↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
渇きの聖域 —— 聖女の毒を啜る異形騎士の狂愛  作者: beens
第6章:反逆の狼煙、あるいは灰に潜む刃

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/75

第64話:剥落(はくらく)する狂信、あるいは玉座への扉

「魔法を……私の極大魔法を、ただの鉄剣で『斬り裂いた』だと……ッ!?」

大階段の中腹。

自身の放った氷と炎、そして重力の嵐が、ただ一人の青年の歩みによって海のように割られ、霧散していく光景に、レオンの複数の瞳が痙攣したように見開かれた。

「ふざけるなァッ! 貴様のような異物が、魔王様への絶対の忠誠を打ち破るなど、あってはならない!!」

レオンは絶叫と共に、巨大な泥濘(ぬかるみ)のような肉体を激しく変形させた。

魔法が届かないと悟るや否や、彼は取り込んだ三体分の七天王の権能――【暴食】【色欲】【憤怒】の力を、自身の肉体そのものに付与し始めたのだ。

「死ネ! 喰ライ尽クシテヤルゥゥッ!!」

レオンの巨大な腕が鋭利な『黒曜石の刃』へと形を変え、そこに極大重力と【憤怒】の業火が纏い付く。さらに、その腹部に開いた【暴食】の虚無が、周囲の瓦礫ごとカイトを吸い寄せようと猛烈な引力を発生させた。

家の一軒も容易く両断するであろう超質量の刃の連撃が、大階段を削り飛ばしながらカイトへと凄まじい速度で襲いかかる。

「カイト様ッ!」

後方でルナリスが叫ぶが、カイトは振り返らず、ただ静かに刃こぼれした鉄剣を構えた。

「……大振りすぎるぜ、宰相殿」

ガンッ!!

カイトは迫り来る巨大な刃を正面から受け止めず、鉄剣の腹を滑らせるようにしてその軌道を『逸らした』。

バルダス流の受け流し。重力と炎を纏ったレオンの刃がカイトの横をすり抜け、大階段を木っ端微塵に粉砕する。

「チィィッ! チョコマカトォッ!」

レオンはさらに無数の触手と刃を生み出し、全方位からカイトをミンチにしようと殺到する。

だが、カイトの体はまるで柳のようにしなり、最小限の動きで致死の連撃を躱していく。

(……見えた)

猛攻を躱しながら、カイトの冷たく澄んだ瞳は、レオンの肥大化した肉体の奥深くで明滅する『三つの光』を捉えていた。

レオンが七天王から奪い、無理やり心臓部に埋め込んだ【暴食】【色欲】【憤怒】の『黒水晶』だ。

「再生力も威力もデタラメだが……お前自身の力じゃない。借り物のツギハギだ」

カイトが地を蹴り、レオンの懐へと一気に肉薄する。

「グルルルァァッ! 来ルナァッ!!」

レオンが迎撃の炎を放とうとした、その瞬間。

カイトの鉄剣の刃先に、一滴の真紅の光がチカッと瞬いた。

『局所改竄(マイクロ・オーバーライト)』。

「一つ目」

――スパンッ。

カイトが横薙ぎに一閃する。

斬ったのはレオンの肉体ではない。その奥にある『憤怒』の黒水晶とレオンを繋ぐ因果の結節点。

「ガ、ア……ッ!?」

レオンの右肩が内側から弾け飛び、纏っていた業火がプツンと途絶えた。

「二つ目、三つ目」

カイトの体がブレる。

背後に回り込み、返す刀で斜めに二閃。

真紅の軌跡が空中に一瞬だけ残り、今度は『色欲』と『暴食』の黒水晶の繋がりが完全に切断された。

「ア……ガァァァッ! 私ノ、力ガ……ッ! 魔王様ノタメノ、力ガァァッ!!」

無理やり繋ぎ止めていた魔力の暴走に耐えきれず、レオンの巨大な肉体がボロボロと崩れ落ち始める。

「これで、最後だ」

カイトは、無防備になったレオンの胸部――かつてイゴールが命を賭して撃ち抜き、そして魔王の呪縛によってレオンを不死の怪物として繋ぎ止めている『魔王の恩寵の核』へと、静かに剣を突き出した。

チカッ。

真紅の閃光と共に、最後の因果が断ち切られる。

「ア……、アアアアアアッ……!!」

すべての権能を失ったレオンの肉体から、ドス黒い瘴気が急速に抜け落ちていく。

異形の巨体は見る影もなく萎縮し、やがて人間の頃の――右半身が醜く結晶化した、一人のみすぼらしい男の姿へと戻っていった。

「な、ゼダ……。ナゼ、私が……」

レオンは膝から崩れ落ち、震える手で自身の体を見下ろした。

あれほど絶対的だった力が、魔法でもない、ただの一振りの剣技によって完全に剥がれ落ちた。

かつて自身が「羽虫」と見下していた少年の前に、完全に敗北したのだ。

カイトは刃こぼれした鉄剣を下ろし、冷たい目で見下ろした。

「……お前が取り込んだ同胞たちも、権能も、お前自身を強くしたわけじゃない。ただ、自分を大きく見せるための『ハリボテ』だったんだよ」

「黙レェッ!」

レオンは血を吐きながら、カイトを睨みつけた。

「私ハ、魔王様ノタメニ……! アノ方ノ、平穏ノタメニ、すべてヲ捧ゲタ!! 私コソガ、最モアノ方ニ愛サレルベキ存在ナノダッ!!」

レオンは這いつくばりながら、大階段の頂上――固く閉ざされた大聖堂の扉へと向かって手を伸ばした。

「魔王様……! ドウカ、私ヲ……見テ……! 私ハ、アナタノタメニ、コンナニモ……ッ」

だが、大聖堂の扉は無慈悲なまでに沈黙を保っていた。

愛した存在からは見向きもされず、ただ『防壁の素材』として使い捨てられた男。

「……哀れだな」

カイトは静かに呟き、剣を上段に構えた。

「ア、アア……魔王、様……」

レオンの瞳から、一筋の血の涙がこぼれ落ちる。

「終わりにしようぜ、宰相殿」

振り下ろされた慈悲の一撃。

真紅の光がレオンの首筋を静かに通り抜け、その命の因果を完全に世界から消し去った。

レオンの体は音もなく灰となり、帝都の乾いた風に吹かれて、跡形もなく消え去った。

「……終わったんですね」

大階段を駆け上がってきたルナリスが、静かに息を吐き、カイトの背中に寄り添う。

ガウルやフィオナ、そしてバルドたちも、周囲への警戒を解いて頂上へと集まってきた。

「ああ。こいつはもう、二度と蘇らない」

カイトは鉄剣を鞘に収め、眼前を見据えた。

そこにあるのは、帝都の中心にして、もっとも禍々しい魔力が渦巻く巨大な大聖堂の正門。

黒曜石と黄金で彩られたその扉の向こうに、すべての元凶である魔王アラリックと、女王エアラがいる。

――ゴゴゴゴゴォォォ……ッ。

主(レオン)の消滅に呼応したのか、それとも中から『神』が羽虫を招き入れているのか。

重厚な大聖堂の扉が、地鳴りのような音を立てて、ゆっくりと内側へと開き始めた。

中から漏れ出すのは、息を呑むほどの静寂と、冷え切った絶対的な『死』の気配。

今までのどんな魔物とも、レオンとも違う。次元の違う存在の圧が、扉の隙間から這い出してくる。

「……行くぞ」

カイトは、自身の過去の記憶がすっかり抜け落ちた『空っぽの頭』を軽く叩き、ニッと不敵に笑った。

「俺たちの明日を取り戻しに」

三千の軍勢を外に待たせ、カイト、ルナリス、ガウル、フィオナ、そしてバルドの五人は、開かれた玉座の扉へと、静かに、そして確かな足取りで足を踏み入れた。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

読者の皆様の応援のおかげで、ここまで書き進めることができています。

もし「続編が気になる!」「応援してるぞ!」と思っていただけましたら、ぜひブックマークや、星での評価で応援をいただけないでしょうか。

皆様のポイントが、ランキングを駆け上がる原動力となります!

これからも熱い展開をお届けします!

よろしくお願いします!


<beens 過去作>

https://mypage.syosetu.com/mypage/novellist/userid/3017364/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。