幸せ?
「おいしい?クーぅ?」
「……はい。とても。」
「よかったっ♪」
「イーダー!ステーキおかわりくれ!」
「やだっ!だーくんにはあげないっ。」
「なんでぇ!?」
「少しは慎みなさいダゴン。」
ダゴンこと「だー」さん、ハイドラこと「どんちゃん」さんを交えて、今僕たちは夕食を食べている。
いつもの大部屋。
シャンデリアの灯りが、部屋を明るく照らし出している。
いつものように、黒机の上には豪勢な料理の数々が並べられている。
今日の夕食は、普段の夕食ではない「ステーキ」と言う分厚い肉を黒い鉄板で焼いて食べる料理がある。
目の前で「ジュー」と言う音を立てながら、赤い肉がこんがりと焼けていく。
口に運ぶそれはとても香ばしく、ジュワっとしていて柔らかい。
こんな美味しく物があったのかと、舌包みを打っている所だ。
「クーとどんちゃんはステーキおかわりいいからねっ♪」
「俺は!俺は!?」
「だめっ!」
「ガーーーンッ!ひでぇ…」
「……いーださん。だーさんにも、おかわりしてあげて欲しいです。」
「おう……クト…お前なんていい奴なんだっ……!」
「…むぅ~、クーがそう言うなら仕方ないなぁ。今回だけだよっ!」
「いぇーい!」
なんとも賑やかだ。
何時にも増して、夕食が美味しく思える。
こんな毎日がこれから送れるかと思うと、明日が来るのが待ち遠しい。
ずっとこうしていたい。
何も変わらず、ただ笑って話して、食べて、寝て。
そんな日々が送れたら、それ以上の「幸福」はないだろう。
この4人で、こんな風に楽しく過ごせるなら。
他なんてどうでもよく思えてくる。
これが「幸せ」という物なんだろう。
「どしたのクーぅ?手が止まってるよ?」
「……あ、すみません。ボーっとしてて。」
「大丈夫?ふふっ、何か足りなかったら言ってねっ♪」
「……はい。」
なんだか思いに耽って、気が何処かへ行ってしまっていたみたいだ。
僕は改めて、目の前に料理たちに手を伸ばしていく。
どれも、とても美味しい。
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夕食を食べ終えて、彼女たちが食器などを片づけている時に、ふと一つ疑問に思った。
いーださんは、一度に数々の調理器具を扱える。その為もあってあれだけの料理を一斉に拵えることができるのだろう。
だが、その調理する「食材」はどこから仕入れているのだろう。
あれだけの料理を作りなら、その分材料も必要になってくるはず。
だが普段の彼女を見る限り、何処かに食材を買いに行ったりなどはしていないように思える。
気になって、聞くことにした。
「……いーださん、一ついいですか。」
「ん?なぁにクーぅ?」
「……いーださんが、いつも作っている料理の食材って、どこから取ってきてるんですか…。」
「あぁあれね♪、あれは全部『貰い物』だよっ!」
「……『貰い物』。」
「うんっ!全部クー宛ての『贈り物』なのっ♪それを私がちゃちゃって取ってきて、料理してるのっ!」
「……僕宛てに、『贈り物』…。」
誰がそんなに物を送ってくれているんだろう。
僕が知っている人だろうか。
見当がつかない。
「……どなたが、そんなに―」
「クト。あなたの『信者』から送られてくる物よ。」
話を聞いていた「どんちゃん」さんが会話に入ってきてくれた。
「……『信者』、ですか。」
「ええ。さっきの『すごろく』じゃないけれど、あなたを崇め奉っている『ヒト』が、この世にはたくさんいるのよ。」
「……僕を…ですか。」
崇め奉っている「ヒト」がいる。
そう聞いて、不思議に思った。
会ったことも話したこともない「ヒト」が、どうして僕をそんなに思ってくれてるのか。
僕は、その人達にとって恐ろしい存在かもしれないのに。
「深くは考えてはいけないわ、クト。あなたのその強大な力に、あやかりたいと思っている勝手な人達がいるだけよ。素直に喜んでいい事だと思うわ。」
「………はい。ありがとうございます。」
そんな物なのだろうか。
でも、僕のことを良く思ってくれている人達がいることを聞けて、ちょっと嬉しかった。
僕は「ヒト」にとっては危険な存在らしいけれど、そういう人達には絶対危ないことはしないし、できれば仲良くしたい。
いつかその人達と会えるだろうか。もし会えたら、お礼の言葉を言いたい気がする。
そう感じた。
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「よし!じゃあ俺らは別の部屋で寝るから、じゃな!」
「また明日ね、二人とも。」
「うんっ!おやすみ~♪」
「……おやすみなさい。」
「だー」さんと「どんちゃん」さんはこことは違う別の部屋で就寝するようだ。
僕たちと軽く挨拶を済ませ、部屋を出ていってしまった。
この「スウィートホーム」の中には何故か沢山の部屋がある。
僕たち以外は誰もいないはずなのに。
不思議だが、こんな風に誰かが住んでくれる分には困らないだろうなと思う。
来客用と言うか、そんな感じなんだろう。
「よしっ!じゃあ私たちも寝よっ♪」
「……はい。」
そうして彼女と寝室に入っていく。
また明日はあの二人と一緒に過ごせる。あの賑やかで楽しい時間が来る。
そう思うと、胸が弾む。
勿論いーださんと二人でいる時も十分楽しい。
むしろ、彼女がいるからこそ楽しいのだと思う。
やはり彼女は、僕にとってかけがえのない存在だなと。
心の中で、改めてそう思えた。
「なんだか今日は一日中騒がしかったね~っ。」
「……はい。でも、楽しかったです。」
「ふふっ、だねっ♪」
「……これが、『家族』なんでしょうか…」
「…うんっ、だね。」
彼女とその後も、今日の出来事の振り返りをした。
二人で、お互いベッドに寝転がりながらする会話は。
僕たちの瞼が重くなるまで続いた。
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「スウィートホーム」のとある一室。
ベッドや机などが整えられている、普段使わない部屋で。
ダゴンとハイドラは会話している。
「なあハイドラよぉ。」
「何かしら。」
「………クトって今日で『何日目』だっけか?」
「……おそらく、『9日』くらいじゃないかしら。」
「もうそんな立つのか~。やべぇな~。」
「焦ったところで何もならないわよ。すべては彼次第なんだから。」
「まあそうだけどよぉ。なんかさ~。」
ダゴンは、ため息交じりに言葉を続けた。
「せっかくなんだから、出来る限り応援してやりたいじゃん?」
「……それは当然、私も同じよ。」
「だろ?」
「でも、自分のするべきことに気付けるかどうか、はたまたそれを実行するかどうかは…彼に任せるしかない。私たちじゃ……彼を導けないのよ。もう何度も経験してる事でしょ?」
「……ふぅぅ。難しい所だな~。」
「可能な限り彼に考えるきっかけを与えること。それが、今の私たちにできることね。」
「………『ナイアーラ』は今『何日目』なんだっけ?」
「…まだ『4日』と経ってないはずよ。」
「ん~。まだいけるか。」
「そうね。猶予は…準備も兼ねて『20日』くらいかしら。」
「何とかなりそうな気がしなくもないな~。そう聞くと。」
「そうね。」
ハイドラは、ゆっくり体を横へと傾けた。
「…考え過ぎも良くないわ。もう寝ましょう。」
「おう。朝飯が待ってるからな。」
「……あなたってそう言う所、ほんと変わらないわね。」
「褒められてるんだよな?」
「さあね。…おやすみなさい。」
「おやすみ。」
その会話の後。
部屋は静寂に包まれた。




