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アシュレイの桜  作者: 梨香


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王都での生活

 弟子になった初日に迷子になったアシュレイだが、ヒューゴ師匠の指導は丁寧だし、とても実践的だった。


「お爺ちゃんとお婆ちゃんをここに呼んでくれるって本当?」


「ああ、カスパルからも聞いている。それと、ヨーク伯爵も手配してくれるだろう」


 これで、アシュレイが落ち着いて修業してくれるなら、老人二人を世話するぐらい安いものだ! とヒューゴ師匠は考えていた。


「竜の卵を貰った経緯を話してくれるかい?」


 落ち着いたお爺ちゃん師匠には、アシュレイも真面目に答える。

 カスパル師匠も慣れたら良い人だと分かったけど、最初はギクシャクしたのだ。


「うん、子どもの時にお婆ちゃんが冬の病になったんだ」


 凄く遠い所からの話だと思ったヒューゴ師匠だが、アシュレイの話を最後まで聞いてくれた。


「そうか! 年老いた竜のリュリューから、アシュレイは卵を託されたのだね! そして、その卵を孵す為に魔力を譲られたのだ……だから、そんなに魔力があるんだな!」


 アシュレイは、自分の話しを邪魔せずに聞いてくれたヒューゴ師匠が好きになった。

 この師匠なら、きっと竜の卵を孵す遣り方を教えてくれると期待が高まる。


「ヒューゴ師匠、どうやったらたまごが孵るの?」


「それは、リュリューがアシュレイに教えてくれたよ」


「えっ? 俺は分からないから聞いているんだけど?」


「ちゃんと思い出してごらん」と言われて、アシュレイは思い出す。でも、分からない!


「何故、リュリューはアシュレイに魔力を譲ってくれたのかな?」


「それは、卵を孵す為……でも、卵は孵らないんだ!」


「それは、アシュレイが魔力をちゃんと卵に注げていないからではないかな?」


「えっ、そうなの? 卵に魔力を注ぐって、どうやるの?」


 ヒューゴ師匠は、初歩の初歩から教えなおす事にした。

 上級魔法使いとして、国の存亡の危機で神経が擦り減るような気持ちで過ごしていたヒューゴ師匠だが、この弟子を上級魔法使いに育てる事が、きっと為になると直感的に感じたからだ。


「先ずは、集中する事を学ばないといけない」


 カスパル師匠も、その前のベケット師匠も教えたのだけど、アシュレイが自分よりも優れた魔法が使えるから、つい行儀や言葉使いを上品にする方に注意がいっていた。


 ヒューゴ師匠は、行儀や言葉遣いなどは、上級魔法使いになれば、どうとでもなると考える。


「呼吸法は習っているだろう?」


「うん! 習ったよ!」と元気よく返事をするアシュレイに笑いかける。


「では、それを頑張ってやってみよう!」


 アシュレイは、ベケット師匠に最初に教わった遣り方で、大きく息を吸って、ゆっくりと吐く! それを何回も繰り返した。


 ヒューゴ師匠は、その様子を椅子に座って観察する。


「いや、もっと、もっと吸うのだよ!」と注意すると、アシュレイは頑張って吸う。


「そう、そしてお腹に魔力を溜める感じをつかむんだ! ゆっくり、ゆっくり息を吐く」


 退屈な呼吸法の練習だけど、ヒューゴ師匠は根気強く側について指導してくれる。


 これまで、師匠について修業していたアシュレイだけど、師匠の雑用や城の雑用などもあった。


 弟子になってから、アシュレイは学問の時間以外は、ほぼずっと呼吸法ばかりしていた。


 一月が過ぎた頃、ヨーク伯爵領からお爺ちゃんとお婆ちゃんが引っ越してきた。


「王都にようこそ!」と馬車から降りる二人に飛びつくアシュレイを、ヒューゴ師匠は笑って見ている。


「お二人には、庭の手入れをお願いしたいのだが、宜しいだろうか?」


 アシュレイと一月話していたヒューゴ師匠は、祖父母も暇に暮らすのは性に合わないと気づいていた。


「そのくらいなら、させて頂きます!」と頭を下げるお爺ちゃん。


「それと、アシュレイのご飯は女将さんにお願いしたい」


「田舎の料理で良かったら!」と喜ぶお婆ちゃんに、アシュレイが抱きつく。


「お婆ちゃんの料理が食べられるんだ!」


 ヒューゴ師匠は、アシュレイが落ち着くには、祖父母の側に置いた方が良いと考えたのだ。


「お前も、祖父母と一緒に庭番の家で暮らして良い。ただし、真面目に学習と魔法の修業をしなくてはいけないよ」


 学問は、マナーと違ってすぐに教育しなくてはいけないとヒューゴ師匠は考えている。

 何故なら、アシュレイはいずれはシラス王国の上級魔法使いになるのだから。

 知識が無ければ、正しい判断はできない! 上級魔法使いが、判断を間違えると、国にとって最悪な事態になりうるのだ。


「今日は、庭番の家での暮らしが上手くいくか、ちゃんと調べなさい」


 一月ずっと呼吸法ばかりだったアシュレイは、喜んで祖父母と庭番の家を見て回る。


「まぁ、何もかも用意してあるのね!」

 お婆ちゃんは、小さな台所だけど、食材だけでなく、調理器具や薪も用意してあるのに驚き、喜んだ。


 小屋の中はお婆ちゃんに任せて、アシュレイはお爺ちゃんと庭をチェックする。

 冬なので、庭のバラも木も葉を落としている。


「自由にして良いと言われたが……菜園を作っても良いのだろうか?」

 花を育てるのも好きだが、やはり農家をずっとしていたので、新鮮な野菜とかちょこっとでも作りたいと思う。


「良いと思うよ! ヒューゴ師匠は、凄く優しいんだ! でも、表から見える所は、バラや花の方が良いかもね!」


 二人で、何を何処に植えようかと話しながら庭を見て回る。


「あっ、お婆ちゃんのシチューだ!」鼻をクンクンして、アシュレイが飛び上がって喜ぶ。


 ヒューゴ師匠の屋敷の料理は、凄く美味しいけど、アシュレイにとって一番のご馳走はお婆ちゃんのシチューだ。


 昼は、師匠と一緒の食事、朝と晩は、祖父母との食事! 落ち着きのないアシュレイの為、ヒューゴ師匠は、あれこれ考えて最善の遣り方を模索中だ。

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