ゴミ袋?
「うわあああああっ!それは捨てないでくれええええっ!」
「やだっ。却下っ。」
「あああぁ頼むっ!いつか使うかもしれないだろぉ!?な!返し――」
「今まで使わなかったならこれからも使わねぇんだよあ゛あ゛!?」
「ひぃっ!な、何でそんな怒ってんだよぉ!?」
いーださんと、泣きそうな顔で嘆くつっちーさんとの会話。
そんな会話を耳にしながら。
僕は今、その彼「つっちー」さんの部屋の掃除をしている。
「シャタク」と名乗った女性こと「しゃーたん」さんが持ってきてくれた掃除用具で、辺りのごみを大きな袋に詰め込んでいる。
相変わらず、ゴミの散らかるこの部屋には異臭が立ち込めている。
とても臭い。
何かが腐っているような腐敗臭が特に鼻を刺激してくる。
長く居ていい場所には思えない。
そんな部屋の中を大股で移動しながら、無心でゴミの塊を袋に詰め込んでいく。
ゴミの数々は、どれも初めて見る物ばかりなので興味が湧く。捨てるのが勿体なく、一つ一つもっとじっくり見て見たい。
そんな衝動を抑えて、今は作業に没頭する。
後で、たくさん質問しよう。
今は、つっちーさんが寝ていたであろう就寝場所の周囲、白い紙包みの塊たちに手を伸ばそうとしている。
「あークト。その辺は~その……お、俺がやるからっ。な?」
「……あ、はい。」
僕を「クト」と呼ぶ彼に、どこか焦った表情で抑制されてしまった。
どうしてだろう。触っちゃいけない物だったのだろうか。
不思議に思いながら仕方なく別の場所へ移動すると、すぐ近くに彼女、いーださんがいた。
彼女はせっせと手を動かし、ぶつぶつと何か言っている。
機嫌が悪いのだろうか、表情は怖い。
いつもとは様子が違う彼女が少し心配になり、近寄った。
「…大丈夫ですか。」
「おっ、クーぅ~ごめんねこんな事させちゃってっ。」
「…いえ。」
「はぁ~つっちーの奴、クーの親友として恥ずかしくないのかねぇもぉ~っ」
そうぼやきつつ彼女が、目の前の大きな紙の板をガラッと持ち上げると。
その下に、真っ黒でぶよぶよした物が蠢いていた。
「―――――や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!」
彼女は手に持ってたものを放り投げ、驚いてか僕に飛びついてきた。
その彼女をなんとか受け止めることに成功する。
「ちょっとつっちーっ!部屋でなんて化け物飼ってんのよっ!」
「飼ってるわけじゃねーしっ!いるだけだしっ!」
「あ~もうっ!気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いぃ~~!早くこれを追い出してよっ!」
「ほっといたらそのうち勝手に消えるわっ!」
そんな二人のやり取りを遠くから、しゃーたんさんが「クスクスッ」と笑いながら見ていた。
どこか、寂しそうにも見えた。
目の前にいたぶよぶよと蠢く何かは、その内床に染み込み。
いつの間にかいなくなっていた。
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その後も掃除は続く。
ようやく、ちらちらと床が覗き始めた。
掃除している間に、このゴミの数々がどこからやってきた物なのかが解った。
これらは「ヒト」が営んでいるという「コンビニ」という名前の場所から仕入れてきた物らしい。生活に最低限必要な物はすべてその「コンビニ」で揃えられるという、とても便利な場所なのだそうだ。
ぜひ一度足を運んでみたい。僕はそう思った。
そんな話を、涙片手にしゃーたんさんが訴えてくれた。
「ツァトゥグァ様がその、「ヒト」の造った「コンビニ」に毒されて以降、この様な変わり果てたお姿に……。その様子を私は只見守ることしか出来ず……。私は…私は…………。」
「つっちー、ほんっと最っ低!最っっっ低!!!」
「いやだって仕方がないだろっ!俺だって色い―――」
「言い訳無用じゃゴルアアアアアァ!!」
「ひぃぃ!だからなんでお前はそんな怒ってんだよっ!?」
そんな賑やかな掃除が続く。
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部屋のゴミは大方、ゴミ袋へと入れることができた。
パンパンに詰め込まれたゴミ袋が大量に量産される。
その後、いーださんにより役割分担がされることになった。
僕とつっちーさんがゴミ袋の運搬。
いーださんとしゃーたんさんが部屋の清掃といった感じだ。
そして今、つっちーさんとゴミ袋を両手に「焼却炉」と言う場所に、並行して向かっている。そこにこのゴミ袋を投げ入れて処理するのだとか。
つっちーさんは器用にも、片手に3袋ずつゴミ袋を携えている。
力持ちだなと思った。
「…クト。」
唐突につっちーさんが話しかけて来てくれた。
「最近どうよ。」
「……あ、その…。」
「何か嫌な事とか無かったか。」
そう聞かれて、やはりあの一件が脳裏に浮かぶ。
「………『ハスター』さんに会いました。」
「襲われたか?」
「……はい。」
「…ふんっ。奴も懲りないな。『使命』だから仕方ないんだろうけど。」
「……『使命』?」
「そのうち解るだろう。奴がお前を襲ってきた理由。」
「……。」
「戦ったんだろ?怪我とか無かったか。」
「……僕は平気でした。でも、いーださんが……。」
「…あれだけピンピンしてるなら心配する必要は無いな。よかったよかった。」
「……はい。」
そんな話が続く。
つっちーさんのしっかりとした口調が僕を安心させる。
とても話しやすく、信頼できる存在だと思えた。
つっちーさんなら、僕の解らないことをすべて教えてくれそうな、そんな気がした。
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「はぁ~もぉ汚いなぁ~、ホントつっちーって変わらないね~っ」
「…申し訳ありません。お手を煩わせてしまって…。」
「いやいやっ、言い出したのは私だよっ♪それに結構掃除するの好きだしっ!」
「……感謝いたします。」
少しの間が空き、シャタクが口を開く。
「……今、『何日目』でしょうか?」
「………今日が、『6日目』かなっ。」
「そうですか…。」
「…うん。」
「『今回』は何か、変化が起きるといいですね…。」
「………別に、何も変わらなくたってい~のっ。」
「…どうしてでしょうか?」
「だって、いつまでもクーを大好きでいられる自信があるからっ♪」
「イーダー様…。」
「ふふっ♪私のクーへの愛は世界一だよっ!」
「…影ながら応援させていただきます。」
「ありがとっ♪しゃーたんも頑張れっ!」
「…はい。ありがとうございます。」
「…いつまでもクーが好き。何年、経ってもね…。」
「……イーダー様…。」
「…もぉ~あの二人遅いなぁ~。しゃーたんごめんねっ私もゴミ袋の運搬するよっ!」
「…かしこまりました。こちらはお任せ下さい。」
「うんっ♪ごめんねっ!」
イーダーはゴミ袋を携え、焼却炉へと向かう。
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つっちーさんと並行して歩いた後、建物の外にある「焼却炉」であろう場所が見えてきた。
大きく口を開けた石製の囲いの中で、「火」が煮え滾っている。
そこに向かって歩いて行こうとすると。
つっちーさんに肩を掴まれ、動きを抑制された。
「チッチッチ。解ってないなクト。楽しめる時に楽しむのが、大人のやり方ってやつだぜ?」
「…え。」
「いいか?見てろよ~?」
そう言うと、携えていたゴミ袋の一つを背負い込み。
「うおおおおおおおおおおっ!!!」
思いっきり放り投げた。
放り投げたゴミ袋は吸い込まれるように、みごとに「焼却炉」の中へと入っていった。
「へへっ!見たかっ!俺のコントロール裁きっ!」
「…凄いです。」
「どんなもんよっ!よしっ、次はクトやってみ?」
「……僕が、ですか。」
「おうよっ!」
あんなことができるのだろうか。
ここから「焼却炉」まではかなりの距離がある。あんな風に放り投げても、届く自信がない。
「…。」
見よう見まねでゴミ袋を背負い込み。
「……えいっ!」
放り投げた。
放り投げたゴミ袋は、5歩くらい歩けば届きそうな距離にぽてんと落ちた。
「おいおい腰が入ってねぇな~!いいか見てろよっ!こうやってっ!」
つっちーさんが再びゴミ袋を携え、先ほどと同じ構えに入る。
「はあああああああっ!」
と彼が放り投げるや否や。
その袋が投げ放たれる前に破れて。
中身のゴミが、辺りに大きく散らばった。
「あ、やべ。」
「へぇ~~~その『下らない』遊び、ぜひ私にも教えてほし~な~っ♪」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
いつから立っていたのだろう。すぐ後ろにゴミ袋を持ったいーださんが立っていた。
とても怖い顔をして。
「…………げ。」
ダッッ!
ダッッ!!!
つっちーさんといーださんが、ほぼ同時に駆けだした。
「わああああああっ!わかったっ!拾うっ!拾うからあああああっ!」
「だ~~れのために掃除してやってると思ってんだゴルアアアアアアアアアッ!」
そんな凄い速さ逃げるつっちーさんと。
凄い速さで追いかけるいーださんを。
僕は一人、呆然と見ていた。




