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渇きの聖域 —— 聖女の毒を啜る異形騎士の狂愛  作者: beens
第3章 狂愛の檻と血塗られた箱庭

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第36話:永遠の家具、あるいは絶望を閉じ込めた水晶

玉座の間に響き渡っていた凄惨な悲鳴が、やがてぷつりと途絶えた。

「アハハハハッ! 見て、見てください真なる神(エアラ)よ! あなたの御前を汚す羽虫どもを、僕がすべてお掃除しましたよォッ!」

醜悪な漆黒の翼を生やした【器の少年】エルが、血の海となった大理石の床に膝をつき、玉座に向かって狂喜の声を上げた。

彼の背後には、黒焦げになった獣人バルダスや、完全に肉塊と化した魔術師リディア、そして目を見開いたまま絶命したクラウディアの無残な亡骸が転がっている。

壁際に吹き飛ばされたリーダーのジークフリートも、両腕を砕かれたまま、ただ虚ろな目でその地獄絵図を眺めているだけだった。

「僕を、僕を褒めてください! あなたの最も忠実な天使(しもべ)として、その美しい足にキスを――」

エルが悦びに顔を歪めながら、玉座の階段を這い上がろうとした、その時。

「……気安く近づくな、出来損ないの泥人形が」

玉座に座る魔王アラリックが、ひどく冷酷な、絶対零度の声で言い放った。

「え……?」

エルの動きがピタリと止まる。

「貴様程度の薄汚い狂信で、私の女王の足に触れられるとでも思ったか。それに……」

アラリックは退屈そうに指先を動かし、大広間に散らばる勇者たちの「残骸」を真紅の瞳で一瞥した。

「血と臓物の臭いがキツすぎる。せっかくの愛の巣が、これではまるで屠殺場だ。……エアラ、貴女の美しい空間には、少しばかり『インテリア』が不足していると思いませんか?」

「インテリア?」

アラリックの腕の中で、エアラが小首を傾げる。

「ええ。彼らのこの素晴らしい『絶望の顔』……。腐らせて土に還してしまうには、少々惜しい」

アラリックが、パチンと指を鳴らした。

その瞬間、玉座の間に満ちていた重厚な魔力が、物理的な質量を伴って勇者たち(とエル)の体を包み込んだ。

「あ、れ……? 体、が……?」

真っ先に異変に気づいたのはエルだった。

彼の足元から、黒曜石のように透き通った『呪いの水晶』が、メキメキと音を立てて這い上がってきたのだ。

「ひ、ひぃッ!? なんだこれ、動かないッ! 真なる神よ、お助けを――!」

「だから、うるさいと言っている」

アラリックが冷たく見下ろす中、黒い水晶はエルの口元までを瞬く間に覆い尽くし、その狂信と恐怖に歪んだ顔を永遠に固定した。

水晶化はエルだけではない。

死んでいたはずのバルダスやリディアの肉体も、壁際のジークフリートも、すべてが禍々しい黒水晶の中に閉じ込められていく。

「な、なんだ……これは……」

ジークフリートは、自身の体が石のように固まっていくのを感じながら、虚ろな声を漏らした。

「ただの石化ではありませんよ、勇者殿」

アラリックは、残酷な真実を口にした。

「肉体の時間は完全に停止しますが……魂と意識だけは、その水晶の中に永遠に残り続ける。貴様らはこれから先、何百年、何千年と……この玉座の間で、私とエアラが愛し合う姿を、その目玉を開いたまま見つめ続ける『家具』になるのです」

「な……ッ!?」

死よりも恐ろしい宣告。

自分たちを虫ケラのように蹂躙した魔王と魔女の、終わらない蜜月と情事を、死ぬことも狂うことも許されずに、永遠に見せつけられる地獄。

「や、やめ……! 殺せ、いっそ殺してくれェェェッ!!」

ジークフリートが最後に放った絶叫ごと、黒水晶は彼の全身を完全に飲み込み、その表情を恐怖と絶望の形でピタリと凍りつかせた。

静寂が戻った大広間。

そこには、まるで悪趣味な美術館のように、六つの『絶望の彫像』が規則正しく立ち並んでいた。

「……まあ! 素敵!!」

エアラは玉座から立ち上がり、少女のように目を輝かせて彫像の周りをぐるぐると回った。

彼女は、恐怖に顔を引きつらせたジークフリートの水晶像の頬を、愛おしそうに撫でる。

「美しいわ、アラリック! 希望が完全にへし折られて、永遠の絶望に閉じ込められた最高の芸術品! これなら、毎日眺めていても絶対に飽きないわ!」

「貴女に喜んでいただけて何よりです、私の女王」

アラリックは優雅に歩み寄ると、歓喜するエアラの腰を抱き寄せ、彫像たちの目の前で、彼女の血に濡れた唇を深く、貪るように奪った。

「んっ……、はぁっ……。ねぇ、アラリック」

唇を離したエアラが、トロンと熱を帯びた瞳で魔王を見上げる。

「虫ケラたちの掃除も終わったし、ここからは……私とあなたの、二人きりの時間よ。あの彫像(おきゃくさま)たちの前で、私をもっと、めちゃくちゃに壊してちょうだい……っ」

「ええ。この世界が塵となって消え去るまで、貴女を骨の髄まで愛し尽くしましょう」

勇者たちの意識が永遠の暗闇の中で泣き叫ぶ中。

魔王と女王は、新たな家具に囲まれた血塗られた玉座で、限界を知らない快楽と狂愛の儀式へと再び溺れていくのだった。

世界は完全に沈黙し、光は二度と戻らない。

ただ、二人の身の毛もよだつほど甘い吐息だけが、終わらない夜を永遠に満たし続けていた。

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<beens 過去作>

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