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渇きの聖域 —— 聖女の毒を啜る異形騎士の狂愛  作者: beens
第5章:夜明けの残光、あるいは再誕の救世主

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第41話:剥がれゆく呪いと、天才魔導少女の素顔

第七供給区の広場は、これまでの数百年間で初めて「人間の活気」に包まれていた。

洗脳の刻印を破壊され、自我を取り戻した人々は、魔族の砦から食料や物資を運び出し、自らの手で生きるための準備を始めている。

その喧騒から少し離れた場所で、カイトは先ほどの魔導騎士が落とした『破邪の剣』を手に取り、まじまじと見つめていた。

『――【天啓の導き(アプレイザル・ボイス)】。対象の解析を完了しました』

脳内にステラの澄んだ声が響く。

『この剣は、かつての勇者ジークフリートが振るった【魂喰いの聖剣(グラム)】の残滓を核にして作られた、量産型のレプリカです』

「レプリカで、あんな高出力の神聖魔力が出るのか?」

『はい。魔王軍の七天王が一人、【強欲】のヴァレリウスが、かつての勇者たちの遺物をすべて自身の居城に溜め込み、その力を抽出して部下に分け与えているのです。この剣も、その恩恵の一つに過ぎません』

「なるほどな……。死んだ連中の遺品をコレクションして、悪用してるってわけか。悪趣味極まりないな」

カイトは剣を地面に突き立て、呆れたように息を吐いた。

その時だった。

「――あ、あの……! お待ちください!」

広場の入り口付近から、人混みを掻き分けるようにして、一つの小さな影が駆け寄ってきた。

頭から足先まで、ボロボロでぶかぶかのローブをすっぽりと被った小柄な人物だ。顔は深くフードで隠され、手足には何重にも薄汚れた包帯が巻かれている。

「カイト様、危ないッ!」

ガウルが即座に前に出て、獣の唸り声を上げた。魔族の残党かもしれないと警戒したのだ。

「待って、私は敵じゃないわ……! 噂を聞いて、ずっと……ずっとあなたを探していたの!」

ローブの人物はガウルの威圧に怯えながらも、その場に崩れ落ちるように膝をつき、フードの奥からカイトを見上げた。

微かに覗いたのは、十代半ばほどの少女の瞳。だが、その声はひどく掠れ、息をするのも苦しそうだった。

「……君は?」

カイトが警戒を解いてしゃがみ込むと、少女は包帯に巻かれた震える手を胸に当てた。

「私の名前は、フィオナ。かつて聖女の代償を解明しようとして散った大魔術師……リディア様の術式を継承した、最後の魔導士よ」

「リディア……」

ルナリスがハッと息を呑んだ。「前史の記録に記されている、皮膚を失う禁忌の術式……万象解析の魔法ですか!?」

「ええ……。私は、魔王を倒すための力を得るために、この術式を自分に刻み込んだ」

フィオナは、自身の右腕に巻かれた包帯をゆっくりと解いた。

そこにあったのは、少女の滑らかな肌ではない。皮膚が焼け焦げたように剥がれ落ち、赤黒い筋肉と血管が剥き出しになった、痛ましい肉の塊だった。

「ヒッ……!」

周囲で見ていた人間たちが、そのあまりにも凄惨な傷跡に悲鳴を上げて後ずさる。

「私の魔法は……世界の理を書き換える強力な魔力を引き出せる。でも、その『代償』として、魔法を使うたびに私の皮膚は剥がれ、肉が削げ落ちていくの」

フィオナは痛みに顔を歪めながらも、必死にカイトの服の裾を掴んだ。

「ねえ……聞いたわ。あなたは、代償なしで奇跡を起こせるって。お願い、私をあなたの仲間に加えて! 私の残りの肉体がすべて崩れ落ちるまで、あなたのために最強の魔法を撃ち続けるから……ッ!」

彼女の言葉には、狂気にも似た決死の覚悟があった。

かつてのリディアがそうであったように、魔王を倒すためならば、女としての姿も、命すらも投げ捨てる悲壮な決意。

しかし。

「……却下だ」

カイトは、極めて冷淡な声で即答した。

「え……?」

フィオナの瞳から、絶望の涙がこぼれそうになる。醜い肉体になった自分など、やはり足手まといなのだと。

「そんなボロボロになるまで自分を痛めつけて放つ魔法なんて、全然スマートじゃない。……おまけに、女の子が肌を気にして泣きながら戦うなんて、ブラック企業よりもタチが悪いぜ」

カイトはそう言うと、フィオナの剥き出しになった赤黒い右腕を、躊躇することなく両手でしっかりと包み込んだ。

「あ……駄目、汚い、触らないで……ッ!」

「汚くなんてないさ。よく頑張ったな、フィオナ」

カイトが優しく微笑んだ瞬間。

彼の手から、目も眩むような黄金の光が溢れ出し、フィオナの全身を優しく包み込んだ。

「――【因果の改竄(オーバーライト・カルマ)】」

カイトの低い声が響く。

それは、世界を縛る「魔法の代償」という絶対ルールへの、容赦のない上書き命令。

「えっ……? あ、あぁ……ッ!?」

フィオナの腕を覆っていた激痛が、嘘のように引いていく。

カイトが手を離すと、そこには赤黒い肉塊など存在しなかった。代わりに現れたのは、雪のように白く、一切の傷跡もない、少女の瑞々しい滑らかな肌だった。

「私の、腕……? 皮膚が……戻って、る……?」

フィオナは信じられないものを見る目で、自身の両腕をさすった。

それだけではない。彼女の体を蝕んでいた『代償の呪い』そのものが、カイトのスキルによって根こそぎ消去されていた。

彼女の中には、無限に等しい『万象解析の魔力』だけが、ノーリスクで渦巻いている。

「これで、お前の魔法の代償は『ゼロ』だ。……さあ、試しに一発、空に向かって撃ってみな」

カイトが空を指差す。

フィオナはまだ半信半疑のまま、新しく生まれ変わった白い両手を天へと向けた。

「……極大魔術――『天上の業火(プロミネンス・バースト)』!」

ドゴォォォォォォォォンッ!!!

フィオナの掌から放たれた圧縮された炎の塊が、遥か上空で太陽のように爆発した。

常に世界を覆っていた真紅の雲が、凄まじい熱量によって半径数キロにわたって完全に吹き飛ばされ、数百年間誰も見たことのなかった『本物の青空』が、一瞬だけ顔を覗かせた。

「す、すごい……! 本当に、痛くない! 皮膚が剥がれないわ……ッ!!」

フィオナは自身の無傷の両手を見つめ、大粒の涙を流してカイトの胸に飛び込んだ。

「ありがとう……っ、ありがとう! カイト様……!!」

「ははっ、どういたしまして。これで強力な固定砲台(メインキャスター)のゲットだな」

カイトはフィオナの頭をポンポンと撫でながら、満足げに笑った。

ルナリスとガウルも、その圧倒的な魔法の威力と、無傷のまま歓喜するフィオナの姿を見て、頼もしそうに頷き合っている。

「さて、と」

カイトは改めて、拾い上げた『破邪の剣』の切っ先を、東の空――禍々しい魔力が渦巻く山脈の方角へと向けた。

「ガウル、フィオナ。お前たちの力をフルに使えば、あの【強欲】のヴァレリウスって奴の城、落とせるか?」

「余裕です、カイト様。俺のこの痛みなき拳で、城門ごと粉砕してみせます」

獣人ガウルが、自信に満ちた笑みを浮かべて拳を鳴らす。

「ええ! 私の代償なしの極大魔法で、あんなお城、更地にしてあげるわ!」

フィオナもまた、涙を拭って元気よく宣言した。

「よし、決まりだ。過去の勇者たちの遺物をパクってふんぞり返ってる泥棒野郎から……俺たちの世界を、取り返しに行くぞ!」

カイトの号令と共に、人類の反逆の炎はさらに大きく燃え上がった。

かつて絶望の底で消えていった勇者たちの無念は、今、現代の価値観と理不尽なチート能力を持つ青年の手によって、痛快な反撃の刃へと生まれ変わろうとしていた。

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<beens 過去作>

https://mypage.syosetu.com/mypage/novellist/userid/3017364/

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