薬草を採りにマディソン村へ
薬草なら、自分が育ったマディソン村が良い。
馬を用意してもらい、急ぐ。飛んでいっても良いけど、やはり疲れてしまうから馬を借りる事にした。
途中で、一時期滞在したサイモン・マクドガル卿の屋敷を見たけど、こちらも前とは違って領民がいっぱい召集されていた。
自分の知り合いは、ここにいるのかもしれないとアシュレイは馬を休めた。
「おい、そこの坊主! その馬はお前のか?」
乱暴な口調に驚いて、顔を見る。見覚えがある。名前は……マクドガル卿の弟だったけど……。
「ハーマン様」思い出せてホッとするアシュレイ。
「少しの間、ここでベケット師匠の弟子だったアシュレイです。ベケット師匠は?」
あっ、とハーマンも思い出したみたいだ。
「お前は、ヨーク伯爵に仕えていたと思っていたが、次の年の会合では王都に行ったと聞いたぞ」
「うん、カスパル師匠の師匠に弟子入りしたんだ。ヒューゴ師匠もヨーク城に来られたから、俺も一緒に来たんだけど……薬草が足りなくて、マディソン村に採りに行く途中なんです」
立派な馬を調達しようとしていたハーマンは、ヨーク伯爵の持ち物だったのかと残念そう。
「今夜はここに泊まると良い。その代わり、ここにも薬草を持って来てほしい」
「ベケット師匠は?」
ベケット師は、治療の腕も良かったはず。
「ああ、私と兄は交代で前線に行く。ベケットは、それについて行っているのだ」
年寄りの師匠が、疲れていないか心配のアシュレイだったけど、星の形の薬草を差し入れておこうと考えた。
昔より、人に溢れている館で、アシュレイはハーマンのお陰でベッドと夕食を手に入れて爆睡する。
ここからマディソン村までは、馬ならすぐだ。
「アンガスやジムは……もしかして徴兵されているのかな?」
徴兵されるとしたら、マクドガル卿にだ! 館で聞けば良かったと後悔したけど、マディソン村に着けばわかることだと急ぐ。
春、本当なら畑を耕して種を撒き、そろそろ芽が出ている頃なのに、途中の村も遅れている。
男達が徴兵されたのだろう。そして、馬も! 牛を飼っている農家は、何とかなるのか?
アシュレイは、心配で胸がいっぱいになったけど、国が滅びたらもっと悲惨な目に遭うのだとまでは考えていなかった。
他国に負けるとは、どういう事か。歴史を習ったけど、まだ現実とは擦り合わせができていない。
ただ、知り合いが徴兵されなければ良いなんて、甘い考えのアシュレイだったが、マディソン村で現実の厳しさを知った。
「もしかしてアシュレイか?」
つい、元のお爺さんの家を見たいと馬を進めたアシュレイは、隣の家のジムに声を掛けられた。
「ジム! 良かった」とホッとするアシュレイ。
「良くないさ。俺も徴兵されるから、畑に種を急いで撒いているんだ。アンガス達は、もう徴兵されたし……俺の親父は死んだんだぞ!」
近所のおじさんが死んだと聞いて驚き悲しむ。
「そんな! おじさんがいないのにジムまで行ったら、畑はどうするんだよ」
「戦争だから仕方ないさ。残った母親と親戚の年寄りと子どもで何とかするしかないんだ」
諦めているジムに、アシュレイは掛ける言葉もない。
「俺は、ヨーク城に薬草を採って行かなきゃいけないんだ。負傷兵が溢れているのに、薬草が足りないから」
できたら、種まきを手伝いたいアシュレイだったが、ジムに「急げ!」と叱られる。
「俺のお父さんも、負傷して亡くなった。薬草があれば、助かる人も増えるんだろう!」
その通りだ! アシュレイは、ジムの納屋に馬を預けて、空を飛んで山に向かう。
「おったまげた! アイツは、ガキの頃から俺たちとは違うと思っていたけど、空を飛ぶような魔法使いになるとはなぁ」
驚いて腰が抜けそうなジムだったが、戦争になって初めて心から笑えた。アシュレイがいるなら、なんとかなるかも知れないと感じたのだ。
「母さん、昼は一人前追加だ! アシュレイにも食べさせてやりたい」
家の前の菜園の手入れをしている母親に声を掛けて、ジムは種まきをする。
アシュレイは、魔力で薬草をかなりの量を集め、リュリューの山まで飛んで、星の形の薬草もいっぱい採った。
馬を預けたジムの家で、懐かしい故郷のシチューを食べからがら、お爺さんとお婆さんが王都で師匠の庭番をしていると話す。
「魔法使いの身内なのに、あの人達らしいよ」とジムのお母さんに笑われた。
「あっ、そうか! 俺もお金を師匠に貰っているから……でも、お爺ちゃんもお婆ちゃんも働くのが好きだから」
ジムに気をつけてね! と言って、ヨーク城に急ぐ。




