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記憶を失くした旧支配者  作者: 南瓜
8日目
25/45

面倒くさいトランプ遊び。

 風通しのいい洞窟の中。

 

 ちょっとした広間で、わいわいとはしゃぐ甲高い声が洞窟に響き渡っている。



「ねぇ次『大富豪』しよ~?」

「とらんぷとらんぷ~。」

「いい加減にしろお前達。ボクは―」

「ハスターも『大富豪』するよね~?」

「ね~。」

「……………。」


 

 はあもう。

 

 いつになったらこいつ等から解放されるんだ。

 さっきからずっとこの「ナグ」と「イエイブ」のトランプ遊びに付き合わされている。

 よくこんな単調なカード遊びで飽きないな。


 こんなことしている場合じゃないのに。

 今すぐにでもここを抜けだしたい。

 だがこいつらの機嫌を損ねれば、それこそ面倒なことになる。

 

「お姉ちゃん早く早く~。」

「はやくはやく~。」

「……うん。今配る。」

「………はあ。」


 まぁもう考えるのも面倒だ。

 ここまで来たら付き合ってやるしかない。

 そして、やるからには本気でやる。


 「大富豪」をすると言っていたか。

 こいつらとする「大富豪」は、普通よりも面倒なルールをいくつか使用することになっている。

 8切り、スペード3返し、イレブンバック、シークエンス、エンペラー、砂嵐、救急車、革命等々だ。


 勿論「都落ち」、「禁止上がり」も適用している。

 数字やマークの「縛り」はこの双子が文句を言うので使用していない。

 その代り、こいつらは意外とルールには堅実だ。

 自分の順位などは特に気に障らないようで、最下位などになってもその結果を笑い飛ばしている。

 純粋にゲームを楽しむぐらいの心はあるようだ。



 今は「シュー」がシャッフルしている。

 ボクの右にシュー、正面にナグ、左にイエイブという順番で並んでいる。


 サッサッサッと、シューが器用に素早く手札を配当していく。

 こいつらと遊び慣れているのか、トランプの扱いに迷いがない。


 配当が終わり、配られた手札を見る。

 一見、一抜けを狙いに行けるような手札ではない。

 ボクはこういう手札の場合、まず「最下位」になることを優先する。

 その方が、ボクにとっては確実に以降の一抜けを確立できるからだ。


 まずは、「ダイヤの3」を持っているナグからのようだ。


__________________


 ボクは自分の手札よりも、「捨てられていく札」の順番をより重視して見ている。

 上へ上へと、捨てられる束が順番に嵩張っていっているのを見て。

 顔がニヤけてしまう。

 計画通り、怪しまれない程度にボクは「パス」を使用し続ける。

 「パス」の使用制限は特にない。なので、場に出せる手札があってもあえてボクは「パス」を宣言し、「最下位」を目指す。


 そうこうしているうちに、「ナグ」が一抜けを果たした。

 その次に「イエイブ」が。言わずとも、次はシューが手札を出し終えた。


「や~い、ハスター最下位~。」

「さいかいい~。」

「ど貧民だ~。」

「どひんみ~ん。」


 うざい。

 

 ボクは溢れそうな怒りをぐっとこらえ、捨てられた山札を慎重に手に取る。

 ルール上、次のゲームのシャッフルは「最下位」がすることになっている。


 これがボクの狙いだ。

 さっき、捨てられていく札の順番をよく見ていたのはこれにある。

 手に取った山札を見ながら、ボクは少しゆっくりめに「パラパラッ」とはじいていく。その山札を即見して、大体のカードの位置を把握する。

 

 これでボクの「仕込み(イカサマ)」は完了だ。

 必要な場所にだけ、薄い「『空気』の目張り」を入れ込んだ。

 「空気」を入れ込んだのは、「クイーン以上のペアの場所」と「小さな数字の集合する場所」。


 この「『空気』の目張り」を頼りに、僕は平然とシャッフルしていく。

 そのシャッフルで、「確実に強い手札」と「あまりにも弱い手札」が完成されるように、慎重に混ぜていく。


 さっきのゲームで「イレブンバック」を使って、小さな数字の束ができるようにざっくりと調整していた。

 あとはその間に均等に、誰か一か所の手札に「クイーン以上」が来るように一枚ずつ入り混ぜていく。


 かなり神経を使ったシャッフルがようやく終わり、平然とした顔でボクはゆっくり手札を配当していく。


「早くしろ~ど貧民~。」

「どひんみ~ん。」

「遅いぞ低所得~。」

「ていしょとく~。」


 キレていい?


 だがそんな大口を叩けるのも今のうちだ、次期ど貧民め。

 格の違いを見せてやる。


 手札の配当が終わり、ボクは自分の手札を見る。

 ボクの手札は、「あまりにも弱い手札」になっている。

 

「わ~い。今回の手札すげ~。」

「いいないいな~。」


 そして「ナグ」の手札には無事、「確実に強い手札」が行き届いていることを確認し。

 ニヤリと笑って。

 ボクは手札を伏せ、その全部を前にそっと差し出す。

 正面にいる「ナグ」に向けて。


「ん~?ハスター降参~?」

「ていしょとく~。」

「降参するか考えるのは君だ『ナグ』。……『天変地異』だ。」

「『天変地異』~?」


 「天変地異」。大富豪の特殊ルールだ。

 最下位の手札がすべて「10以下のカード」で構成されている場合、その手札と一抜けの「大富豪」との手札を、丸ごと交換できるという物。


 そして今、ナグの手札にはボクが仕込んだ強力なカードが揃っている。

 ほぼ、この回のゲームはボクの勝ちと言える。


「え~嫌だ~。」

「ルールには従ってもらうよ。さぁ手札を寄越すんだ。」

「う~ハスターの意地悪~。」

「いぢわる~。」


 イエイブは関係ないだろ。


「……はすたー、ずるは、だめ。」

「うるさい。」


 「シュー」の忠告を適当に払いつつ、大富豪を再開した。

 そして、手札が弱く何も手出しできない「ナグ」をニヤニヤしながらど貧民へと引きずり降ろした。


 なんと清々しいことか。


__________________


「う~、もう一回~。」

「もういっかい~。」


 まだする気かこいつら。

 いい加減飽きてきた。

 何か今の状況の打開策はないかと考えていたら。



ヒュオオォォォォという音と共に、洞窟の中に翼の生えた馬鹿が入ってきた。


「あ!ビヤーキーだ~。」

「びゃーき~びゃーき~。」


 翼の生えた馬鹿はこいつら双子を気にも留めていない。

 根性あるなお前。

 

「イア、ハスター、ジョウホウ、モッテキタ」

「何だよ。『兵器』は持ってきたの?」

「ヴッ、ヘイキ、マダ、モッテキテ、ナイ」

「じゃあ何で来たんだよ。またつまらない情報か。」

「…ナイアーラ、ウゴイテル、オデ、ミタ」

 

 その何度か聞いた名前を、こいつが口にした。

 シューもその名前を聞いて、少し目を見開いているのが解る。


 ナイアーラ。ナイアーラトテップか。

 「クト」と「ナイア」が同時に目覚めるのも、いつ以来だろうか。

 その名前を聞き、しばらく考える。


「っふ~ん、そうか。」

「ハスター、ドウスル」

「……お前はとりあえず『兵器』を取ってこい。そいつのことはこっちで考える。」

「ワカッタ、イア、ハス―」

「ねえビヤーキー、背中乗せて飛んで~。」

「のせてとんで~。」

「…ナグ、イエイブ、オデ、シゴトチュウ」

「ちょっとだけ~ね~。」

「ね~。」


 あぁこいつらに捕まった。

 下手したら殺されるなこいつ。


 そんな様子を見て、「シュー」が。


「……二人とも、ダメ、こっちおいで。」

「む~、は~い。」

「は~い。」

 

 と、素直にシューの元へ駆け寄っていった。

 こいつらは、シューの言うことだけには従う。

 まったく面倒な奴らだ。


「デハ、イア、ハスター、イッテクル」


 そう言って、またヒュオオォォォォと音を立てて飛んで行った。


「そうか。『ナイア』が、か。」

「……はすたー…。」

「……。」


 少し予定が狂った。

 

 どうしようか。


  

 でも。



「…『今回』は、いつもとは変わりそうだねぇ~。」



 そんな期待が。




 しばらく胸をざわつかせた。

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