家族?
「…。」
僕は、目が覚めた。
昨日は「クトゥグア」さんの所へ挨拶しに行き、彼から沢山の話を聞けた。
そのあとはここへ戻り、就寝した。
今僕がやるべきこと。
それは、僕自身の「真理」を見つけ出すこと。
いったい何をすれば見つかるのかはわからない。
でも、それも含めて「真理」なのだと思う。
時間は限られていると彼は言っていた。
早くその「真理」を見つけ出さなければいけない。
なぜか、急がないといけない気がする。
気を改めて僕はベッドを離れ、鏡の前に立つ。
いつもの頼りなさそうな僕が、鏡に映し出されている。
いつも通りだ。
次に、寝息の聞こえる彼女のベッドを見る。
まだすやすやと眠っているようだ。
だが、彼女の方を見て。
いつもとは違う違和感にようやく気付いた。
霧の立ち込める、寝室の窓の外に。
何かが、いや「誰か」が浮いている。
窓をダンダンッと叩き、何かを叫んでいるようだ。
そしてその存在と、僕は目が合ってしまった。
しかもよく見ると、二つの存在が確認できた。
二つとも、ふよふよと浮いている。
「…。」
ちょっとした恐怖感が僕を襲う。
これは誰なんだろう。
目が合ってしまった以上、無視できない。
「―てけ―れ~…」
やはり何か叫んでいる。
中に入りたいのだろうか。
僕はその窓の側に駆けより、何を言っているのか聞き取ろうとする。
「あけてくれ~クト~!」
「…。」
「頼むよ~。」
窓を開ければいいのだろうか。
でも、窓の開け方が解らない。
どうしよう。中に入れていい存在なんだろうか。
いーださんに相談したほうがいいのだろうか。
「クト~!」
「あ…えっと…。」
「へ~?なんだって~?」
その声に彼女も反応したのだろうか。いーださんがベッドから体を起こした。
すごく眠そうな顔をしている。
「…ふぇ、なにぃ…」
「イーダー!開けてくれ~!」
「う~ん…玄関から入ってきてぇ…」
と言うと、また彼女はベッドに包まってしまった。
その様子を見て何かを諦めたのか、窓の外の誰かがガクッと体を垂らして沈んでいってしまった。
するともう一方の存在がまた窓に寄ってきて、僕を見ながら、優しく微笑んでくれた。
今窓の向こうにいるのは、女性のように見える。髪も長い。
「クト。ここの鍵を下げてくれる?」
「…え、はっはい…。」
言われた通り、女性が指さした場所にある出っ張りをガチャっと下げた。
するとその女性が窓を手前へ引っ張り。
ガチャっと窓を開けて、そのままふよふよと寝室へ入ってきた。
それには流石にいーださんもびっくりしたのか、ベッドから飛び起きた。
「ふえっ!なになにっ!?」
「もうイーダー、今日は珍しく御寝坊さんね。」
「お?窓開いた?はぁ助かった~…二人とも全然起きねぇんだもん…」
「うぇ!?…だーくん!どんちゃん!久しぶりぃ!」
彼女が、この浮遊する二人を「だーくん」「どんちゃん」と呼んだ。
頭が回らず、しばらくその二人をじっと見るしかなかった。
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薄暗い部屋。
長い黒机のある部屋で、窓から入ってきた二人と僕たちが並んで話している。
「いや~もう今日は入れないかと思ったぜぇったくよぉ…。」
「二人が起きるまでだいぶ待たされたものね。」
文句を垂れる二人に、いーださんが怒りっぽく反論する。
「って言うかさぁ!なんでだーくんはいつも窓から入ってくるのっ!玄関あるじゃん!」
「ちゃんと玄関もノックしたし!でも開かねぇんだもんそりゃそうだよお前らしかいないもんここぉ!」
「落ち着きなさいダゴン。朝早く来過ぎた私たちのせいでしょ?」
「けっ!なあイーダー。腹減ったから朝飯作ってほしいんだけどいいか?」
「うぅ!何よ厚かましいなぁ!もぉ!」
「イーダーも落ち着いて。ね?私たちが悪かったから。」
「…ん~っ。どんちゃんがそういうなら許してあげるっ。」
朝から、とても賑やかだ。
今僕の目の前で、普段見ない二人の存在がいーださんと論争している。
一人は彼女に「だーくん」と呼ばれた存在。男性だろう。
水色の髪がツンッと上に跳ね上がり、目の色も綺麗な水色だ。
喋ると時々、口から尖った歯がきらりと覗く。
服は青色のシャツに白いジャケット。下はジーンズだろうか。
首から下には、六角形の固そうな皮膚がずらずらと張り巡らされている。
もう一人は「どんちゃん」と呼ばれた存在。女性に見える。
紺色の長い髪を自然に下ろして、目の色も深い紺色をしている。
なぜかその長い髪は、たまにうねっと蠢くときがある。
まるで何かの生き物が、髪の毛に宿っているかのようだ。
服は白く長いベアトップ。腕には何個かの腕輪が通されている。
とても落ち着いた雰囲気のある女性だ。
「はぁ~、仕方ないから皆の分の朝ごはん作るよ…」
「お!頼むわぁ。」
「だーくんの分は少なめにしてやるっ!」
「なんでぇ!?」
そう言って、彼女は朝食を作りに部屋を出ていった。
僕はどうしよう。
この間彼女は沢山の調理器具を一度に操っていた。きっとあれが有れば朝食に関して僕は手伝えることは少ないだろう。
「久しぶりね。クト。」
僕に、「どんちゃん」さんが話しかけて来てくれた。
「…あ、その…。」
「解らなくていいわ。私は『ハイドラ』って言うのよ。よろしくね。」
「ちなみに俺は『ダゴン』だ!クトっ元気そうだな!」
そう二人は、何の迷いもなく紹介してくれた。
どんちゃんさんが、さっき僕に「久しぶり」と言ってきた。
僕はこの二人と初対面のはずなのに。
「……あの。どこかで、お会いしましたか…?」
「ええ。『ずっと前』にね。」
「……ずっと、前…。」
そう聞いて。
自分の記憶を遡るが、やはりどう考えても僕はこの二人に会ったことはない。
どういうことだろう。
「ずっと前」とは。
いつから、前のことだろう。
「…混乱させてしまったようね。ごめんなさい。」
「まぁさ、その辺も踏まえていっちょ『家族会議』といこうや!」
「そうね。そうしましょう。」
家族…会議。
何か、大事な話ができそうな気がする。
もしかしたら。
僕の探さなきゃいけない「真理」についても、この二人と話せば何か解るかもしれない。
そんな期待が膨らむ。
「……あの。」
「お!どうした。」
「……僕、お二人に、いっぱい質問するかもしれません。いい…ですか?」
「おう!俺たちも、そのつもりでここに来たわけだしな!」
「私たちに可能な限り、答えてあげるわ。」
「……ありがとう、ございます。」
とても、強力な助っ人が来てくれた気がした。
なんだかどきどきする。
何から聞こうか。何を聞くべきか。
聞きたいことが多過ぎて、何も思い浮かんでこないような。
そんな気分だ。
「さぁて、しばらくここに住むことになりそうだな!」
「ええ。みんなで仲良く過ごしましょ。」
「おう!イーダーの手料理もたらふく食えるしな!」
「それが目的じゃないでしょう。」
「解ってるって!」
だーくんさんが僕の目を、にこやかに見つめて。
「な!クト。俺たち『旧支配者の家族』同士、仲良くしようや!」
そう僕に投げかけられた言葉は。
感動的な何かを感じた。




