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記憶を失くした旧支配者  作者: 南瓜
6日目
16/45

ツァトゥグァ?

 いつも通り、朝を迎えた。



「…。」


 ボーっと、天井を見つめている。



 今日は「つっちー」さんと言う、僕と同じ、何かを操る力を持つ存在に会いに行く予定だ。


 どんな力を操るんだろう。


 少し不安になる。



 隣にあるベッドではまだ、彼女がすやすやと眠っている。



 もし何かあったとしても。

 彼女だけは絶対に守らないと。

 

 この前のような目に合わせるわけにはいかない。



 そう決意し、ベッドから体を起こした。


_________________



 彼女と朝食を済ませ、出発の準備をする。



 いつも着ている、灰色のパーカーとスウェットに着替えた。

 この恰好が一番動きやすい。

 何かあっても、すぐに体を動かせるだろう。


「準備できたぁ~?」

「…はい。」

「よっし!行こっか♪」


 そう彼女とやり取りし、廊下に出て、この間使った「泉」へ移動する。

 あの「泉」から、「つっちー」さんの住む場所へ移動するらしい。

 どことでも繋がっているのだろうか。あれは。




 しばらく廊下を歩き、彼女の纏っている姿を見る。


 白いシュシュで、金髪の後ろ髪を二つに分け束ねている。

 服は、白いブラウスに黄緑色のカーディガン。

 短いデニムパンツと、黒いニーソックス。


 彼女はたまに、こんな可愛らしい格好をする。

 もっと、色んな姿の彼女が見て見たいと思った。


「…いーださん。」

「お?忘れ物~っ?」

「…いえ。いーださん、かわいいです。」

「……………………!」


 突然彼女が早歩きになり、僕をどんどん引き離していく。


「もおっ!先に行っちゃうもんね~だっ!」

「…え。」


 顔を真っ赤にし、今度は小走りになって行ってしまった。


 怒らせてしまったのだろうか。


 そんなつもりはなかったのだが。



 申し訳ない気持ちになりながら、彼女の後を追う。


__________________



 そして。




「ここだよっ、クー。」

「……。」


 今、巨大な重々しい扉の前にいる。


 押しただけではビクともしなさそうな、鉄製の扉。

 そんな扉を、呆然と見上げている。

 ここが、「つっちー」さんの住む場所らしい。


 辺りは薄暗く、空は灰色の雲に包まれている。



「心の準備はいいっ?」

「…はい。」


 そう言うと彼女は、扉の横にぶら下がる大きな鐘を鳴らし始める。



 ゴーーンッ


 ゴーーンッ



 大きく鳴り響く、鐘の音が。

 辺りで何度もこだまする。



 間もなくして、重々しい扉が、ゴオォォォと音を立てて開く。


 その扉から、恐る恐る何かが覗いてくる。



「やっほ~っ!『しゃーたん』っ!お久~っ♪」


 彼女が明るく、その扉の存在に話しかける。


「まぁ!イーダー様に、クトゥルフ様。ようこそいらっしゃいました。」

 安心したかのように、それは扉から姿を露わにする。



 銀色の長髪に、焦げ茶色の瞳。

 頭からぴょんと二つの跳ね毛が生えている。

 服は、地面まで伸びる豪華な銀色のドレス。

 体つきがよく、胸も大きい。

 おっとりとした、とても大人っぽい雰囲気の女性だ。


「歓迎いたしますわ。どうぞ中へ。私『シャタク』がご案内させて頂きます。」

「うんっ、いこっ!クーぅ!」

「…はい。」



 彼女から「しゃーたん」と呼ばれた女性は、ドレスを引きずりながらゆっくりと歩き、丁寧な口調で僕たちをどこかへ案内する。



 建物の中は、どこか神殿のような雰囲気だ。



 大理石の柱が何本もそびえ立ち、見通しが良い。

 周りには養子だろうか、同じような服を来た「ヒト」が数人見受けられる。

 建物は奥へ奥へと続いており、上からは豪華なシャンデリアが点々とぶら下がっている。

 天井はとても高く、全体に何かの絵が描かれており、神秘的な印象を受ける。

 そんな建物の中は、建物の外の薄暗さに対比して、とても明るい。


「珍しいね~っこんなに「灯り」を灯してるなんてっ。前来た時はほぼ真っ暗だったよ~。」

「…ツァトゥグァ様が、『暗くて俺がつまづいちまうからもう点けとけ』と申されたので。」

「相変わらず適当なっ…苦労してないっ?」

「…………はい。」



 そんな、いーださんとしゃーたんさんの会話。



 その中に、「ツァトゥグァ」と言う聞きなれない名前が出てきた。

 誰だろう。ここの主は「つっちー」と呼ばれる者だと思っていたが。

 それとも、僕が「つっちー」と認識していたその存在が、「ツァトゥグァ」と言うのだろうか。



 そんなことを考えていると、一つの扉の前で僕たちは立ち止まる。


「ここが『ツァトゥグァ』様のお部屋になります。只今お呼びしますので少々お待ちください。」



「なんかっ、嫌な予感がする…。」

「…えっ。」

 

 彼女が顔をしかめてそう言った。

 その言葉の意図が理解できず。


 しゃーたんさんがその扉を手前に引くと。



__________________







 ガラガラガラッ


「…?」


 音を立てて、何かが扉の外へ転がり出てくる。

 そのうちの一つが、僕の足元まで転がってきた。


「…。」


 気になってそれを拾い上げる。



 これはなんだろう。何かの容器のような。

 その容器に、透明の筒が刺さっている。

 軽く容器を握り潰した感じ、「紙」のような感じがした。

 容器には、見たことないカラフルな文字が刻まれている。



「…………前よりひどくなってる。」


 いーださんが隣で、呆れた顔でそう呟いた。


 しゃーたんさんが困った顔で笑顔を作っている。

 そして、転がってきた容器の数々を蹴り分け、部屋の中に向かって軽く頭を下げながら呼びかける。


 僕もこっそり、扉の中の様子を覗き込む。



「ツァトゥグァ様。失礼いたします。クトゥルフ様とイーダー様がお見えになっております。」


 そう、部屋の中に呼びかける。


 異様な様子の、異臭のする部屋の中へ向かって。




 暗くも広い部屋の中は、一見「ゴミ」のように見える何かで一面埋め尽くされている。


 先ほど手に持った容器と同じような物が山積みになり、所どこに紙包み、透明な小さい袋、食器(?)、本、衣類。他にも見たことのない物が、部屋中に散らばっている。


 そんな部屋の真ん中の、「光る薄い板」の前に何者かがいるのがわかった。

 それはうつぶせに寝そべりながら、その「光る薄い板」を見ている。


 両耳に何かつけているからか、しゃーたんさんの声に気付いてないようだ。



「失礼いたしますっ。ツァトゥグァ様っ。」


 しゃーたんさんは少し顔をしかめて声を張り、もう一度呼びかけている。


 声に気付いたのか、両耳に付ける何かを外し、その何者かがこちらに顔を向けた。


 そして。



「おう、クト。おっす。」



 そう、僕を見て話しかけてきた。


__________________


 短い茶髪をツンと上へ尖らせた、褐色の肌。

 山吹色の右目に、黄色い左目。

 「極毛」と書かれた黒いTシャツに、迷彩柄のステテコ。

 体はほっそりとしているが、お腹はほんの少しぽっこりしているように見える。



「……………………つっちー。なに、コレ。」


 扉を完全に開き切り。

 いーださんが顔に影を宿し、部屋の中に呼びかける。


 やはり「つっちー=ツァトゥグァ」だったのかと僕はようやく理解できた。

 ということは部屋にいる彼が、僕と同じ何かを操れる力のある存在だ。



 部屋の中の彼が、いーださんの呼びかけにピクッと反応する。


「げ、イーダーもいるのかよっ。い…いやぁな、その~、ほら。精神的な面でな。色々あってだな……。」



 何処かのんびりとした雰囲気の彼「ツァトゥグァ」は、いーださんを見て冷汗をかきながら、何か誤魔化すように状況を説明している。


 そんな彼を見たいーださんが、プルプルと震え始め。


「ほらっ!だっ誰にだってあるだろ?部屋が汚くなる時期がさ!それが今なんだって!だから――」







「オンドリャアアアあああああああああああああああ!?!?」



 声を出したのは、いーださんだ。


 彼女の物とは思えない図太い声で、部屋のゴミを巻き上げながら、彼に突進していく。


「ひぃ!―」



 そして彼女の一蹴りが。



 彼と「光る薄い板」を部屋の奥まで吹き飛ばした。



 ガシャーーンと、何かが壊れる音と共に。

 飛ばされた彼はピクピクと痙攣しながら動かなくなる。




「………………クー、しゃーたん。」



 いーださんがこちらに向き直る。



 しゃーたんさんはそんな彼女を、何故か「救世主」を見るかのような尊敬の目で見つめている。


 そして。



「掃除するぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」



 と、怒号を上げた。



 しゃーたんさんが隣で「おー」と握りこぶしを小さく掲げた。


 僕もそれを真似して「おー」と拳を上げる。




 僕はここに何をしに来たんだったか。



 本来の目的を見失いつつ。






 ツァトゥグァこと、つっちーさんの部屋の大掃除が始まった。




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