十四歳のアシュレイ
アシュレイが王都サリヴァンに来て、二年が過ぎた。
祖父母達と、庭番の小屋に住みながら、ヒューゴ師匠から魔法と知識の訓練を受けている。
相変わらず髪の毛はくるくると落ち着かないが、少しは長くなったので、後ろで括る事ができるようになった。
ただ、括っても、すぐにあちこちから髪の毛が飛び出してしまうのが難点だ。
それと、少しだけアシュレイの背も伸びて、大人に一歩近づいた。
その分、祖父母は老いているのだが、畑仕事よりは庭の仕事の方が楽だと張り切っている。
それに、アシュレイが育成を後押しするから、前庭のバラや花々はサリヴァンでも有数の美しさを誇り、裏庭の菜園の野菜はとても美味しい。
もう一つ変わったのは、アシュレイが今のシラス王国の危機を真剣に受け止めるようになった事だ。
サリヴァンに来た頃は、西部の友達や知り合いを心配したりはしていたけど、自分だけが平和な王都に逃げた罪悪感の方が大きかった。
今は、歴史から知識を得ているし、ヒューゴ師匠からも情報を聞いて、戦争が近いのを覚悟している。
サリヴァンへ来たのは、竜の卵を孵す為だったアシュレイだけど、今、祖国が存亡の危機に瀕しているのに気づいた。
それに、ヘンリー国王がサリヴァンにいる魔法使い達を徴兵した。贅沢な暮らしをしていた貴族からは、文句の声も上がったが、周りに反シラス同盟を結ばれた状態なので、仕方ないと受け入れられた。
それは、一年前のサリヴァン港に押し寄せたペイザンヌ王国の船を、上級魔法使い達がかろうじて撃退したのを目撃し、やっと尻に火がついたからだろう。
勿論、魔法使いだけでなく、国民の十五歳以上の男子も徴兵された。畑を耕すべき男達を徴兵され、残された老人と女子どもにも苦労がのしかかっている。
それを嫌と言うほど知っているのは、農民の孫として育ったアシュレイだ。
「私を西部のヨーク伯爵の所に派遣してください!」
何度も、ヒューゴ師匠に頼んだけど、首を横に振られる。
「まだ、お前は勉強不足だ。それに、戦争では人の命がどれほど軽いか、理解していない。目の前に瀕死の兵士がいたとしても、それより敵を撤退させる方を優先する心の強さが無ければ、足手纏いなだけだよ」
グッと拳を握りしめる。二年間で、知識も得たけど、人を見捨てる覚悟はできていない自覚がある。
まして、ヨーク伯爵の元には知り合いもいるのだ。万が一、カスパル師匠が怪我をしたら、そちらの治療を優先する自分がいる。
でも、戦争では味方の負傷者の救助より、敵を撤退させる方を優先しなくてはいけない場面も多いのだ。
「後方支援としても、私は役に立ちます! 薬草の知識も治療の業も磨いていますから」
ヒューゴ師匠にも、アシュレイの治療の業の凄さは分かっている。上級魔法使い並みなのだ。いや、それ以上かもしれない。
「後方支援だけに終わるとは思えない。それほど西部は苦戦しているのだ」
「だからこそ! 俺も十四歳になったし……もうすぐ十五歳だ!」
確かに、西部では十代の子どもも徴兵されているだろう。北部でも、サリン王国、バルト王国に苦戦している。
「ユンゲルク様と陛下にお伺いをたててからにしよう。だが、無理をしないでおくれ」
守護魔法使いのユンゲルク様は、猛反対した。次代の守護魔法使いになるアシュレイを危険に曝したくなかったからだ。
戦争が始まってから、貴族の魔法使い達も徴収されて訓練したが、アシュレイほどの魔力を持つ者はいなかった。
「私が現地でアシュレイを指導します。無理をさせません」
それには、ヘンリー陛下も反対する。
「上級魔法使いは、貴重なのだ!」
「ええ、理解していますが、サリヴァンにはユンゲルク様もアリオン様もいらっしゃいます」
そのアリオンは、サリヴァン沖に現れたペイザンヌ王国の艦隊を撤退させるのに無理をして、魔力枯渇状態に陥り、今も体調が回復していない。
「そうですね。ヒューゴ様には、ご苦労をお掛けしますが、アシュレイが無理をしないように……そして、ヨーク伯爵が無理をさせないように付き添って下さい」
ヨーク伯爵は、自分の領地が戦場になっているのだ。必死で戦っている。
そして、護るためには、何でも利用するだろう。国の上級魔法使いなら、少しは言う事を聞かせることもできるだろう。
「アシュレイを上級魔法使いとして派遣してはどうだろう?」
ヘンリー陛下としては、ヒューゴを失いたくない気持ちが大きい。
「まだ十四歳です……せめて、十五歳なら……」
農村では、十三歳から大人扱いで働く! とアシュレイは言い張るけど、魔力や知識はあっても、まだ子どもだとヒューゴ師匠は認めない。
「では、ヒューゴ様……御身も気をつけて下さい」
ユンゲルク様は、ヒューゴが言わなくても弟子のアシュレイに気をつけるのは分かっている。自分の事も気をつけて欲しいと願って送り出す事にした。
こうして、アシュレイはヨークシャーに戻る事になった。そして、戦争の悲惨さを目にする。




