バイバイ?
「はぁ…とんだ目にあったぜ。」
「つっちーが悪いっ。」
「だからあれはっ!もともと破れていた袋が――」
「つ っ ち ー が 悪 い っ。」
「………わぁったよ!俺が悪かったよぉ!!」
「よろしいっ♪」
ゴミ袋を捨てに「焼却炉」に行き、今はつっちーさんの部屋に戻る途中だ。
つっちーさんの持っていた袋から盛大に飛び散ったゴミは、つっちーさん自身がすべて拾い、無事捨てることができた。
僕もゴミ拾いを手伝おうとしたが、いーださんに「クーはだ~めっ♪」と止められてしまい、何もできなかった。
「さぁっ、袋はまだまだあるんだからっ!駆け足駆け足っ!つっちーは全速力ねっ♪」
「なんでだよっ!!」
そんなやり取りも兼ね、掃除は再開される。
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「………………。」
深い青色の、湖のほとり。
模様の入った袖なしパーカーの黒いフードを被り、黄色とも橙色とも取れるサルエルパンツ。腕に歪な「刺青」の入った、男の子。
右目は緑、左目は黄緑。
そんな彼「ハスター」は、ちょっとした高台の上で不機嫌そうな顔をしながら風に当たっていた。
あぐらをかいて座り込み、憂鬱そうに何かを考えている。
ヒューードオォォォォン!
と、大きな音と共に、その「ハスター」の近くに、羽を生やした体格「3m」はあるであろう橙色の化け物が飛来してきた。
化け物のギョロリとした赤い目が、彼を見据える。
「イア、ハスター、ジョウホウ、モッテキタ」
またうるさいのが来たと言わんばかりに、顔をしかめる。
「…ボクは今気が立ってるんだ。つまらない情報なら殺すよ。」
「クト、デテキタ、ツァトゥグァト、アッテル」
「ふ~ん殺されたいのか。よし、『そこへ直れ』。」
「…ヴヴッ」
彼がそう「命令」すると、化け物はピンッと体を強張らせ、硬直する。
「…キニ、クワナカッタカ」
「知ってるんだよそれくらい。バカか。」
「…ナゼ、イカナイ、クトコロス、チガウカ」
「………………しばらくは行かない。『準備』が必要だ。」
「…ジュンビ」
少し考え、再び口を開く。
「………そうだねぇ~。そろそろ『ヒト』の造ってる『兵器』でも試してみようか。」
「…カガク、ヘイキ」
「うん。『正気』を失わせるようなやつ。なるべく強力なのがいいな。」
「…ヒトニ、タヨルノカ」
「頼るんじゃない。…身をもって味あわせてやるんだ。『ヒト』の『発展』とやらをね。」
「…ソノ、ヘイキ、オデ、トッテクルカ」
「お前以外に誰が取りに行くんだよ愚図。」
指でふうっと、何かを払いのける動作の後、化け物の硬直が解けた。
「ワカッタ、イア、ハスター、イッテクル」
化け物がそういうと、ドオオオォォォォォンと言う音と共に、一瞬で消えてしまた。
「もっと静かに飛べよ。…まぁいいや。」
ボソッとそう呟くと、仰向けにごろんと寝転がった。
「…はぁ~。」
もう何度、こんな気持ちになっただろうか。
あと何度、こんな気持ちにならなければいけないのか。
いつになれば。
あと何度挑めば。
彼、「クト」を「解放」してやれるのか。
「…まったく。世話の焼ける奴だよ。」
そう、物寂しげに呟く。
自分の上へと、手を掲げ。
「今に見ていろ。クト。………必ず、『使命』は果たすよ。」
何も無い虚空を、ぎゅっと握り潰した。
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つっちーさんの部屋の片づけは、ほぼ大詰めに近い状態になっていた。
ゴミ袋はすべて「焼却炉」へと運び終わり、今は部屋の荷物の整理をしているところだ。
その途中で、僕はつっちーさんに誘われ少しばかり遊んでいる。
「じゃ~ん!『うめぼし弁当』~!どやっ!」
「…凄いです。」
彼の持っている「ルービックキューブ」と言う四角い物の一面に、真ん中は赤、その周りは白という面が完成している。
よくは解らないが、揃えるのが難しい物なのだろうと僕は感心している。
「遊ばないっ!」
ガンッ
「いってええええっ!」
突然いーださんがその四角い物を取り上げ、そのままそれでつっちーさんの頭を殴った。
「何なんだよお前はさっきからぁ!!こちとら『土』の王様ぞっ!?その俺にこんなあつ――」
「何だとはなんだぁ゛ぁ゛ぁ゛!!自分の彼女をそばに置きながら『ヒト』の作った『コンビニ』の物しか食べず部屋は散らかし放題でしかも自分からはあまり掃除せず周りに頼りっぱなしでそのうえサボって遊んでいるような王様をぞんざいに扱って何が問題なんじゃゴルアアアアアアアアッ!!!」
「……うっ、くっ…うわああああああああああああっ!」
いーださんの怒りが目の前で爆発した。
その普段見ない彼女の姿に僕もちょっとびっくりした。
彼女の言葉の数々に言い返せなかったつっちーさんがばたりと床にうなだれ、わんわんと泣き始めた。
「ほらっ、クーもこんな奴といないでっ♪片づけ早く終わらせちゃおっ♪」
「…は、はい。」
先ほどまでの勢いを微塵も感じさせない彼女に言われるがままに、片づけに戻ることにした。
うなだれたままのつっちーさんを少し可哀想に思いつつ。
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部屋を片付けてるうちに色々な「未知の物」を発見し、それらに興味が湧く。
黒塗りの小さくて艶々した箱や、それとはまた違う小さな白い箱。
それと繋がっている、それらの倍の大きさはあるであろう黒い板。
「○△□✕」「R1L1」と書かれた粒や、十字型に揃う粒が埋め込まれた何かの端末。
それらが置かれた周囲にある、虹色の丸い姿の何か。
他にも、可愛らしい「ヒト」が彫られた置物や、茶色いもこもこの腑抜けた笑顔が描かれた柔らかい塊など。
どれも名前は解らなかったが、それらを理解できたらきっと楽しいだろう事が解る。
そんな賑やかな部屋が、少し羨ましい。
「なんか持ってくか?貸してやるぜ?」
「…え?」
いつからか、元気の戻ったつっちーさんが僕に話しかけてきた。
「どうせ帰っても暇だろ?いい暇つぶしになると思うぜ。」
「………でも、気が引けます。」
「なんなら今度一緒に買いに行くか?いいとこ教えてやるよ。」
「……。」
本来の目的を忘れていたが、僕はつっちーさんに聞かなければいけないことがある。
それを、今聞く。
「…つっちーさん。」
「ん?」
「……僕は今後、どうするべきなんでしょうか。」
「…どうって?」
「怖いんです。自分も。外も。怖くて…どうしたら……何したらいいか…。」
体が震える。
今一番僕が考えている、今後のこと。
僕は、「ハスター」に狙われている。
迂闊に外に出るのも困難だろう。
「ハスター」だけでなく、僕はいつかまた別の何かに襲われるかもしれない。
どうしていたらいいんだろう。
何をすればいいんだろう。
どんどん不安が募り、震える僕の肩に。
つっちーさんがぽんっと、手を置いてくれる。
「安心しろよ。一人じゃねぇだろ?お前は。」
「……。」
「一人じゃ誰だって怖いさ。だから引き籠っちまったり、逃げたくなるんだ。俺みたいになっ?」
軽く「へへっ」と鼻に手を当てた。
「けどお前は一人じゃない。これからもしなんかあったらすぐ俺が駆けつけてやるよ。イーダーも側にいることだしな。―それでも不安で仕方ないなら、俺のところに来な。一緒にゲームでもして遊ぼうぜっ?」
「……。」
「変な考えは起こさなくたっていい。お前が思うほど外は怖くないさ。『ハスター』が怖いなら、一回俺が奴をぎゃふんと言わせてやるよ。少なくとも俺はお前の味方だし、お前を守れるくらいの力はあるからな。」
「……っ。」
「お前は何も解らないんだ。解らないから怖くて当り前さ。だから解らないなりに、周りに守られてればいい。守ってくれる奴がいるから。そのうちに怖さなんてなくなるさ。お前は強いからなっ!」
涙が出てくる。
どうしてかは解らない。
でも、解らなくていい。
つっちーさんの言葉が、不安を大幅に緩和させてくれた気がするから。
「まったく!可愛い奴めっ!」
「……すんっ、うぅぅ…」
頭をわしゃわしゃとかき回された。
ぼさぼさの髪になった僕はそんなつっちーさんに、声にならないお礼を言いつつ、礼をする。
そんな様子を、いーださんとしゃーたんさんが優しく微笑みながら見てくれていた。
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綺麗に片付いたつっちーさんの部屋を後にし、いーださんと一緒に帰途に付こうとしている。
今は彼女がいつの間にか作り出していた「泉」の近くに立っている。その「泉」から帰るのだそうだ。
「じゃあな。クト。イーダー。」
「また何時でもおいでくださいませ。歓迎いたします。」
「つっちー、解ってるよね…?」
「わぁってるよっ!もう散らかさねぇよ!」
「とか言ってすぐ散らかしそうだなぁ~。しゃーたん、監視よろしくっ!」
「…ふふふ。はい。」
そんな僕たちを、つっちーさんとしゃーたんさんが迎えてくれている。
僕の手には、つっちーさんからもらった「ゲーム」と、それを「充電する」物が握られている。僕に貸してくれるのだそうだ。
これからはこの「ゲーム」ができるかと思うと、ちょっとわくわくする。
「そうだクト。これ。」
つっちーさんが右手をかざすと、そこから何かがボワッと生成される。
それは何か、間抜けな形をした土の塊に姿を留めた。
「……これは。」
「それ持って『クトゥグア』の所に行け。面白い話が聞けるかもだぜっ?」
「うえっ!?あいつのとこ行くのっ!?」
「会っといた方がいいと思うぜぇ~?なんせ最近『アイツ』がごそごそし始めたからな。」
「えっ…ホント?…。」
隣でいーださんが『アイツ』と聞いた瞬間、驚いたような顔をした。
「な?会っといた方がいいだろ?あわよくば味方にできるかもしれないしな。大丈夫だ。『クトゥグア』相手なら、お前らの敵じゃないさ。」
「まぁ、そうかもしれないけど……わかった。」
会話に付いていけず、割り込む余地もなかったが。
今度はその『クトゥグア』という存在に会うのが目的らしい。
その差し出された土の塊をいーださんが受け取った。
「よしっ、帰ろっか♪クーぅ!」
「…はい。…つっちーさん、しゃーたんさん。ありがとうございました。」
「おう!またいつでも来い!」
「お待ちしております。」
「それじゃね~!バイバ~イ♪」
そうして、彼女と腕を組みながら。
「泉」の中へと僕たちは入っていった。




