いい人?
小さな炎に変貌してしまった「クトゥグア」さんと会話している。
先ほど僕は、襲いかかってきた「クトゥグア」さんの燃え盛る拳に触り、その触った時の衝撃で彼の黒い巨体を木っ端微塵にしてしまった。
なぜ僕が触っただけで彼の体が砕け散ったのかは、詳しいことは解らない。
ただ、僕は「水」で彼は「炎」であり、「炎」は「水」に消される物であると。
そういーださんに説明され、そういう物なんだと納得してしまった。
「とりあえずさぁ、この周りの騒がしい人達って何とかできない?」
「…うむ。体を元に戻せれば、静まるよう我輩から『命令』しよう。」
「……本当に、すみません。」
「クトゥルフ。お主は先ほどからそれしか言っておらぬな。もうよいと言っておろうに。」
「…はい。」
「もぉクー、悪いのはこいつなんだからっ、落ち込んじゃダメ!」
「……はい。」
そんな会話から間もなくして、「クトゥグア」に使えているのであろう人達が駆けつけ、彼の小さな炎に大量の薪を添えた。
すると彼の姿は忽ち大きくなり、最初に見た黒い「大男」の姿へと戻った。
体が戻るとすぐ彼は。
「諸君!!!我輩は不死身であるっ!!!静まりたまえぇぇぇ!!!!」
と、この「王座の間」の全員に聞こえるような大声でそう叫んだ。
〈クトゥグア様が蘇ったぞ!〉
〈さすがクトゥグア様だ!〉
〈クトゥグア様バンザイ!〉
〈イーアッ!クトゥグア!〉
〈イーアッ!クトゥグア!〉
周囲にいた人達もその一声に安心したのか、そんな彼の姿を見て散り散りに解散していった。
「不死身って…さっき消えかけてたくせにっ。」
隣でいーださんが目を細めてボソッと呟いていた。
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元の姿に戻った「クトゥグア」さんが、豪勢な椅子に腰かけながら僕たちと話をしてくれている。
「先までの多大なる無礼、失礼した。改めて名乗らせてもらおう。我輩―」
「『クトゥグア』だよねうんうんもう解ってるから名乗らなくていいよっ。」
「………うむ。」
いーださんが何か喋りたそうな彼を無理やり黙らせた。
僕は、この「クトゥグア」さんにあいさつしにここへ来ただけだと思っていたが。
彼女はまだ何か彼に用があるようだった。
それも、重要な話なのだという。
「して、イーダー。要件と言うのは何だ。」
「……『アイツ』に、何か動きがあるってつっちーから聞いたの。」
「つっちー、『ツァトゥグァ』のことであるな。」
「うん。つっちーが言うんだから、ほぼ間違いないと思うの。」
「ふむ………。」
僕はそんな二人の会話を静かに聞いている。
彼女の言う『アイツ』とは誰のことだろう。
気になって、聞いてみた。
「……あの。」
「んっ?なにっクー。」
「……いーださんの言う、『アイツ』って、どなたですか?」
「…そういえばクーにはまだ言ってなかったっけ?」
「クトゥルフ。お主まだそんなことも知らぬのか。」
「うぅ!クーはまだお勉強中なのぉ~!」
そして彼女が、僕の方に向き直って答えてくれた。
「『アイツ』って言うのはね、『ナイアーラトテップ』のことなのっ。」
「……ナ、ナイ…。」
「『ナイアーラトテップ』だよっ。」
「……。」
難しい名前の人だなぁと思った。
その「ナイアーラトテップ」さんが、どうしたというのだろうか。
「クトゥルフ。お主にとっても、そやつは決して無視できぬ存在であろうな。」
「……はぁ。」
「だからねクトゥグアっ!私たちに協力してほしいのっ!お願いっ!」
「……………。」
その「ナイアーラ」さんについて聞く前に、話が進んでしまった。
「クトゥグア」さんは少し考え、口を開いた。
「断る。」
「…なんでっ!」
「そもそも、クトゥルフ。お主はまだ一歩も『真理』に近づけてはおらぬではないか。そんな状態で我輩が協力した所で、何も意味は成すまい。」
「でもっ!」
「イーダー。お主の焦る気持ちは痛いほど解る。だが今はその時ではない。」
「…うぅ。」
「あの!」
少し声を張り上げて、僕は話の流れを遮る。
どうしても、気になる単語が一つある。
「『真理』って、何なんですか。僕は、何をすればいいんですか!」
どうしても、もやもやする。
僕が何も解らないのが原因で、彼女を困らせてしまっている気がするから。
解らないことは、すべて解決しておきたい。
そんな僕に、少し怒るような表情で「クトゥグア」さんが答えた。
「クトゥルフ。お主の『真理』は、お主自信が見つけ出すのだ。」
「……僕、自信。」
「そうだ。お主が自信の『真理』を見出せば、それに伴い周りの全てが変わるだろう。お主が『真理』を見い出さなければ、周りは何も手出しできぬのだ。」
「……。」
「だが『真理』はすぐそばにある。それにお主が気づいた時には、我輩もお前に協力することを約束しよう。」
「ほんとっ!クトゥグア!」
「無論だ。我輩も鬼ではない。」
彼女の表情が和らいだ。何か安心したようだった。
でも、僕はいまだにもやもやしたままだ。
「真理」って何なんだろう。僕自身が見つけ出さなければいけない物らしい。
周りは何も手出しできないのなら、その「真理」は僕にしか見えないのか。
考えれば考えるほど。
頭がくらくらしてくる。
僕は、何をすれば。
そんな思考の途中で。
だらだらだら、と。
唐突にいーださんが僕の頭へ、どこから出したのか「水」を垂らしてきた。
「クー、考え過ぎちゃダメっ。ゆっくりでいいんだよ。」
「……いーだ、さん…。」
いきなり「水」をかけられて驚いたが。
でも、その「水」のおかげで僕の思考が落ち着いた。
「水」が体に浸透し、心が安らぐ。
混乱していた僕の思考が、安定してくる。
そしてもう一度、彼に問いかける。
「…その僕の『真理』って、すぐに見つけなきゃいけないですか。」
「それはお主次第だ。すぐにとは言わぬ。だが一つ言えるのは、時間は限られているということだ。」
「時間…。どれくらいの時間があるんですか。」
「………。」
「……『真理』が見つかれば、解るんですね。」
「その通りだ。」
「…教えてくれて、ありがとうございます。」
ようやく解った。
僕は「クトゥグア」さんに深々と礼をする。
一つの答えが見つかった。僕はには、その「真理」が足りない。
これからの「目的」が見つかった。
僕の、「真理」を見つける。
それが、僕のやるべきこと。
「礼などいらぬ。そんな暇があれば、『今』を大切にすることだな。この瞬間にも、できることはあるのだぞ。」
「……はい。」
「クトゥグア」さん。
思っていたよりも、とてもいい人だった。
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その後は彼女と相談し、とりあえず帰ることにした。
頭の中がちゃんと整理できていないので、少し落ち着きたい。
「クトゥルフ。」
「………はい。」
改まったように、帰ろうとしていた僕を彼が呼び止めた。
「『ハスター』にはもう会ったか。」
「…はい。」
「ふむ。ではこれも言っておこう。彼はお主を殺めようとあらゆる方法で接近してくるだろう。だが、彼そのものが『悪』という訳ではないのだ。それだけは心に刻んでおけ。」
「……は、はい。」
いまいち言ってることが理解できないまま、返事をしてしまった。
「ハスター」が、悪という訳ではない。
どういう意味だろう。
彼は、僕のことが嫌いなんじゃないのか。
だがそれも、僕が僕の「真理」を見つければ。
解るはずだ。
「もぉ~『クトゥグア』!あんまりクーに次々と言わないであげてよ~!可哀想でしょ!」
「こやつを思って言っておるのだぞ。何も不必要なこ―」
「あーあーもう何も聞こえない~!もうっ!いちいち話が長いんだよっ!行こっ!クーっ。」
「ふん。イーダーも変わらぬな。自分を変えられぬままが故に、未だに一度もひめご―」
「だぁ~~~~~!!もおぉ!うるさいってばぁ!」
そんな賑やかなやりとり。
そして、「クトゥグア」とのしばしのお別れ。
この人とは、今度もっと色々な別の話がしたい気がする。
とても、僕にとって重要な人のような気がするから。
そして僕たちは、「クトゥグア」の元を後にした。
「……『今回』のこやつなら、或いは、成し遂げられるやもしれぬな。」
二人の去った後。
そう、「炎の主」は呟いた。




