面倒くさいトランプ遊び。
風通しのいい洞窟の中。
ちょっとした広間で、わいわいとはしゃぐ甲高い声が洞窟に響き渡っている。
「ねぇ次『大富豪』しよ~?」
「とらんぷとらんぷ~。」
「いい加減にしろお前達。ボクは―」
「ハスターも『大富豪』するよね~?」
「ね~。」
「……………。」
はあもう。
いつになったらこいつ等から解放されるんだ。
さっきからずっとこの「ナグ」と「イエイブ」のトランプ遊びに付き合わされている。
よくこんな単調なカード遊びで飽きないな。
こんなことしている場合じゃないのに。
今すぐにでもここを抜けだしたい。
だがこいつらの機嫌を損ねれば、それこそ面倒なことになる。
「お姉ちゃん早く早く~。」
「はやくはやく~。」
「……うん。今配る。」
「………はあ。」
まぁもう考えるのも面倒だ。
ここまで来たら付き合ってやるしかない。
そして、やるからには本気でやる。
「大富豪」をすると言っていたか。
こいつらとする「大富豪」は、普通よりも面倒なルールをいくつか使用することになっている。
8切り、スペード3返し、イレブンバック、シークエンス、エンペラー、砂嵐、救急車、革命等々だ。
勿論「都落ち」、「禁止上がり」も適用している。
数字やマークの「縛り」はこの双子が文句を言うので使用していない。
その代り、こいつらは意外とルールには堅実だ。
自分の順位などは特に気に障らないようで、最下位などになってもその結果を笑い飛ばしている。
純粋にゲームを楽しむぐらいの心はあるようだ。
今は「シュー」がシャッフルしている。
ボクの右にシュー、正面にナグ、左にイエイブという順番で並んでいる。
サッサッサッと、シューが器用に素早く手札を配当していく。
こいつらと遊び慣れているのか、トランプの扱いに迷いがない。
配当が終わり、配られた手札を見る。
一見、一抜けを狙いに行けるような手札ではない。
ボクはこういう手札の場合、まず「最下位」になることを優先する。
その方が、ボクにとっては確実に以降の一抜けを確立できるからだ。
まずは、「ダイヤの3」を持っているナグからのようだ。
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ボクは自分の手札よりも、「捨てられていく札」の順番をより重視して見ている。
上へ上へと、捨てられる束が順番に嵩張っていっているのを見て。
顔がニヤけてしまう。
計画通り、怪しまれない程度にボクは「パス」を使用し続ける。
「パス」の使用制限は特にない。なので、場に出せる手札があってもあえてボクは「パス」を宣言し、「最下位」を目指す。
そうこうしているうちに、「ナグ」が一抜けを果たした。
その次に「イエイブ」が。言わずとも、次はシューが手札を出し終えた。
「や~い、ハスター最下位~。」
「さいかいい~。」
「ど貧民だ~。」
「どひんみ~ん。」
うざい。
ボクは溢れそうな怒りをぐっとこらえ、捨てられた山札を慎重に手に取る。
ルール上、次のゲームのシャッフルは「最下位」がすることになっている。
これがボクの狙いだ。
さっき、捨てられていく札の順番をよく見ていたのはこれにある。
手に取った山札を見ながら、ボクは少しゆっくりめに「パラパラッ」とはじいていく。その山札を即見して、大体のカードの位置を把握する。
これでボクの「仕込み」は完了だ。
必要な場所にだけ、薄い「『空気』の目張り」を入れ込んだ。
「空気」を入れ込んだのは、「クイーン以上のペアの場所」と「小さな数字の集合する場所」。
この「『空気』の目張り」を頼りに、僕は平然とシャッフルしていく。
そのシャッフルで、「確実に強い手札」と「あまりにも弱い手札」が完成されるように、慎重に混ぜていく。
さっきのゲームで「イレブンバック」を使って、小さな数字の束ができるようにざっくりと調整していた。
あとはその間に均等に、誰か一か所の手札に「クイーン以上」が来るように一枚ずつ入り混ぜていく。
かなり神経を使ったシャッフルがようやく終わり、平然とした顔でボクはゆっくり手札を配当していく。
「早くしろ~ど貧民~。」
「どひんみ~ん。」
「遅いぞ低所得~。」
「ていしょとく~。」
キレていい?
だがそんな大口を叩けるのも今のうちだ、次期ど貧民め。
格の違いを見せてやる。
手札の配当が終わり、ボクは自分の手札を見る。
ボクの手札は、「あまりにも弱い手札」になっている。
「わ~い。今回の手札すげ~。」
「いいないいな~。」
そして「ナグ」の手札には無事、「確実に強い手札」が行き届いていることを確認し。
ニヤリと笑って。
ボクは手札を伏せ、その全部を前にそっと差し出す。
正面にいる「ナグ」に向けて。
「ん~?ハスター降参~?」
「ていしょとく~。」
「降参するか考えるのは君だ『ナグ』。……『天変地異』だ。」
「『天変地異』~?」
「天変地異」。大富豪の特殊ルールだ。
最下位の手札がすべて「10以下のカード」で構成されている場合、その手札と一抜けの「大富豪」との手札を、丸ごと交換できるという物。
そして今、ナグの手札にはボクが仕込んだ強力なカードが揃っている。
ほぼ、この回のゲームはボクの勝ちと言える。
「え~嫌だ~。」
「ルールには従ってもらうよ。さぁ手札を寄越すんだ。」
「う~ハスターの意地悪~。」
「いぢわる~。」
イエイブは関係ないだろ。
「……はすたー、ずるは、だめ。」
「うるさい。」
「シュー」の忠告を適当に払いつつ、大富豪を再開した。
そして、手札が弱く何も手出しできない「ナグ」をニヤニヤしながらど貧民へと引きずり降ろした。
なんと清々しいことか。
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「う~、もう一回~。」
「もういっかい~。」
まだする気かこいつら。
いい加減飽きてきた。
何か今の状況の打開策はないかと考えていたら。
ヒュオオォォォォという音と共に、洞窟の中に翼の生えた馬鹿が入ってきた。
「あ!ビヤーキーだ~。」
「びゃーき~びゃーき~。」
翼の生えた馬鹿はこいつら双子を気にも留めていない。
根性あるなお前。
「イア、ハスター、ジョウホウ、モッテキタ」
「何だよ。『兵器』は持ってきたの?」
「ヴッ、ヘイキ、マダ、モッテキテ、ナイ」
「じゃあ何で来たんだよ。またつまらない情報か。」
「…ナイアーラ、ウゴイテル、オデ、ミタ」
その何度か聞いた名前を、こいつが口にした。
シューもその名前を聞いて、少し目を見開いているのが解る。
ナイアーラ。ナイアーラトテップか。
「クト」と「ナイア」が同時に目覚めるのも、いつ以来だろうか。
その名前を聞き、しばらく考える。
「っふ~ん、そうか。」
「ハスター、ドウスル」
「……お前はとりあえず『兵器』を取ってこい。そいつのことはこっちで考える。」
「ワカッタ、イア、ハス―」
「ねえビヤーキー、背中乗せて飛んで~。」
「のせてとんで~。」
「…ナグ、イエイブ、オデ、シゴトチュウ」
「ちょっとだけ~ね~。」
「ね~。」
あぁこいつらに捕まった。
下手したら殺されるなこいつ。
そんな様子を見て、「シュー」が。
「……二人とも、ダメ、こっちおいで。」
「む~、は~い。」
「は~い。」
と、素直にシューの元へ駆け寄っていった。
こいつらは、シューの言うことだけには従う。
まったく面倒な奴らだ。
「デハ、イア、ハスター、イッテクル」
そう言って、またヒュオオォォォォと音を立てて飛んで行った。
「そうか。『ナイア』が、か。」
「……はすたー…。」
「……。」
少し予定が狂った。
どうしようか。
でも。
「…『今回』は、いつもとは変わりそうだねぇ~。」
そんな期待が。
しばらく胸をざわつかせた。




