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記憶を失くした旧支配者  作者: 南瓜
9日目
27/45

水魚之交?


「いゃあ!やっぱ朝から飯がたらふく食えるって幸せだな~!」

「『だーくん』のためじゃないっ!クーのために作ったんだからっ!」

「食事中は静かに。ね?」



 いつもと違う、朝食の風景。


 ダゴンこと「だーくん」さんと、ハイドラこと「どんちゃん」さんを交えた朝は騒々しくも、なんだか落ち着いた雰囲気だ。

 

 大部屋の黒い机に並べられた、いーださんお手製の大量の朝食。

 いつものように、無数のパンにベーコンやエッグにサラダ、ポテトにソーセージ等と言った料理達が所狭しと大皿に盛られている。

 それらを自分の皿に取り、それぞれ自分のペースで食事を進めている。


 

 僕の目の前で食べている「だーくん」さんは、ほっそりした見かけによらず意外と大食いなようで、凄い勢いでそれらの料理を口に掻っ込んでいっている。


 僕もそれに負けじと、絶えず料理を口に運ぶ。

 何かの競争しているみたいで、ちょっと楽しい。


 そんな「だーくん」さんを細い目で見ながら、落ち着いた様子で静かに食べている「どんちゃん」さん。この人は少食なのかあまり料理を食してはいないようだ。


 この「どんちゃん」さんからは不思議なオーラを感じる。

 見ているだけで吸い込まれてしまうような、姿に見惚れて身動きすることを忘れてしまうような、そんな感じのオーラだ。

 

「…?どうしたのクト。」

「あっ…いえ、なんでも…。」

「あ~クーっ!『どんちゃん』に見惚れてたなぁ~!」

「い、いえっ…そんな事は…。」

「う~っ!浮気はゆるさないぞぉ~っ!」


 なぜかいーださんに叱られてしまった。

 ただ見つめていただけなのに。

 すると彼女が突然自分の席を立ちあがり。


「クーっ!ほらっ!あ~んしてあげるっ♪」

「……え。」


 僕の側まで来て、フォークに刺したポテトを僕の口元まで近づけてきた。

 これはおそらく、この前の彼女との「デート」中に、アイスを食べていた時にやったやり取りの応用だろう。

 僕があーっと口を開けると、思い通り彼女は口にポテトを運んできてくれた。

 

「ふふっ♪クーも私にあ~んしてくれるっ?」

「…はい。」


 そして僕も、フォークで刺したポテトを、彼女の口元に近づけて。

 彼女の開いた口の中へそれを入れた。


「んっ、ありがとクーぅ♪」

「……こちらこそ。」 

「まあまあ。相変わらず二人は仲良しさんね。」

「よしっ!俺らもするかハイドラ!」

「嫌よ。」

「なんでぇ!?」


 そんな賑やかな時間が、その後も続いた。


__________________


 朝食を終えて、どんちゃんさんといーださんがそれら食器の片づけに行ってしまった。

 今、だーくんさんと僕と二人で、大部屋の窓を見ながら話しているところだ。


「いゃあ、クトは相変わらず大食いだよな~!すげぇわ!」

「……いーださんの作る料理が、おいしいので…。」

「ったく!仲睦まじいったらありゃしねぇな!まさに『水魚之交』ってか?」


 よく解らない言葉が出てきて少し困惑する。

 どういう意味だろう。

 さらにだーくんさんは言葉を続けた。


「まぁお前は『二人分』食ってる訳だからな!それだけ食っても何ら不思議じゃないさ!まだ足りないくらいじゃないか?」

「…………え…二人、分…?」

「お?その様子じゃまだその辺も知らなさそうだな。まぁゆっくり教えてやるよ。」

「……お願いします。」


 そういって、席に座るよう促された。

 「二人分」とはどういうことなのだろう。

 だーくんさんが椅子に座り、少し真剣な顔つきに変わって僕に話してくれた。

 

「いいか?お前の中には『もう一人のお前』がいてな。お前はそいつの面倒も見なきゃいけないことになってるんだ。」

「……もう一人の…僕。」

「ああ。最近、お前自身の体が急に『変貌』したりとかって、まだしてないか?」

「……あ。」


 そう言われて一つ心当たりがある。

 「ハスター」と対峙した時だ。

 僕自身の「正気度」が下がると、なってしまうというあの姿。

 きっとあれのことだろう。


「お?身に覚えあるか?」

「…はい。この間『ハスター』さんに襲われた時に…。」

「ハスターか…なるほどな。怪我はなかったか?」

「……僕は。」

「ふむ。まぁ二人とも元気そうだし大丈夫だな。」


 そう言って、人差し指をピンと立てて続けてくれた。


「つまりだ、そのお前の中にいる『もう一人のお前』は、お前の体の中に『棲んでる』。お前はそいつの分の食事も取らなきゃいけないってことだ。それがお前の大食いの秘密。解るか?」

「……はい。」


 なるほどと思った。

 あの「怪物」の腕を生やしたもう一人の僕。

 あの僕こそが大食いなのかもしれない。

 でも、どうしてわざわざ僕の中に棲んでいるんだろう。


「……あの、だーくんさん。」

「へ?だ、だだ『だーくんさん』?」

「あ…すみません…。呼び方がその…。」

「そんな変な呼び方しなくていい!『だー』でいいんだよだーで!」

「…は、はい…。」


 そう彼から指摘を受け、改めてダゴンこと「だーさん」に質問する。


「…だーさん、そのもう一人の僕は、どうして僕の中に棲んでいるんですか?」

「お!いい質問だ。それはな。」


 「だーさん」が少し前のめりになり、僕に言ってくれた。


「お前がその『もう一人のお前』を、丸ごと『喰っちまった』からだ。」

「……く…喰う、ですか…。」

「そうだ。お前がそいつを『喰った』から、そいつもお前の中に棲まざる負えなくなったってことだ。」

「……はあ。」

「んで、今そいつはお前の中で生き長らえる、お前と共にな。」

「……。」

「どうだ?解ったか?」

「……その、『もう一人の僕』は…。」

「…おう。」


「……どんな味だったんでしょうか。」


「………プフッ、フワッハッハッハッハッハッハッハッハ!!」

「え、え…」

「ヘヘッ、やべぇ。なかなか面白いこと言うなぁお前!そりゃさぞかし『美味』だったろうぜッハッハッハッハッハッハ!!」

「え…は、はぁ…。」


 

 突然笑い出しただーさんの笑い声は。



 しばらく止まることはなかった。


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