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アシュレイの桜  作者: 梨香


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32/33

サミュエル卿!

 アシュレイは道に迷いヒューゴ師匠らしき魔力の塊を王宮前の噴水の縁で座って待っている。


「お前! 何をしている!」


 突然、王宮の門番に槍を突きつけられて、アシュレイは驚いた。


「何を? 俺はヒューゴ師匠を待っているんだ」


「ヒューゴ様を?」


 二人組でアシュレイの不審者尋問に来た兵は、遅ればせながら着ている黒のローブに気づく。


「貴方は、魔法使いなのか?」


 アシュレイの見た目が、もっと大人びていたら? それか、もう少し髪の毛が落ち着いていたら、もっと前に黒のローブに気づいていただろう。


 農家の少年にしか見えなかったのだ! 


「ヒューゴ様の弟子になったんだけど、屋敷がわからなくなって……」


 一瞬、魔法使いなら丁重に接しなくてはと思った二人だったが、怪しい言葉に警戒する。


「弟子なのに、屋敷がわからなくなった? 嘘をつくな!」


 また槍を突きつけられる。


「嘘じゃないよ! 今日からヒューゴ様の弟子になったばかりなんだ。ヨーク伯爵の屋敷から、ヒューゴ師匠の屋敷に行こうとしたけど、道に迷ったんだ!」


 王宮前の広場で騒いでいると、立派な馬車が通り過ぎた。


「サミュエル? あれはアシュレイではないか?」

 

 サリンジャー伯爵は、自分を救ってくれたアシュレイが門番に槍を突きつけられているのに驚く。


「何故、あんな事に? 私が事情を聞きますから、伯爵は会議に出席して下さい」


 サミュエル卿も、空を飛ばされたり、怪我をして横たわっている側に衣裳櫃を落とされたりしたけど、アシュレイに助けて貰った恩は感じている。


「ああ、彼はいずれは上級魔法使いになるのだ。助けてやってくれ!」


 サリンジャー伯爵の馬車から降りたサミュエル卿は、兵士たちに声を掛ける。


「その子は、私の恩人の魔法使いなのだ。なぜ、ここにいるのか?」


 前の言葉は、槍を突きつけている兵士に、後の質問はアシュレイに向けてだ。


「あっ、サミュエル卿! 恩人の魔法使いなのですか?」


 兵士は、すぐに槍を引いた。


「ああ、私とサリンジャー伯爵の命の恩人なのだ。アシュレイ、王都に来たのだな」


 アシュレイは、顔見知りのサミュエル卿が兵士達に自分が不審者じゃないと言ってくれてホッとする。


 空に飛んで逃げようか迷っていたのだ。


「ヒューゴ師匠の屋敷に行こうと思ったのだけど、道に迷ったんだ。王宮に大きな魔力の塊があるから、師匠がいるのだと思って、出てくるまで待っていようと……でも、兵士達に叱られちゃったよ」


 サミュエル卿は、ヒューゴ様が王宮にいるのか、いないのかは知らなかった。


「今日は、重要な会議がある。ヒューゴ様がいらっしゃるかもしれないし、いらっしゃらないかもしれない」


「でも、大きな魔力を感じたんだよぉ」


 半泣きのアシュレイだ。


「王宮には守護魔法使いのユンゲルク様いらっしゃるからな。兎に角、ここに座っていてはいけない。ヒューゴ様の屋敷なら、すぐそこだ! 送って行こう!」


「ありがとう!」


 ぴょんと飛び上がって喜ぶアシュレイに、兵士達は本当に魔法使いなのだろうかと訝しむ。

 でも、サミュエル卿がそう言うなら、自分たちは門を護るだけだ。


「ところでアシュレイは、ヒューゴ様の弟子になったのかい?」


 歩きながら質問するサミュエルに「うん!」と頷く。


「そうか、頑張って修業するのだよ! シラス王国には上級魔法使いが必要なのだから」


 行儀がなっていないアシュレイだけど、空を飛ぶのだ。祖国の危機に暗い気持ちになっていたサミュエル卿は、何だか心が明るくなった。


「うん! カスパル師匠にもそう言われたけど……なれるのかな?」


 幼い顔立ちにクルクルの巻き髪、見た目が尊敬される魔法使いらしくないのが欠点だ。


「髪の毛を伸ばして、くくればマシになるぞ」とアドバイスするが、アシュレイは今でも髪を解くのに苦労している。


「伸ばすのはちょっと……」


 そんな話をしているうちに、ヒューゴ師匠の屋敷に着いた。


「あああ、ここだよ! サミュエル卿、ありがとうございます! でも、何故知っているの?」


 首を傾げているアシュレイに、上級魔法使いの屋敷なら把握していると告げて、サミュエル卿は去っていった。


「こんにちは! アシュレイです!」


 ここの門番は、アシュレイが弟子になると聞いていたので、屋敷に入らせてくれた。


「あああ、ヒューゴ師匠じゃなかったんだ!」


 留守だったら困るなと思っていたアシュレイだけど、屋敷の奥に大きな魔力の塊があった。


 どうやら、王都には大きな魔力を持った魔法使いが多数いるみたいだとアシュレイは誤解したが、実際は三人だけだった。


 そして、アシュレイの無作法な探索を察知した、守護魔法使いのユンゲルク様は、重要な会議中に思い悩むのだった。


「誰が私に探索を掛けたのだろう?」


 自分が知っている上級魔法使いのヒューゴ様やマリオン様ではない。

 無遠慮な探索だけど、悪意は感じない。


 会議の休憩中に、サリンジャー伯爵の秘書を勤めているサミュエル卿が「ヒューゴ様の屋敷に送って来ました」と小声で報告しているのが、ユンゲルク様の耳に届いた。


 ふと、さっき探索したのは、その魔法使いではないかと、ユンゲルク様は感じた。


『幼い感じだったが……人間離れした魔力だった』


 落ち着いたヒューゴ様なら、きっと上級魔法使いに育ててくれるだろうと微笑んで、頭の痛い会議に集中する。


 北からはサリン王国とバルト王国、西からはカザフ王国、そして海からはペイザンヌ王国!


 周りを敵国に囲まれて、シラス王国は存続の危機なのだ。


 


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― 新着の感想 ―
アシュレイの成長がとても楽しみです。 戦争はいやですね。いつの時代も。 更新お待ちしております。
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