チャンス?
「…え、だーくんなんで笑いこけてるの…」
「あまり気にしちゃ駄目よ。こいつのことだから。」
「ヘヘハッ、いやだって!クトが、クトがなっ!ッハハ!」
「だーくんキモチ悪いよ…。」
だーさんがなぜか大笑いし始めてから間もなくして、いーださんとどんちゃんさんが食器の片づけから戻ってきた。
どうしてだーさんは突然笑いだしたのだろうか。
何か可笑しなことを言ってしまったのかもしれない。
「ハァ、ハァ。久々に笑ったぜまったくよぉ…」
「……な、なんだかすみません…。」
「いやいやっ謝ることないぜ!お前やっぱ面白れぇ奴だわ!」
「…は、はぁ。」
「ねぇ、そういえば二人はなんでいきなりここに来たの?」
いーださんが話を切り出した。
確かにそれは僕も気になる。
どうして唐突にこの場所に来たのか。
「なんでってそりゃお前よぉ。」
「『ナイアーラトテップ』のことでね。」
だーさんとどんちゃんさんが二人交互に答えてくれた。
「ナイアーラトテップ」。
昨日、「クトゥグア」さんの所へ行った時にほんの少し聞いた名前だ。
僕にとっても「無視できない存在」だと言っていた。
「やっぱりそのことで来てくれたんだっ!ありがとっ!」
「おうよ!お前ら二人じゃ心細いだろうしな!」
「『今回』が絶好のチャンスだもの。油断できないわ。」
僕以外の皆が話を進めていく。
僕が介入していいのかすら困惑してしまったが。
やはり気になる。
「……僕もそいつのこと、聞いていいですか。」
「おう!お前が一番聞いてなきゃな!」
「クト。あなたに教えるために私たちはここへ来たのよ。」
「……あ、ありがとうございます。」
何やら、僕が一番聞いていなきゃいけない重要なことらしい。
いったい何なんだろう。
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その「ナイアーラトテップ」さんについて、二人から色々教えてもらえた。
聞かせて貰った話を簡単にまとめると―。
まずその人は、僕と同じ「とんでもない危険な存在」らしい。
あらゆる姿に自分の容姿を変貌させることができ、「巨大な怪物の姿」や「黒い獣の姿」、「一般的なヒトの姿」等、他にも色々できるらしい。
そしてその「ナイアーラ」さんは、何故かある「一定の期間」のみ活動しているようで、その期間が今なのだという。
そのナイアーラさんが活動し始めると、この世のあらゆる場所で色んな怪事件を起こして、あらゆる「生命」に多大な迷惑を及ぼすとのこと。
そんな、イタズラ好きな人らしい。
そのナイアーラさんの活動を止めるには、先日会った「クトゥグア」さんが直接その人をねじ伏せるか、そのナイアーラさんが自分のしている事に「飽きる」かのどちらかしかないそうだ。
「とりあえずここまで解ったかクト?」
「……は、はい…。」
「よし!んで、ここからが本題だ!」
だーさんがバッと席を立ちあがり、僕を指さして。
「クト!その『ナイアーラトテップ』が持っている『すべての力』を、お前が全部奪い取れ!」
「…………え。」
「もう一度言おうか?」
「え、いえ…その…。」
「クト。よく聞いてほしいの。」
どんちゃんさんがその場を宥めるように、優しく僕の手を握って教えてくれた。
「今のあなたの中には、本来『あるべきでない力』が眠っているの。まだあなたはその『力』を見つけられていないかもしれないけれど、その力を利用して、『ナイアーラトテップ』の持つ『力』を奪い取ることができるのよ。」
「……『あるべきでない力』。」
「ええ。勿論、それを実行するかどうかはあなた次第。そして、そのあなたの中の『力』を見つけられるかどうかも、あなた次第よ。」
「………僕、次第。」
「でもねっ!」
突然いーださんが声を上げた。
「クーが、危険な目に合うのは…私は嫌だから……無理にやらなくてもいいんだよ…?」
「……いーださん…。」
なぜか、彼女は凄く悲痛な顔をしている。今にも泣きそうだ。
どうしてそんな顔をしているんだろう。
その表情の意図が、いまいち掴めなかった。
「…イーダー。」
「私はっ、クトと仲良く過ごせたらそれでいいっ!少しでも………長く…だから…危ない……こと…ぐすっ。」
「…い、いーださん。」
思わず僕は彼女に駆け寄る。
震えながら涙を流す彼女を、そっと抱き寄せて、背中を擦る。
そうするべきだと反射的に思った。
彼女も、答えるように僕に抱き着いてきた。
「…ぐすっ……クーぅ…。」
「……。」
「あぁ…なんか俺のせいで湿っぽい感じになっちまったな。」
「いえ、私のせいよ。ごめんなさいイーダー。」
「うっ…うぅっ……。」
「……一つだけ、いいですか。」
異様に悲しむ彼女を見て、気になったことがある。
「その『ナイアーラ』さんの持っている力を奪ったとして、その後そうすればいいんですか…?その奪った力は、何に使うんですか?」
しばらくの沈黙のあと、二人は口を開いた。
「………それもあなた次第、としか言えないわ。」
「その時になったら、俺たちがきっちり教えてやるよ!」
「……。」
なんだか、一番大事な部分だけ聞けていない気がする。
誤魔化されているのか。
それとも、その僕の求める大事な部分こそが、今僕が探さなければいけない「真理」の一部なのか。
そう考えながら、嗚咽を吐くいーださんの背中を擦る。
いま彼女が悲しんでいるのは。
僕のせいなのかもしれない。
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その後、なんとかいーださんは泣き止んでくれた。
何故か、しきりに「ごめんね…クー。」と何度も謝ってきた。
なぜ謝るんだろう。
まだまだ、解らないことばかりだ。
「さぁてと!ちょっと気分転換に『ゲーム』でもしようぜ!」
「…そうね。イーダー、やりましょう。ね?」
「………うんっ。」
「大丈夫ですか。いーださん。」
「うんっ。もう平気。…ありがとっクー。」
そう言って、僕の胸に顔を埋めてくる。
僕も、彼女の頭を撫でてあげた。
彼女がいきなり泣き始めた理由は解らない。
でも、僕に責任はある気がする。
だからせめて、優しく彼女に触れあう。
それぐらいしか、僕にはしてあげられなかった。
「よし!『すごろく』しようか!イーダー、確かお前の部屋にあったよな?」
「…うんっ、棚の中にあるよ。」
「じゃあ俺が取ってく―」
「待ちなさいダゴン。勝手に女の子の部屋に入るなんて不潔よ。私が行くわ。」
「べ、別に何もしな―」
「こ こ で 待 っ て な さ い !」
「…へ、へい。」
そう言って、以前いーださんが着替えていた部屋に入っていった。
さっき一瞬、どんちゃんさんの長い髪の毛がすべて逆立ち、うねうねと蠢いていた気がする。
なんだろう今のは。ちょっと怖かった。
「ねぇクーぅ?」
「…は、はい。」
彼女が上目遣い気味に、僕に聞いてきた。
「クーは私のこと好き?」
「……あ、…えっと。」
「…嫌い?」
「いえっ。」
「好き」というのは、好意があるという意味で間違いなかっただろうか。
「嫌い」は、その逆のはずだ。
だから。
「…大好きですよ。いーださん。」
「………………。」
僕がそういうと。
突然彼女が俯き、耳を真っ赤にし始めた。
「おうおう青いね~!相変わらずイーダーはうぶ――」
「うああああああああああああぁっ!!」
バッといーださんが立ち上がり。
いきなりだーさんを攻撃し始めた。
「いてててててててて!痛いってちょ――」
「もおおおおおおおお!うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさあああああああいっ!!!」
彼女に何が起こったのか解らなかったが。
ちょっと元気を取り戻したみたいで、安心した。




