガインッガガッガンッガッガンッガインッ


 僕はそれらをこちらに近づけまいとひたすら斬り乱れた。

 押されている。ここままだといつか負傷する。

 と、それらに気を取られていた矢先。


「いつまで遊んでるんデすかぁ??」


 僕の真後ろに。

 いつの間にか「ナイアーラ」が回り込んでいた。

 そして。


 ザシュッ!

「ぐうあああ!」


 彼女の「紅い爪」の一振りを背中に食らってしまった。

 その反動で、僕の体が前へと飛んでいく。

 そしてそれに、彼女が追撃せんとばかりに接近してくる。 


「クトぉ!おりゃぁぁ!」

 グザシュッ!

 横からだーさんが彼女に斬りかかった。

 彼女の体に青刀が引っ掛けられ、そのままザクッと皮膚を引き千切った。 


「くっ、邪魔をすルナぁぁぁぁぁ!」

 彼女がそのままだーさんに紅い爪を振り下ろす。

 だがこれをだーさんは回避し、痛みで動けない僕を抱きかかえて。

 そのまま跳躍し、彼女から距離を取った。


「大丈夫かクト!」

「は……はい、これくらいは…。」


 自分の背中に傷が入っているのが見なくても解る。

 じんわりと痛みが背中全体に広がっていく。

 傷口が熱くなり、血が服を染めていく。

 でも、これくらいで弱気になってはいけない。

 まだ、戦時している相手は余裕の笑みを浮かべている。


「サぁ、まだまだこれかラですねぇえぇえぇぇえ!」


 彼女の、狂ったような声が辺りに響き渡る。


 もう戦うのは嫌だ。

 怖い。

 でも、戦わないと殺られる。


 

 僕は痛みを堪えて立ち上がり。



 彼女を見据えて、爪を構えた。

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