ゆったり?
………………………。
…「夢」を見ているのだろうか。
…辺りは一面、氷の海。
…空には、渦巻く雲。
…誰かと誰かが、座りながら喋っている。
…あれは、「僕」だ。
…もう一人は、誰?
…何を話してるんだろう。
…もう一人の誰か。あれは確か―。
…もっと、近くに行きたい―。
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「…。」
僕は、目が覚めた。
いつもの寝室。
薄暗い部屋。
窓の外には、霧。
何かの夢を見ていた気がする。
だが、どんな夢だったかまったく思い出せない。
ついさっきまで見ていたはずなのに。
もう一度寝ればまた同じ夢が見られるだろうか。
そう思ってもう一度ベッドに包まり、就寝しようと試みた。
だが。
目は虚ろなのに、寝れない。
だんだん眠気が覚めてくる。
この様子じゃすぐには寝れないかもしれない。
僕は二度寝を断念し、ベッドから起きた。
何気なく鏡の前に立つ。
起きてすぐ鏡の前に立つのが、いつの間にか日課になっていた。
いつもの、僕。
白い髪の毛。目は左右で色が紺色と水色になっている。
格好もいつものパーカーとスウェット。
そんな僕は、いつも通りボーっと立っている。
部屋を見渡す。彼女はもう起きてベッドにはいなかった。
ベッドの隣にある小さな机の上に、間抜けな形の土の人形が置いてある。
「ツァトゥグァ」こと「つっちー」さんにもらったものだ。「土偶」という物らしい。
これは「クトゥグア」という存在に会うときに必要な物らしい。
「クー?そろそろ起―、なんだ起きてるじゃんっ♪」
「……おはようございます。いーださん。」
「おはよっ♪朝ごはん出来てるから、いつでも来てねっ♪」
そういうと、隣の部屋に行ってしまった。
彼女も、いつも通り元気に振舞ってくれた。
長い金髪を後ろで括り、茶色い瞳がきらきらしている。
薄い橙色のタンクトップに、白のショートパンツ。
そんな彼女の後を追うように、僕は付いていく。
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彼女と、朝食を取っている。
いつも通り、ずっしりとした食事がたくさん並んでいる。
彼女は、小さなパンをちびちびと食べて、それ以外の料理にはあまり手を出していないようだ。
彼女は普段あまり食べないので、これらの料理はほぼ僕専用の一人前と言うことになる。
どうやってこんな大量の料理を作っているのか、疑問に思った。
そしてなぜこれほどの料理を完食できるほど僕は大食いなんだろうか。
まだまだ、自分のことが解らない。
「ねぇ~クー、『クトゥグア』の所、いつ行く~?」
突然彼女が話しかけて来てくれた。
「クトゥグア」という存在に会いに行けと、この間「つっちー」さんに言われた。
なんでも、『アイツ』という存在がごそごそし始めたから、その「クトゥグア」に挨拶しておいた方がいいとのことだ。
無論その『アイツ』と言うのが誰なのかは、僕はまだ解らない。
「……いつ頃行けば、いいんでしょうか。」
「う~ん行こうと思えばいつでもいいけどっ、今日もう行っちゃう?」
「…今日、ですか。」
正直な所、今日この後会いに行く気にはならなかった。
最近なんだか慌ただしかった気がするからだ。
この数日間で色んな事があった。彼女と「デート」に行き、その時に「ハスター」に襲われ、自分の体のことが解り、「つっちー」さんのとこに行き…。
そんな様々なことを体験した僕の体は、若干疲労が溜まってきている。
少しで良いから、気を休めたい。
そんな僕の様子を彼女も察したのか。
「ふふっ、今日はゆっくり休む~?」
「…………はい。」
「うんっ!じゃあ今日はっ、二人でゆったりしよっ♪」
「…はい。」
そう言ってくれた。
彼女はとても察しがいい。
もしかしたら僕の考えてること全部、見透かされているのではないかと思うくらいだ。
そんな彼女がとても心強く、そして愛おしかった。
彼女は、僕の一番大切な存在だ。
これからはあまり迷惑をかけたりせず、彼女を労らないと。
そう心に決め、朝食をもくもくと取り続ける。
まもなく、完食しそうだ。
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彼女と、寝室にいた。
朝食と片づけを終え、二人で別々のベッドで寝転がっている。
隣で彼女は、何かの本を見ている。
この前見かけた本と表紙の絵柄が変わってないことから、同じ本をずっと読んでいるようだ。
気になって、聞いてみた。
「……いーださん。」
「ん~?な~に?」
「…その『本』は、何の本ですか?」
「これ~?ふふ~んっ。見るぅ?」
そう言って彼女はベッドから起き上がり、僕のいる方のベッドへと近づいてくる。
そしていきなり彼女が、ベッドで仰向けに足を延ばしている僕の両足の間に入り込んできた。
そしてそのまま、僕にもたれ掛ってくる。
唐突なことに、動揺を隠せなかった。
僕の胴と、彼女の小さな背中が密着する。
僕の鼻の先では、彼女の柔らかそうな金色の髪の毛が揺れながら、とても甘い匂いがする。
「ふふっ♪これなら一緒に見れるねっ♪」
「……は、はい。」
「えへへ~っ♪」
彼女はほんの少し赤面しながら、その本を僕にも見えるように見せてくれている。
この本は「星」に纏わる事が主に書かれている。
彼女に教えられながら、「惑星」や「恒星」と言う物について星の特徴や詳しい説明が書かれた本だということが解る。
文字の数々を読んでも何が書いてあるのかさっぱりだったが、本に描かれている絵柄で大体どれが何の星なのかは理解できる。
こんな難しい本を彼女は読んでいるのか。
勉強熱心だなと感心するばかりだった。
そんな彼女と、口数も少なく黙々と本を読んでいる。
ふと、すぐ目の前にある彼女の体に目が行く。
薄い橙色のタンクトップから、彼女の肩から胸元までにかけてが露わになっている。
傷一つない綺麗な首筋。「うなじ」というのだったか。
髪を一つに束ねて括っているため、無謀身にも首元が覗いている。
とても艶々していて、柔らかそうな印象を受ける。
そんな彼女の姿に見惚れて。
思わず、僕はその彼女の首筋を。
すうーっと、指でなぞった。
すると。
「――やぁっ!?」
ビクッと、彼女が体を強張らせた。
彼女が一気に顔を真っ赤にして湯気をたたせ、首元を抑えながらくるっとこちらを向いた。
「……………も、もおぉ~っ!!クーぅっ!」
「…えっ、すっすみません。つい…。」
「ううぅ~~っ!!もおぉ~~~~っ!!」
そう叫びつつ、本を置いて僕をぽかぽかと殴ってきた。
どうやら、彼女にとって嫌なことをしてしまったらしい。
「すっすみません、本当に、すみません…。」
「んん~~~~~っ!!!」
彼女は頬をぷくっと膨らませ、こちらを睨んでいる。
どうすれば許して貰えるだろうか。
少し泣きそうになりながら、彼女に許してもらう術を考えた。
だが彼女が。
「んん~~っ!ダメだよっクーっ!許可なしにいきなり女の子に触っちゃ!」
「はい…本当に……すみません………。」
「もおっ!……ふふっ、いいよっ!許してあげるっ♪」
そう言うと彼女がまた前に向き直って、さっきまでと同じ体勢に戻ってしまった。
またすぐ前には、彼女の髪が揺れている。
許してもらえたのだろうか。
「……怒り、ましたか…。」
「ふふっ、もういいよっ♪」
「……ありがとう、ございます。」
許してもらえたらしい。
これからは、いきなり彼女に触ったりしないように気を付けないと。
そう自分の胸に言い聞かせた。
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彼女と二人の時間は流れ、夕食も済み、もう今は就寝時だ。
「じゃあっ、明日は『クトゥグア』の所に行くってことでいいっ?」
「……はい。」
「うんっ!頑張ろうねっ♪」
「………あの。」
「んっ?」
「……その『クトゥグア』さんって、怖いですか…?」
「ん~怖いというよりは…口うるさいというか…。親父くさいというか。まぁ変な奴って感じかな~っ。」
「…変な、奴…。」
「うんっ。でもクーは怖がることないよっ!アイツはクーには弱いのっ!」
「……そう、ですか。」
「何かあったら、私がフォローするからっ!大丈夫っ!」
「……はい。」
そう彼女に後押しされて、緊張も少しほぐれる。
何事もなく、その「クトゥグア」さんと話せればいいが。
僕はどうなってもいい。でも、彼女が痛い目に会うのだけは見たくない。
たとえ襲われたとしても。
必ず僕が、彼女の盾になる。
そう心に誓い。
僕は、ベッドに包まった。




