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渇きの聖域 —— 聖女の毒を啜る異形騎士の狂愛  作者: beens
第3章 狂愛の檻と血塗られた箱庭

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第20話:堕ちた聖域、終わらない甘き渇望

王都グランディールの実権が完全に「白銀の亡霊(魔王軍)」に掌握されてから、一ヶ月が経過していた。

表向きは、聖女エアラが腐敗した大教主を粛清し、新たな教会の指導者として君臨したことになっている。誰もが彼女の神聖なる威光を讃えたが、その実態は、恐怖と暴力による完全なる「蓋」であった。

レオンたち狂信的な騎士が王都の治安を徹底的に管理し、少しでも異を唱える者は、翌朝には広場の石畳の染みへと変わっているからだ。

そして、その王都の頂点。大聖堂の最上階に再構築された、分厚い魔力結界に守られたエアラの自室。

そこは今、一匹の魔王と一人の生贄だけが許された、甘く退廃的な「鳥籠」と化していた。

「……あ、んっ……はぁっ、アラ、リック……」

白昼堂々、分厚い遮光カーテンが引かれた薄暗い寝室に、エアラの艶めかしい吐息が響き渡る。

豪奢な天蓋ベッドの上で、純白のドレスを乱したエアラが弓なりに背中を反らせていた。彼女の細く雪のような首筋には、巨大な獣――アラリックの鋭い牙が、深々と突き立てられている。

――ゴクチュッ、ジュルッ……

部屋に響くのは、生々しい咀嚼音と、喉を鳴らして血を飲み下す音だけ。

「んぅ……っ! ああ、だめ、それ以上は……体が、溶けちゃう……っ」

エアラは自身の胸の奥から湧き上がる、脳髄を焼くような強烈な快楽(エクスタシー)に身をよじらせた。

痛い。血を吸われるたびに、命が削り取られていくような強烈な喪失感がある。しかし、それ以上に、自身の内に溜まった『業(カルマ)』の毒ごと、彼という圧倒的な存在に「蹂躙され、所有される」ことの悦びが、彼女の理性をドロドロに溶かしていた。

「……ハァッ。素晴らしい……。何度味わっても、貴女の血は、私を狂わせる……」

アラリックが牙を引き抜き、血に濡れた唇を舌で舐め取った。

その禍々しい真紅の瞳は、純粋な飢餓と、エアラに対する底なしの執着で濁りきっている。

彼は満足げに喉を鳴らすと、牙を立てたばかりの彼女の首筋――無数の赤い噛み跡が重なるその場所に、愛おしそうに何度も口づけを落とした。

「はぁ、はぁ……っ。この、強欲な駄犬……。昨日も、たっぷり飲ませてあげたばかりでしょう……?」

エアラは虚脱した体で彼を見上げ、微かに震える手でアラリックの頬を撫でた。

口では「駄犬」と罵りながらも、その声は甘く蕩けており、彼に撫でられることを求める猫のようにすり寄っている。

「足りませんよ、エアラ。貴女の匂いを嗅ぐだけで、私の喉はひび割れるように渇く。……北方の雪山で、貴女の血を夢見て雪を啜っていたあの地獄を思えば、これでもまだ、足りないくらいだ」

アラリックの巨大な手が、彼女のドレスの裾から滑り込み、柔らかな太ももを撫で上げる。

そこには、四ヶ月前に彼が初めて残した、あの「深い牙の痕」が、今も消えずに刻まれていた。

アラリックはその痕を指の腹でなぞりながら、獣のように低く笑う。

「ここにも、まだ私の『印』が足りませんね。貴女の体のすべてを、私の牙の痕で埋め尽くしてしまいたい」

「ひゃっ……! ば、馬鹿なこと言わないで。私は神に仕える聖女なのよ……っ。こんな体を見られたら……」

「見せませんよ。貴女のすべては、私のものですから。誰の目にも触れさせない。……もし貴女を見ようとする愚か者がいれば、その眼球をすべて抉り出して、私の足元に飾ってご覧にいれましょう」

アラリックの言葉は、常軌を逸した独占欲と残酷さに満ちていた。

しかし、エアラにとって、その『狂気』こそが最高の麻薬だった。

世界を滅ぼすほどの力を持った魔王が、自分一人の血を求めてひざまずき、自分のためだけに世界を血の海に沈めようとしている。

これほどの絶対的な愛と支配が、他にあるだろうか。

(……ああ。もう、どうなってもいいわ。このまま、この化け物に血を吸われ尽くして死ぬのも、悪くないかもしれない……)

エアラは自らアラリックの首に腕を回し、その引き裂かれたような恐ろしい口元へと、自らの唇を重ねた。

血の味と、獣の匂い。

かつては高慢に彼を見下ろしていた聖女は、今や完全に「魔王の番(つがい)」としての悦びに堕ちきっていた。

「……愛していますよ、私の聖女様。貴女の血が最後の一滴になるまで、私は貴女を離さない」

「ええ……。全部、飲み干してちょうだい。私の可愛い、狂犬……っ」

二人の影が、再びベッドの上で一つに重なる。

王都の空は抜けるように青く澄み渡っていたが、この閉ざされた箱庭の中だけは、永遠に明けることのない甘く背徳的な『夜』が続いていた。

だが、この狂気に満ちた蜜月が、そう長く続かないことを二人はまだ知らない。

圧倒的な暴力で蓋をしたはずの外の世界――神を絶対とする「教皇領の総本山」が、王都の異変を黙って見過ごすはずがなかったのだから。

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<beens 過去作>

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