表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶を失くした旧支配者  作者: 南瓜
5日目
15/45

正気度?

 彼女に、元気が戻った。



 先ほどまでは、ずっと俯きながら涙をぽろぽろと流し、頑なに自傷していた。


 そんな彼女はもう既にいなくなり、明るい声で僕と会話してくれている。





 会話の内容は、主に「ハスター」の愚痴だった。



「もうっ!『ハスター』さえいなければ楽しくデートできたはずなのに~っ!」

「…はい。」

「ほんっと迷惑しちゃう!今度会ったら殴り飛ばしてやるぅ!」

「…です。」

「あいつがいたらまともにお外も行けないよっ!ねぇクー!」

「……あの。」

「お?」


 気になって、聞くことにした。


「…僕の『あれ』って、何だったんでしょうか。」

「………。」



 彼、「ハスター」と対峙した時に僕に起こった、謎の変貌。

 白いごつごつとした腕に、巨大な黒い鉤爪。

 あれは間違いなく僕から「生えていた」物だ。

 あれは一体、なんだったのか。


「…あれも、クーだよ?」

「…。」

「あれはクーの……そうだなぁ…『本気モード』みたいな感じかなっ」

「…本気、モード。」

「うんっ!ああなったクーはっ、ほんっとに凄いんだよっ!なんでもできちゃうのっ!」

「…はぁ。」



 そんな風に明るく振舞って、何かを「ごまかす」ようにも聞こえたが。

 そう説明してくれた。

 そうして僕の「あれ」の説明を、その後も彼女は続けてくれた。



 彼女の話をまとめると。

 「あれ」になった僕は普段よりもより多くの「水」たちを従えることができ、やろうと思えば「この世の全て」を「水」で包み込むこともできないくはないそうだ。

 他にも、「水」を吸収して巨大化したり、「水」に溶けて姿を消すこともできるのだとか。


 そしてその「本気モード」の僕が現れる条件は、僕自身の「正気度」という物が著しく低下した時らしい。

 「正気度」が著しく低下すると、「それ」が僕の奥深くから現れ、僕のこの「ヒト」の姿を借りて出てくるのだそう。

 ただ「それ」を表に出すかどうかは、僕の意思次第らしい。


 そう言われて、自然と納得できた。

 確かに僕は、あの時。

 彼女の痛々しく変わり果てた姿を見て、頭が真っ白になった。

 背筋が凍り付き何も感じなくなって、奥深くから浮上してくる「それ」に身を委ねた。

 きっとあの感覚が「正気度」が下がった状態だったのだろう。



 彼女はそれらを、自慢げに教えてくれた。


「…なるほど。」

「わかった~?」

「……はい。ありがとうございます。」

「ふふっ♪」

「…あと。」

「お?なに?」

「…………あの「姿」、怖かったですか。」

「ううんっ!全っ然!」

「……そうですか。…よかったです。」


 僕はあの「姿」が怖かった。

 あれが「僕」だとは到底思いたくない。

 できればもう、表には出したくない。


 取り返しのつかないことをしてしまいそうな気がして。



__________________



「………あ~あ。」



 風通しのいい、洞窟の中。

 生活に最低限必要な物が揃えられてる、ちょっとした広間。

 火を灯した松明がいくつか壁に付いている、そんな場所に。


 男の子の姿をした、黒いフードを被っている彼「ハスター」がいた。



 機嫌が悪そうに天井を見上げて、ぶつぶつと独り言を垂らしている。


「……悔しいなあ。これで何度目だっけ。負けちゃうの。」




「―――52回目。」


 消えてしまいそうなほどか細い声が、彼の独り言に答える。



「…うるさいな黙れよ死ねよ。」

「……ひどい。」

「ふんっ聞いてないのに答えるからだよ。」

「……聞かれたと思ったから、答えた。」

「はいはい。」


 いきなり罵倒されてしょんぼりとするその存在は、気をつかってか、「ハスター」よりちょっと離れた場所にちょこんと座る。


 青紫色のショートヘアに、虚ろな灰色の目。

 頭のてっぺんから、ぴょんと毛がはねている。

 薄紫色のワンピースのような服を纏って、優しく彼を見つめている。


「……怪我、してない?」

「してるように見える?」

「……見えない。」

「じゃあ聞くな。」

「……ごめん。」

「シューはいつもそうだ。もう少し頭を使ってから発言するといいよ。」

「……辛辣、つらい。」

「いつものことだろ。」


 シューと呼ばれたその少女は、泣きそうな顔になりながら俯いた。


「……優しさ、欲しい。」

「他を当たることだね。」

「……う、うぅぅ」

「……。」

「……ぐすっ、うぅぅ」

「はぁ~。……『そよめけ』」


 面倒くさそうに彼がそう言うと。

 少女に向けて、撫でるような優しい風が少女の髪を揺らす。

 その優しい風に、少女は表情が和らぐ。


「これでいいかい。」

「……うん。」

「…はぁ、ちょっと外行ってくる。」

「……いってらっしゃい。」


 彼はふわりと浮きあがり、洞窟のどこかへと消えていく。

 そんな彼を、少女は優しい、虚ろな目で見送る。


「……この風、好き。」


 まだ微かに残る優しい風を。

 少女は噛みしめるように堪能していた。



__________________



「じゃ~んっ!今日のは自信作ばかりだよっ♪」

「…おぉ。」



 彼女と今から、夕食を取ろうとしている。


 シャンデリアが光を灯し、明るくなっている、大部屋。

 いつも通り、とても豪勢な大量の料理が目の前の長い黒机に並んでいる。

 「自新作」だというそれらの料理は、いつもより力が入っているように思えた。

 量も、いつもよりたくさん盛られているように見える。


「…いただきます。」

「いただきま~すっ!」



 そして、空腹を訴える自分のお腹に、それらを放り込んでいく。

 言うまでもなく、おいしい。


「どうっ?美味しいっ?」

「はい。とても。」

「ふふっ♪たくさん食べてねっ♪」



 彼女が喜ぶ姿は、いつみても明るい。

 ずっと見ていても、きっと飽きないだろう。

 愛おしいそんな彼女に、しばらく見惚れる。


「…どったの?」

「……いえ、なんでも。」

「え~~なにぃ?気になるぅ~!」



 彼女と過ごすこの食事時は。



 いつも、楽しい。



_________________



 夕食を終えて、今は寝室にいる。


 彼女は隣のベッドで、足をパタパタと動かしながら、何かの本を読んでいる。



 僕もベッドに寝そべりながら、ふと「ハスター」のことを考える。



 彼は「風」を自在に操ることができた。

 周りの「風」に命令し、竜巻を発生させたりしてきた。

 そして僕は、「水」を自在に操れる。



 他にも、そんな何かを自在に操れる存在はいるのだろうか。


 疑問に思って、彼女に問いかける。


「…いーださん。」

「ん~?」

「…ハスターさんは、『風』を操れるんですよね。」

「うんっ、だね~。」

「…じゃあ他にも、何かを操れるような、そんな方は、いるんですか。」

「うんっ、いるよ~。」


 やはりいるらしい。

 そしてさらに、気になった。


「その他の方達も……僕のこと、嫌いなんでしょうか…。」

「……え?」


 そう、不安げに聞いた。


 『街』に出た時に襲ってきた、「ハスター」。

 あれだけの力を持った存在が、他にもいて。

 それらが僕を狙って襲ってくるのであれば。


 それなりの、覚悟はしておかないといけない。


「ん~、『つっちー』は仲良くしてくれるよ~?」

「……『つっちー』?」



 つっちー。


 名前だろうか。

 そんな聞きなれない名前の存在に興味が湧いた。

 仲良くしてくれる。そう聞いて。


「その『つっち-』さんに、会うことって出来ますか。」

「…会うの~?」

「……ダメ、ですか。」

「ううんっ、あいつなら会ってくれるよっ!」

「…会いたいです。」

「おっけー!じゃあ、明日会いに行こっかっ♪」

「…はい。」


 明日か。

 少し急な気がするが、早く会えるのならそれでいい。



 自分と同じような、何かを操れる力がある存在と話がしたい。



 話せれば、何か解る気がする。








 僕の、これからのことについて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ