第5話
ついに実行に移そうと思った。
すぐにでも殴りかかって、復讐してやろうと心に決めていた。
直人にあんな悲しい顔をさせて、人生に絶望を与えて、いじめを受けている弟のために。
兄として、終わりを迎えてあげなければ行けない。
でも、少し躊躇した。
やっぱり、直人の意思を聞いてから実行に移そうと思った。
もしかしたら、直人はそんなことをして欲しくないかもしれない
直人が望まないことをやるのは忍びない。
だから、直人の部屋に向かって、真正面から話を聞こうと思った
もう辛い。逃げたい。人生を終わりにしたい。
そんなことを考えていた。
あれからいじめはさらにヒートアップするし、周りの人もきっと気づいているだろう。
虐められてる。と
でも、みんな自分が次のターゲットになるかもしれないと助けてはくれない。
可哀想に。と哀れんだ目で見るだけ。
決して助けようとかしない
先生だってそうだ。
俺の事を気にもしない。
先生の立場。教育委員会。
全てが重なって、見向きもしない。
学校側はいじめを認めない。
たとえ、いじめが起こっていても、知らんぷりをする
そうゆう世界なのだ。そんな世界にもう疲れた。
これ以上我慢はしたくない。
だから、今日人生に終わりを告げようと思った
そんな事しないで周りの大人に相談すればいいじゃないかと思うかもしれない。
でも、頼りにできない大人ばっかり。
お父さんは仕事でほとんど家にいない。
兄貴は俺とは話したくないくらい嫌っているし。
お母さんは俺が産まれてからすぐに病気で他界した。
頼れる大人が居ないことはこんなにも辛いのだなと思った
学校が終わり、家に帰った
引き出しの中をあさって、使うことはないだろうと思っていたサバイバルナイフを取り出した。
高校生になる時父から誕生日プレゼントで貰ったものだ
高校生になったら、大人も同然。
自分の身は自分で守る強い男になりなさい。
でも、人を傷つけるために使う道具ではないよ。
よく考えて、自分を守るためにね。
と言われて貰ったのに。
今日自分を傷つけてこの世を去る。
父さんには申し訳ないことをすると思っている。
父さんの望み通りの息子になれなくてごめん。
父さんよりも先にこの世を去ってしまってごめん。
親不孝者でごめん。
そう心に唱えて。
腕に力を込めて、首に刺そうとした。
でも、刺さらなかった。
兄貴が…兄貴の手に刺さった。
自分の首には刺さらずに兄が手を出して止めてくれた
直人の部屋に行こうと、階段を登っていると。
部屋からすすり泣くような。そんな声がした。
直人に何かあったのかと思い、急いで部屋に向かった
部屋のドアを豪快に開けて直人を見つめた
衝撃の瞬間を目に捉えた。
最初は幻かと思った。現実では無いと思った
でも、それは現実だった
直人は首にサバイバルナイフを突きつけていた
直人!!
と大きな声で呼びかけた。
やめろ!そんなことをするな!
そう言ったけど。直人は
兄ちゃん……ごめん。もう限界なんだ
そう言って、腕に力を込めて、刺そうとしていた。
覚悟を決めて、刺さる前に手を突き出した。
突き出した瞬間、痺れるような痛みを襲ったが、無事直人を救うことに成功したようだ。
直人は泣いていた。
兄ちゃん…ごめん、ごめん。
そう何度も呟いていた。
だから、大丈夫だよ。直人が助かってよかった
と伝えた。
その後はあまりにも血が出て大変だったので、弟が救急車を呼んで治療してもらった。
初めて糸で10針縫った。
正直痛かったけど、直人が居なくなって悲しむ心の痛みよりも遥かに痛くないと思い、我慢した。
直人は治療してる間もずっと泣いていて、ごめんと謝ってきた。
だから、怪我してない手でずっと頭を撫でて、大丈夫だ。もう謝るなと声をかけ続けた。
治療が終わって、家に帰って。
少し落ち着いてから。
直人から話を聞いた
酷いいじめにあっていたこと、俺が直人のことを嫌っていると思っていたこと。
頼れる人がいなくて、絶望だったこと。
それを聞いて、すごく心が痛くなった。
自分でも耐えきれないような。
酷いいじめだった。
俺は弟に転校を勧めた。
幸い家の近くには今通ってるところ以外にもう1個高校がある。
本当は殴りかかろうと思ったが、直人の話を聞いていくうちにそんなことをしても、誰も幸せにならない。
と気づいた。
だから、環境を変えて、また1からやり直してもらう方を勧めたら、直人はわかった。また1から頑張ってみる。そう言っていた。
あれから2日後。
転校した学校も始まって、直人の顔は明るくなった。
最近はよく話すようになった。
今友達になりそうな子がいるようで、その子とどうやって友達になろうか。とか、学校での楽しかったことなど。
色々話してくれて、直人も楽しそうに学生生活を送っているようで兄としても嬉しくなった。




