何もかも足りない!
ヨーク城で、治療を始めたアシュレイだったが、ミーナさんと話した通り、清潔なシーツ、包帯が足りない。
「薬草がこんなに!」と前からの治療師は喜んだけど、継続的に薬草を採って来ないといけない。
「今度、薬草を採りに行く時に、何人か小姓を連れて行っても良いですか?」
「小姓に薬草が採取できるのだろうか?」
治療師は、無理では? って顔だ。小姓は、貴族や騎士の子息だ。勿論、嫡男とかはならないのは、アシュレイも知っている。
領地を相続できない貴族の子息、つまり平民に落ちる子が、ヨーク伯爵に幼い頃から仕えて、何とか役に立つと思われたら、官吏として採用されるか、それが無理でもヨーク城で何か職に就いて欲しいと寄越されるのだ。
治療師は、一応は魔法使いだ。でも、アシュレイは潜りの治療師イルマに育てられたので、微量な魔力と薬草の見分け方が分かれば、役に立つと信じている。
小姓をページ頭に集めてもらう。
「あれ? レオナールは?」
来たばかりだった小姓がいない。年上の小姓は、戦争中なので騎士の従者になったりしているから、見知った顔が無いのも分かるけど、変だと思った。
ページ頭は、小姓を把握している。
「ああ、レオナールは、上の兄たちが戦死したので、呼び戻されたのだ。あそこの領地は、カザフ王国に接収されたから、必死なのだろう」
危険な目に遭っているのではないかと、ページ頭も心配そうだ。
アシュレイも、ミーナさんのところで小姓の服を作って貰っている時、レオナールの身体にアザが残っていたのを思い出した。
兄達に殴られたと言っていたけど、その兄達は戦死したのか? 領地を護ろうとしたのだろう。
ここに集まった小姓は、アシュレイより幼い子が多かった。
三人は、魔力を多く持っていたので、その子達を教育する事にした。
「これが下級薬草。このくらいなら、ヨークドシャーの森にも生えている」
一本ずつ手渡しするけど、ぼぉっと見ているだけだ。小姓になるようにと、実家から追い出されたけど、これまで食べるのに不自由もした事がない子達だ。
「この下級薬草を魔法で見つけられる様にするんだよ。私が買い取ってあげるからね」
少しやる気が出たみたいだ。小姓は、衣食住は不自由しないけど、最低限だ。
後は、用事を頼まれた時のチップでまかなわないといけない。実家が小遣いをくれるなんて期待できないのだ。
「魔法で下級薬草を探すのですか?」
やっとやる気の質問が出たので、アシュレイは魔法の使い方を説明するけど、本人は楽に使っていたので、説明は下手だった。
横で聞いていたページ頭は、優れた騎士が剣術を教えるのが上手とは限らないのを思い出して、笑いを堪えていた。
「理論だけでは無理ですよ。実践して教えなければ」
ページ頭の忠告で、アシュレイは三人をヨークドシャーの森に連れて行く。
「ほら、あそこに下級薬草がある!」
どうも、魔法で探知するのは難しいみたいだと、アシュレイは溜息を押し殺す。
だが、下級薬草は森に多く生えていたので、最後の方では、皆も覚えて採取できる様になった。
「下級薬草を採取した後は、こうして地面に手を置いて、魔力を流しておくんだよ。また生えてくれる様に」
ナイフで葉っぱだけ採取させたので、根は残っている。アシュレイが魔力を流すと、根から芽が出てくる。
「凄い!」と驚く三人に、やらせてみるけど、あまり魔力は注げていない。
平時なら、魔力の注ぎ方をゆっくりと練習させるのだが、アシュレイは治療も忙しい。
それに、シーツや石鹸も調達しないといけないのだ。
「何もかも足りていない」
豊かなヨーク城でもこうなのだ。レオナールの実家は、もっと差し迫っているのでは無いかと心配する。




