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記憶を失くした旧支配者  作者: 南瓜
3日目
13/45

大丈夫?

「ぬあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!!!」



 狂気混じりの彼「ハスター」の怒号が『街』に響き渡る。



 先ほどから、彼と対峙している。


 男の子のようなその彼の体から、あらゆる攻撃が繰り出される。


 「つむじ風」に乗せて、見えない複数の刃物で絶え間なく斬り刻んで来たり。

 「竜巻」を起こし、『街』周りの瓦礫の数々をこちらに飛ばして来たり。

 「突風」と共に、切り抜け様に刀で斬りかかってきたり。


 そんな「風」を利用した多彩な攻撃からは、明確な殺意を感じる。


 この今の、人の形は保ちつつも腕だけは怪物のそれへと変貌した「この姿」になった時からだ。

 やはり、彼は「この姿」に会いに来たのだ。

 そして、「この姿」の自分を殺そうとばかりに的確に急所を切りつけてくる。

 首や目、四肢。


 もう既に服はボロボロになっている。泥が付き、所々彼の斬撃の跡が残る。

 だが、その無残な姿になった服とは裏腹に、体に一切傷はついていない。

 彼の攻撃は、この体にはびくともしていない気がする。

 彼が手加減しているのか、それともこの体がそれほど強靭なものなのか。


「………ふぅ。ふぅ。ッフフフハハハハハ!」


 息切れしているのか、笑っているのか解らない彼に向けて。

 両腕から生える5本の巨大な鉤爪を、彼の華奢な体にひっかけようと腕を振るう。

 その自分の腕の大きさに慣れず、思うように動かせない。浮遊する彼に向け大きく跳躍しながら、叩きつけるようにブンッと振るうが、攻撃は一度も当たらない。彼にひょいっと、軽々とかわされてしまうのだ。



「はっ!どうしたのお!そんなんじゃボクを殺せないよおおおお!?」


 そんな彼の狂気に満ちた声。

 その声は、焦っている。

 急いで決着を付けようとしているのか。

 これ以上時間が経つと、何か不都合なのか。




 すると突然、彼が一気に距離を取った。




「…『渦巻け』!」


 遠くでニヤニヤする彼がそう言うと、何かの準備をするような体勢に入ったのがわかった。


 彼の下には、だんだんと規模が増していく竜巻が発生する。

 その竜巻の今までとは違う雰囲気から察するに、その竜巻がこの辺りを、いや『街』全体を覆い尽くすほどの規模に発展させようとしているのがわかった。



 それほどの竜巻に巻き込まれれば、さすがにこの体も耐えれるかはわからない。

 そして、彼女の体も…。


 だが、その大竜巻を作り出すのに多少の時間が必要なのが、発展速度からしてわかる。






 だから。




 こちらから先に仕掛けることにした。



 少し遠くに見える噴水に向けて左腕をかざし。






「……辺りヲ『水』で埋メ尽くせ」


 そう「命令」する。




 途端に、その噴水から、尋常じゃない量の水が真上へと、弾けるかのように吹きだす。

 それに続いて、どこからともなく大量の「水」が、巨大な崖のようにそり立つ津波のように押し寄せる。


 その押し寄せる水が、彼の造りだした大竜巻をも呑み込んでしまう。


 それに怯んだ彼は。

 防御態勢に入ろうとしたのか。





「…っ!ボクをつつみ――」


 何か言おうとしたのだろう。だが、言わせなかった。



ブンッ!


 隙あり、というべきか。

 彼に向かって、瞬間移動にも近い接近をし、腕を振るって彼を叩き飛ばす。

 ようやく一撃入った。


「…うっっっ!!」


 彼の体は壁に、ひびが入るほど強く打ちつけられ、そのまま押し寄せる水が彼を巻き込んでいく。

 彼は反応が遅れ、「水」に呑まれる。

 当然、呑まれた彼は「風」を失うだろう。


 辺りの大量の水たちは大きなドーム状に留まり、辺り一面が青界に包まれる。



__________________



「……ゴボボッ」


 水の中で苦しそうにもがく彼が見える。

 その「風」を操るすべを失った彼を、見下す。



 いつの間にか、自分の体が巨大な物に変貌している気がした。

 さっきよりも、彼が小さく見える。


 そして。


「……ガボボッ!」


 今、その彼を巨大な両腕の鉤爪で「引き裂こう」と、腕を伸ばしている。

 彼に威圧を与えるように、左右から押し寄せる壁のように腕をじわじわと接近させていく。



 昨日、彼女と遊んだ「チェス」で言う


 「チェック」の状態だ。



 彼の命は。

 彼の判断次第。






 そんな自分の状況を察したのか。



 何かを諦めたかのように。

 ニヤリと笑って。



 「水」の中で地面をガンッと踏みつけて。


 魚雷が打ち出されるかのように彼は後退した。



 彼の移動した後には泡が沸き立つ。







 そんな彼を、ただ見送る。

 殺すつもりはないし、追いかけるつもりもない。




 これでいい。

 おそらく彼も満足だろう。





 この「姿」が見れて。



__________________




 静まりかえった『街』の中で




 しばらく立ち尽くし、ボーっとしていた。




 辺りからは、水がひいていた。

 水に浸された周辺の『街』の建物は、所々から水滴を垂らして、ポチャポチャと音を立てている。


 彼、「ハスター」は、もういなくなっていた。

 この様子だと、こちらに再び挑みかかってくることはなさそうだ。

 ひとまず安心と言った所か。







「…………ク…ぅ。」



後ろから、か弱い声が聞こえた。

振り返ると、壁を伝ってこちらに虚ろな目で歩み寄ってくる「彼女」がいた。



「………だ……じょーぶ…?」



 力なくわなわなと震え、こちらに手を伸ばしてくる。

 服は、赤く染まっている。

 痛みを堪えて、震えながら懸命に歩いてくるその体は、今にも倒れそうだ。


 あぁそうだったと。


 その彼女にこちらも歩み寄り。










 巨大な左腕で彼女の頭を鷲掴みにする。


「…………………へ…」


 続けて右腕で、彼女のほっそりとした胴を掴み。

 掴んだまま、壁に叩きつける。


「……っいた………や…めて……ク…ぅ」


 じりじりと、彼女に向けて力を加えていく。


「………や…だ……ょ……こわ………やめて…」


 ぎりぎりと、彼女の体が悲鳴を上げ始める。


「…………………やだよぉぉ……」


 自分の「これから」を悟ったのか。力なく、ぽろぽろと涙を流し始めた。


 そうしているうちに。






 ようやく、終わった。


 彼女をゆっくりと放し、腕から解放させる。



「………え」






 三歩ほど後退し、「役目」を終えた両腕をだらりと、力なく垂らす。






「………あれっ…傷、無くなっちゃった…」





 その彼女の声を聞いて。


 安堵し。






 ばたりと倒れた。


「えっ!えっ?クー?クー!!!」


 意識が、遠くなっていく。


「クーっ!大丈夫っ!?ねぇ!クー!――――」



__________________



―暗い、水の中。









―役目を終えた「それ」が、沈んでいく。






―変わるように、「僕」が浮上していく。










―上から射す光を目指して。







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