表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶を失くした旧支配者  作者: 南瓜
5日目
14/45

大好き?

――――――暗い一室。


 暗く、広い部屋には、異臭が満ちている。


 ひどく散らかっており、床が見えないくらい、何かで埋め尽くされている。


 そんな部屋の真ん中でうつぶせに寝そべる、その存在。


 Tシャツとステテコを身にまとう、その男。



「…。」


 寝そべりながら、正面にある「パソコン」を眺めている。


 左手の甲に顎を置き、ヘッドホンを両耳に付け、右手のマウスでカチカチとパソコンを操っている。


「…?」


 ふと目に入った、ニュース記事を見る。

 その記事の要所要所だけ目に通す。





〈天災か人災か?死者、推定300万人以上〉


〈●阪市天●寺区を中心とする、推定30km圏内に及ぶ怪奇現象〉


〈原因、いまだ特定できず〉


〈殆どの遺体が、『血栓症』に酷似した状態〉


〈なんらかの『外的圧力』か〉





「……クト起きてんじゃん。」



 軽く「フッ」と笑いながら、そうボソッと呟いた。



__________________



――――――ゆっくりと。


「僕」は、目が醒めた。


「…………。」




 何度か見たことのある、天井。

 いつもの、「スウィートホーム」と呼ばれた建物の、寝室。


「………!」


 意識がはっきりしていることを自覚すると、ベッドから飛び起き、すぐ「鏡」の前に立つ。


 鏡に映し出されたのは――。





 いつも通りの、「僕」だった。


 髪は白く、対して背丈は高くない。

 右目は紺色、左目は水色。

 腕もいつもと変わらず、ほっそりとしている。

 服はいつ着替えたのだろうか、片方の肩が覗いてるほどぶかぶかの、鈍色のニットにスウェット。



 いつもの僕が、その立ち姿を見ながら、ボーっとしている。



 次に、辺りを見渡す。


 部屋には、彼女の姿はない。

 僕がいーださんと呼ぶ、かけがえのない存在。



 途端に、彼女を今すぐにでも抱きしめたいような衝動に駆られる。

 どこにいるんだろう。



 小走りで、その彼女の行方を捜すため、部屋を出たら。




「―ひぎぃ!」


 部屋を出た途端、勢い余って何かにぶつかり、突き飛ばしてしまった。

 ぶつかった時の感触から、すぐにそれがいーださんだと解った。




「…………クー。」

「……いーださん。」


 確認し合うようにお互い呼び合って。


「クーぅぅぅぅぅぅぅぅぅ~~~~!!」


 彼女が僕に飛びかかってきた。

 そのまま勢いに耐えきれず、押し倒されてしまう。


「よかったぁ!よかったよぅ!ふえええぇぇぇぇっ…」

「……。」


 僕の上でわんわんと泣き叫ぶ彼女の様子に安堵し。

 そのまま彼女を抱きしめる。

 頭をよしよしと撫で、背中を擦る。


 彼女の金色の長い髪の毛をかき分けつつ、背中を露わにする。

 そして、彼女の背中には「傷」が無いことを改めて確認する。

 「ハスター」の刀によって斬りつけられたであろう傷は跡形もなく消え、その小さな背中は艶々している。



「…お怪我、ないですか」

「うんっ!うんっ…ありがとっクーぅ、ありがっ……うわあああはああはあああああんっ!!」

「……。」


 泣きじゃくる彼女をあやすように、優しく、何度も撫でる。


 そんな一時に、しばらく浸っていた。


__________________



 彼女の支離滅裂とした言葉をなんとか自分の中でまとめ、僕が気を失っていた間のことをだいたい把握する。



 彼女の前で気を失った僕は、すぐ「元の姿」に戻ったらしい。

 その僕を彼女が担いで、「街」の「大きな噴水」を経由し、ここまで運んできてくれたとのこと。

 彼女には本当に感謝の言葉しか出てこない。


 そして、気を失ってからもう既に「丸一日」経つという。

 その間彼女は、僕の服を着替えさせ、ベッドに横たわる僕に付きっきりで、泣き喚きながら何度も呼びかけてくれたらしい。


 彼女に多大な迷惑をかけてばかりの自分に、腹が立つ。


「………ぐすっ…………ぐすっ」


 そして彼女が、ようやく落ち着いて来た。


 同じベッドに並んで座り、僕は彼女の背中を撫でている。


「……大丈夫ですか。」

「…うんっ、ごめんね…ごめんね…」

「………謝っちゃ、だめです。」

「…………う…でも…でもねっ」


 彼女は僕に、そっと抱き着いてくる。


「今回のこと…全部……私のせいだから……。」

「……え?」

「……あたしが…『デート』行こうなんて、言わなかったら……こんなことには…。」

「…そんな。いーださんは、何も悪くないです。」

「ううん、私のせい。ぜんぶ…全部……。」

「……いーださん、違います。」

「違わないのっ!私の…私のぉ……」


 また、目にうるうると涙を溜めていく。


 そんなことを言い出したら、事の発端は僕にある。

 この健気な彼女に、何かしてあげたい一心で、「してほしいことはあるか」などと言わなければ何も起きなかったはずだ。

 わざわざ言葉で聞かなくても、何か彼女のためにしてあげられることは沢山あったはずだ。


 愚かだったのは、僕だ。


「…いーださん。」


 彼女の目に溜まった涙を、人差し指でさっと拭いて。

 

 


 そっと彼女の頬に、僕の唇を当てる。

 

「………ぬぇ!?」


 ピクッと体を強張らせ、赤面し、驚いた顔をする。


 「街」で彼女とやった、「アイスの件」の続きを、今してあげる。

 生憎の「アイスのやり取り」はないが、それでもよかった。

 彼女が喜ぶと思ったから。


 彼女は少し時間を置き、両頬をパチンッと手で押さえ、赤面するのを抑制しようとしている。


 そして。


「…うぅぅぅぅぅぅ!!クーのいぢわる~~~~っ!!」


 両足をこちらに向け、その足でげしげしと蹴ってきた。


「………えっ」

「もぉぉぉぉ!このこのこのこのこのこのぉぉ~~~っ!!」


 と叫びながら、軽く何度も蹴りをかましてくる。


 その時の彼女の顔は。



 真っ赤な顔で、可愛らしく笑っていた。



「……。」


 その顔を見て、安心する。



 方法は正しくなかったかもしれないが、とりあえず彼女を元気づけたかった。

 いつもの明るい彼女に戻ってほしくて。


 飛んでくる足を捕まえ、軽くくすぐったりして「やぁぁ~~!!」と叫ばせたりと。軽く抵抗しながら。





「もぉ~~っ、ふふっ、クー大好きっ♪」

「……。」




 そんな、ちょっと賑やかな時間を過ごした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ