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記憶を失くした旧支配者  作者: 南瓜
8日目
23/45

クトゥグア?

 「王座の間」に来た僕たちの目の前に、「クトゥグア」であろう存在が現れた。


 体格「2m」はあるであろうスキンヘッドの大男の姿。

 肌が炭のように真っ黒で、所々ひびが入っているように見える。

 目の色が左右で相違があり、右目が紅色、左目が朱色をしている。

 全身を真っ黒なトレンチコートで包んでおり、そのコートは所々焦げている。


 そんな威圧感のある存在が、ゆくっりと豪勢な椅子に腰を下ろした。


〈クトゥグア様だ!!〉

〈あぁなんと御勇ましいお姿…!〉


 周囲からは、その存在を褒め称えているのであろう歓声が騒々しく飛び交っている。


「…葉巻を寄越せ。」

「こちらに。」

 

 側にいた使いの人達が、その「クトゥグア」であろう存在に何かの棒を渡した。

 「クトゥグア」が真っ黒な右手の人差し指に「火」を灯し、その火を棒の先端に近づけた。その棒からは、もくもくと煙が立ち始める。

 椅子に肘を突きながら、その煙の立つ棒を口に咥えて。



「クトゥルフ!!!」

「はっはい。」



 突然大声で僕に話しかけてきた。

 あまりにも唐突すぎて、僕は気の抜けた返事をしてしまった。

 そんな驚いた僕など気にもせず、「クトゥグア」さんは言葉を続けた。


「『水の主』たるお主がこの我輩を、『貢物』を用意してここへ呼び寄せた。それはつまり―。」



 椅子からバッと立ち上がり、こちらを指さして。



「お主は、お主自信の『真理』に近づいてここへ来た!!間違いないか!!」

「……………え。」


 突然、何かを問いだされた。

 「真理」と聞こえたが、どういうことだろう。

 僕がここへ来たのは、「つっちー」さんにこの「クトゥグア」さんに挨拶しに行けと言われてここへ来た。それ以外は、特に目的はない。

 何と答えればいいか少し困惑し、とりあえず素直に答えた。


「僕はただ…『クトゥグア』さんにあいさつをしに………。」

「…………んん!」

「あ~えっと、あのね『クトゥグア』っ!」


 隣にいたいーださんが少し焦り気味に「クトゥグア」さんに話しかけた。


「その~、クーはまだ色々とお勉強中と言うか~…。その~、全部解ってるわけじゃなくってこれから―」


 そこまで彼女が喋ると、突然。


「―――――ふううううううううざけるなあああああああああああ!!!!!」


 

 「クトゥグア」さんが全身に強烈な炎を纏いだし、怒り出した。

 それと共に空間に響き渡る、怒号。

 その怒号に謳歌するように、辺りからは熱狂的な歓声が熾る。


「この我輩がわざわざここに来てやったというのに、『真理』に近づいたわけでもなければ我輩に『戦』を挑みに来たわけでもなく!会いに来た理由が『あいさつ』しに来ただけだとおおおおおお!!!!?」

「いやっ、だからちゃんと聞い―」

「この―――」


 いつの間にか、天井に行く着くほどまでに巨大化していた「クトゥグア」さんが、燃える炎がギラギラと宿る巨大な握り拳を。



「愚かものめがああああああああああああああああああ!!!!!!」


 

 僕たちのいる場所へと振り下ろしてくる。

 まるで、上から「隕石」が降ってくるかのように。


「クー!!!」

「いーださん!」


 咄嗟に彼女を僕の後ろへと回し、彼女を抱きかかえるように庇う。

 彼女だけは、守らなければいけない。


 上からはどんどん迫りくる炎の握り拳が。

 頭が混乱し、身が震える。


 彼女の言葉を思い出す。

 少しでも「クトゥグア」さんに触れられれば、僕の勝ちだと。

 触れる。

 あの燃え盛る拳に。


 目を瞑り、歯を食いしばりながら僕は真上へと右手をかざす。

 触れるために。


 手のひらにはじりじりと熱さが伝わってくる。

 その痺れるような痛々しい熱さに、思わず手を引っ込めそうになる。

 でもここで僕が逃げたら。彼女までもが。

 そう自分を奮い立たせ、手を伸ばし続ける。あの燃え盛る拳に触れるため。


 そして、手のひらに何かが当たる感触があった。

 途端、無数の熱せられた細かい針が刺さるような痛みが右手に走る。

 

 その感覚とともに「ジューッ」と言う音が聞こえて―


__________________


 ―――ゆっくりと、目を開ける。


 辺りは、いつからか静寂に満ちていた。


 自分の無事を確認する。

 体に痛みはない。

 抱きかかえている彼女も無事だ。



 いつの間にか、巨大化したであろう「クトゥグア」さんがいなくなっていた。

 どこに行ったのだろうか。

 何があったんだろうか。


 ふと見下ろすと、床には黒い何かの残骸が散らばっている。

 その残骸の中心には、今にも消えてしまいそうな弱い炎がちらちらしていた。



「はあぁ!『クトゥグア』様がぁ!あぁ…」


 そう言って、「クトゥグア」の使いの人がばたりと倒れ、気を失った。

 他の使いの人も、「薪を持ってこおおおおい!」と叫びつつ、何処かへ走り去っていってしまった。 


〈ク、クトゥグア様がぁぁぁぁ!〉

〈なんてことを!この忌々しい水の悪魔め!〉

〈誰か薪を!クトゥグア様に薪をぉぉぉ!〉

〈クトゥグア様を信仰しろ!蘇らせるんだ!〉

〈イーアッ!クトゥグア!〉

〈イーアッ!クトゥグア!〉


 「祭壇」の周りにいる人たちも、先ほどまでとは明らかに違う様子で慌ただしく何か叫んでいる。

 何があったんだろう。


「クーっ!大丈夫?」

「……は、はい。あの…これは……」

「ふふっ、クーが『クトゥグア』を消しちゃったのっ!」

「………え。」


 消した?僕が「クトゥグア」さんを?

 

 ………。

 

 何か。とんでもないことをしてしまったようだ。 

 

 「触れたら勝ち」と言うのは、「触れたら存在を消してしまう」ということだったのだろうか。

 

 背筋が凍る。

 どうしよう。

 僕は、「クトゥグア」さんを。

 殺してしまったのかもしれない。


「はぁ~、全くもぉ~、こいつも変わらないよねぇ~っ」


 彼女が、残骸の真ん中で燃えている消えそうな炎に向かって。

 手に持ってたハンカチを乱雑に投げつけた。

 ハンカチがその小さな炎をぐらりと揺らし、一瞬消えてしまったかと思うくらい弱まったが。

 そのハンカチに引火し、再びメラメラと燃え始めた。



「……危うく消えてしまう所であったぞ。」

「そっちが仕掛けてくるからじゃん…。」


 

 彼女が、その勢いを取り戻した炎と会話し始めた。


「クーぅ、『クトゥグア』は無事だよっ!安心してっ!」

「……あ。」


 この炎が「クトゥグア」さんなのだろうか。

 無事と聞いて、安心した。

 たたっと僕は、その炎に駆け寄り、腰を低くして話しかける。


「…あ、あの。」

「なんぞ。」

「……さ、先ほどは、すみませんでした…。」

「案ずることはない。勢いに任せて襲いかかってしまった、我輩が悪いのだ…。」

「…お、お怪我とかない、ですか…。」

「怪我も何も、体が木っ端微塵に砕け散ってしもうたわ。」

「あぁ、す、すみません…。」




 何と言葉を続けていいか解らない。

 

 挨拶しに来て、どういうわけか怒らせてしまい、突然襲われた。

 

 そして気づいたら、今の状況になっていて。



 そんな「クトゥグア」さんがただただ惨めで。





 しばらく、僕の彼への謝罪は続いた。

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