水魚之交?
「いゃあ!やっぱ朝から飯がたらふく食えるって幸せだな~!」
「『だーくん』のためじゃないっ!クーのために作ったんだからっ!」
「食事中は静かに。ね?」
いつもと違う、朝食の風景。
ダゴンこと「だーくん」さんと、ハイドラこと「どんちゃん」さんを交えた朝は騒々しくも、なんだか落ち着いた雰囲気だ。
大部屋の黒い机に並べられた、いーださんお手製の大量の朝食。
いつものように、無数のパンにベーコンやエッグにサラダ、ポテトにソーセージ等と言った料理達が所狭しと大皿に盛られている。
それらを自分の皿に取り、それぞれ自分のペースで食事を進めている。
僕の目の前で食べている「だーくん」さんは、ほっそりした見かけによらず意外と大食いなようで、凄い勢いでそれらの料理を口に掻っ込んでいっている。
僕もそれに負けじと、絶えず料理を口に運ぶ。
何かの競争しているみたいで、ちょっと楽しい。
そんな「だーくん」さんを細い目で見ながら、落ち着いた様子で静かに食べている「どんちゃん」さん。この人は少食なのかあまり料理を食してはいないようだ。
この「どんちゃん」さんからは不思議なオーラを感じる。
見ているだけで吸い込まれてしまうような、姿に見惚れて身動きすることを忘れてしまうような、そんな感じのオーラだ。
「…?どうしたのクト。」
「あっ…いえ、なんでも…。」
「あ~クーっ!『どんちゃん』に見惚れてたなぁ~!」
「い、いえっ…そんな事は…。」
「う~っ!浮気はゆるさないぞぉ~っ!」
なぜかいーださんに叱られてしまった。
ただ見つめていただけなのに。
すると彼女が突然自分の席を立ちあがり。
「クーっ!ほらっ!あ~んしてあげるっ♪」
「……え。」
僕の側まで来て、フォークに刺したポテトを僕の口元まで近づけてきた。
これはおそらく、この前の彼女との「デート」中に、アイスを食べていた時にやったやり取りの応用だろう。
僕があーっと口を開けると、思い通り彼女は口にポテトを運んできてくれた。
「ふふっ♪クーも私にあ~んしてくれるっ?」
「…はい。」
そして僕も、フォークで刺したポテトを、彼女の口元に近づけて。
彼女の開いた口の中へそれを入れた。
「んっ、ありがとクーぅ♪」
「……こちらこそ。」
「まあまあ。相変わらず二人は仲良しさんね。」
「よしっ!俺らもするかハイドラ!」
「嫌よ。」
「なんでぇ!?」
そんな賑やかな時間が、その後も続いた。
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朝食を終えて、どんちゃんさんといーださんがそれら食器の片づけに行ってしまった。
今、だーくんさんと僕と二人で、大部屋の窓を見ながら話しているところだ。
「いゃあ、クトは相変わらず大食いだよな~!すげぇわ!」
「……いーださんの作る料理が、おいしいので…。」
「ったく!仲睦まじいったらありゃしねぇな!まさに『水魚之交』ってか?」
よく解らない言葉が出てきて少し困惑する。
どういう意味だろう。
さらにだーくんさんは言葉を続けた。
「まぁお前は『二人分』食ってる訳だからな!それだけ食っても何ら不思議じゃないさ!まだ足りないくらいじゃないか?」
「…………え…二人、分…?」
「お?その様子じゃまだその辺も知らなさそうだな。まぁゆっくり教えてやるよ。」
「……お願いします。」
そういって、席に座るよう促された。
「二人分」とはどういうことなのだろう。
だーくんさんが椅子に座り、少し真剣な顔つきに変わって僕に話してくれた。
「いいか?お前の中には『もう一人のお前』がいてな。お前はそいつの面倒も見なきゃいけないことになってるんだ。」
「……もう一人の…僕。」
「ああ。最近、お前自身の体が急に『変貌』したりとかって、まだしてないか?」
「……あ。」
そう言われて一つ心当たりがある。
「ハスター」と対峙した時だ。
僕自身の「正気度」が下がると、なってしまうというあの姿。
きっとあれのことだろう。
「お?身に覚えあるか?」
「…はい。この間『ハスター』さんに襲われた時に…。」
「ハスターか…なるほどな。怪我はなかったか?」
「……僕は。」
「ふむ。まぁ二人とも元気そうだし大丈夫だな。」
そう言って、人差し指をピンと立てて続けてくれた。
「つまりだ、そのお前の中にいる『もう一人のお前』は、お前の体の中に『棲んでる』。お前はそいつの分の食事も取らなきゃいけないってことだ。それがお前の大食いの秘密。解るか?」
「……はい。」
なるほどと思った。
あの「怪物」の腕を生やしたもう一人の僕。
あの僕こそが大食いなのかもしれない。
でも、どうしてわざわざ僕の中に棲んでいるんだろう。
「……あの、だーくんさん。」
「へ?だ、だだ『だーくんさん』?」
「あ…すみません…。呼び方がその…。」
「そんな変な呼び方しなくていい!『だー』でいいんだよだーで!」
「…は、はい…。」
そう彼から指摘を受け、改めてダゴンこと「だーさん」に質問する。
「…だーさん、そのもう一人の僕は、どうして僕の中に棲んでいるんですか?」
「お!いい質問だ。それはな。」
「だーさん」が少し前のめりになり、僕に言ってくれた。
「お前がその『もう一人のお前』を、丸ごと『喰っちまった』からだ。」
「……く…喰う、ですか…。」
「そうだ。お前がそいつを『喰った』から、そいつもお前の中に棲まざる負えなくなったってことだ。」
「……はあ。」
「んで、今そいつはお前の中で生き長らえる、お前と共にな。」
「……。」
「どうだ?解ったか?」
「……その、『もう一人の僕』は…。」
「…おう。」
「……どんな味だったんでしょうか。」
「………プフッ、フワッハッハッハッハッハッハッハッハ!!」
「え、え…」
「ヘヘッ、やべぇ。なかなか面白いこと言うなぁお前!そりゃさぞかし『美味』だったろうぜッハッハッハッハッハッハ!!」
「え…は、はぁ…。」
突然笑い出しただーさんの笑い声は。
しばらく止まることはなかった。




