ヨーク城のアシュレイ
ベケット師匠に注意されて、ヨーク城に急ぐアシュレイだ。
でも、途中で夕暮れてきた。
「やはり、遅くなっちゃったなぁ」
マクドガル館に寄ったのが良くなかったのか、元々、帰りも一泊するべきだったのか悩む。
自分だけなら無理をしても平気だが、馬を潰してしまっては良くない。
途中の町で、一泊しようと思ったけど、これまで一人で泊まった事などないので困る。
「やはり、マクドガル卿の館で泊まれば良かったんだよ」
ベケット師匠が、自分の為に追い払ったのは気づいていたけど、どうしようか迷う。
「ええい、農家の納屋でも借りて寝たら良いんだよ」
村の中の農家の扉を叩くアシュレイ。
まだ農民の子の意識で、アシュレイは行動していたが、髪の毛は馬で急いだのでくしゃくしゃになっていたけど、服は上等な物だし、馬も立派だった。
「あのう、納屋に泊めてくれませんか?」
中で夕食を食べていた農家の人達は驚いた。特に、今は戦争中で、大人の男は徴兵されているので、年寄りと女子供ばかりなのだ。
「あのう、できたら夕食も……」図々しいと思ったけど、シチューの香りでお腹がグゥゥと鳴っている。
初めは、怯えたけど、よく見たらまだ子どもだ。
「なんで、こんな夕方に子どもが?」
疑問を年寄りが代表して質問する。
「俺は、ヨーク城に薬草を届ける途中なんだ。でも、馬が疲れちゃったし、俺も腹ペコで……お金を少し払うからシチューを食べさせて下さい」
農家にとって食べ物は大切だとアシュレイは、知っている。でも、シチューは、水で薄めたら増やせる事も、朝の分も作る事があるのも知っている。
「ヨーク城に勤めているのなら安心だ」と食卓に招かれ、木の器にシチューを入れて貰う。
固いパンは、腰に差しているナイフで切って、シチューをつけながら食べる。
王都では、お婆さんが作ってくれた食事をお爺さんと食べることが多いが、ヒューゴ師匠と共に屋敷で一緒に食べることもある。
そんな時は、銀製のナイフとフォークやスプーンでお行儀よく食べるのもアシュレイはできるけど、やはりこうやって昔ながらの食べ方が気が楽だ。
「ご馳走様、少しだけど泊まり賃」
銅貨を二枚だして、子どもに納屋に案内して貰う。
年寄りは、ヨーク城に勤めているのに納屋で良いのかと不安そうだったが、馬の世話をしなくちゃと言われて頷く。
戦争が始まって、良い馬は徴用されるのだ。
「この井戸を使って良い?」
馬に水をやり、納屋の藁も食べさせて良いと言われたので、それをやってから、疲れた馬に回復をかけて休ませる。
アシュレイも藁に潜ると、やはり疲れていたのかぐっすり寝てしまった。
次の朝、納屋に案内してくれた子どもに起こされ、朝のシチューもご馳走になったアシュレイは、銅貨二枚を置いて立ち去る。
「納屋に泊めただけで銅貨四枚!」女将さんは驚いている。
年寄りは「ヨーク城に勤めているぐらいだから、親が騎士なのかもな」と言ったけど、アシュレイの服は上等だったけど、騎士階級の子には見えないと笑われた。
アシュレイは、昼までにヨーク城に着けるとホッとしていたが、師匠のヒューゴ様は、弟子がいなくなって心配していた。
「アシュレイは、何処に行ったのか? 薬草を採りに行くと話していたようだが……会ってから、前線に行きたい」
ヨーク伯爵は、上級魔法使いのヒューゴ様に、早く前線に行って貰いたいので、勝手な行動をしたアシュレイに腹を立てていた。
でも、アシュレイがいっぱいの薬草を持って帰ってきたので、怒りは解けた。
「師匠、この星の形の葉っぱ、疲れによく効くから、前線に持って行って下さい。カスパル師匠なら、使い方も知っています」
自分もついて行きたいとせがむアシュレイに「お前は、ここで治療をしていなさい」と言い聞かせる。
「マーサさんの言うことを聞くよ」と答えるアシュレイに、ヨーク伯爵も笑ってしまう。
怪訝な顔のヒューゴ様に「マーサは、ヨーク城の女中頭で、誰も逆らってはいけないのですよ」と教える。
「そうか、そんなしっかりした方の指導の元なら、アシュレイも無茶はしないだろう」
前線に向かうヒューゴ師匠とヨーク伯爵を見送って、アシュレイは兵士の治療を始める。




